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王宮にて
しおりを挟む――――後日、王宮にて――――
「氷河竜だ。」
「この間の地鳴りの原因ですか?」
「そうだ……。」
国の文官、武官の上層部が円卓を囲む中、重々しく国王が口を開く。
「それは一体何なのです?聞いたことがありませんが。」
「魔物だ。地上最強の。全長100mもあるデカい魔物で300年に一度南郷湖山から北泉湖山に住処を変えるらしい。」
「全長100mの……」
「魔物……」
「そうだ……。今年がその300年目だ。どうやら先日目を覚ましたらしい。
1ヶ月ほどで住み替えのために移動を始めるだろう。」
南郷湖山と北泉湖山はこの国のちょうど南と北の端に位置する山岳地帯だ。
誰も頂上を見たことがないほど高く、険しい。
先日の雪山訓練も南郷湖山の麓から三合目のところで実施したのだ。
それでも鍛え抜かれた男たちがぎりぎり生きて帰れるレベルの過酷な環境だ。
そこから上は未知の世界。
神の領域とも呼ばれている。
「南郷湖山から北泉湖山まで移動するということは……」
「そうだ。この国の上を飛んで通過する。
氷河竜は直接人に危害を加えることはないらしいが、飛ぶ時に氷の塊を大量に落とす習性がある。
10mはある氷の塊が空を覆い尽くすほどこの国に降り注ぐことになる。」
「この国の未曾有の危機という訳ですか……。」
「王は一体どこでそれを?」
「マル秘王族秘伝の書だ。水晶がしまってあったガラクタ箱に一緒に入っていた。」
「「「………。」」」
「……ゴホン。その竜は倒す術はあるのですか?」
「いや、倒すことは不可能だ。
ライガンの1000倍は強いと書いてあった。」
「ライガンの1000倍⁉︎
ライガンですらこの国で倒せるのはランゲ殿ただ一人だというのに‼︎」
「……だが我々には聖女がいる。」
「そうだ‼︎」
「聖女様はこのために降臨されたのだ。」
「して、聖女様はどうようにして我々を救ってくださるのか?」
「王族秘伝の書によると、聖女は情を交わした男たちに力を授けてくださると……。」
「……情を交わす?」
「情を交わす。」
皆は一斉に上を向き、情を交わすの意味を頭の中に思い浮かべる。
全員一致でエロい妄想がほわわ~んと浮かび上がった。
「……っなんと⁉︎そのようなことが‼︎」
「国王‼︎それは真ですか?」
「そうだ……。300年前も聖女と情を交わした男たちがこの国の危機を救ったと残されている。」
「では今回も……。」
「そう言うことだ。」
「ですが王よ。男たちということは一人ではなかったと……?」
「300年前は選ばれし英雄10人が聖女と情を交わした。」
「では、今回そのうちの一人は私ということになる!!」
突然凛々しく立ち上がったのは王太子だ。
皆の目が一斉に王太子に向かう。
「……なぜそう思う?」
国王が片眉を上げ、訝しげに問う。
「父上、私はすでに聖女様と情を交わしております。
聖女様の力はすでに私の中に宿っていることになる。」
「なんとっ……‼︎」
「王太子ともあろう方が婚姻も交わしてない女性と交わるなどっ」
文官の年寄りたちがザワザワと騒ぎ出す。
「それであれば、私も英雄の一人に名を連ねることになる。」
次に上がった声に、今度はそちらのほうに視線が注がれる。
レオーン騎士団長だった。
「すでに2人だと……?」
「レオーン殿は既婚ではないか……。」
「……他にも聖女と情を交わしている者がいれば正直に名乗り出よ。」
「「「…………。」」」
ザワザワと囁き声がそこかしこから聞こえる中、王の威厳ある声が響き渡る。
誰も彼もが口を閉ざし、名乗り出る者がいないか固唾を飲んで見守っていた。
すると、おずおずと手を挙げる者が……1,2,3,4•••7 !?
「既に9人ではないか‼︎」
王太子を除き、いずれも聖女が自らの護衛にと選んだ見目の良い貴族の騎士団員たちであった。
「なんと………。」
「……ま、まぁ?幸いなことに彼らはこの国でも魔力の多い者たちだ。何とかなるだろう。」
一応この国の人間は魔力を保有してるが、大した量ではないことがほとんどだ。
それにコントロールが難しいので、魔力封じの腕輪の着用義務がある。
魔物相手に戦う騎士以外は生涯魔法を使う機会はない。
その点でいえば、今回は騎士団の人間ばかりが英雄として選ばれてるのはラッキーと言えばラッキーだ。
「だが、あと一人はどうする?」
「それは…………」
みんなが一斉に視線を向けるのはこの国最強の男ランゲである。
当の本人は注がれる視線を気にする素振りも見せず、どこともない場所へ目を向けている。
「ランゲ、お主しかおらぬと思うがどうだ?」
「断ります。」
王が恐る恐る声をかけると間髪入れずに返事が返ってきた。
「だがっ……」
「俺には妻がいる。他の女を抱く気はない。」
「ランゲ殿、今は国の有事であるぞ。そのようなことを言っている場合ではっ……。」
「そもそも嫁に取るよう迫ったのは貴殿らだろうが。
もう一人は俺以外から選ぶといい。」
「……っ!」
平民の……それも貧民街出身のランゲが自分達と肩を並べた地位につくことをやっかんでいる者は多い。
ちょっとした嫌がらせのつもりだったのに、ここにきてそれが仇になるとは露にも思わなかったのだ。
「ランゲ殿以外となると難しいぞ……。」
「そもそもこの国で唯一雷魔法が使えるのはランゲ殿だけだ。」
「炎魔法は地面に接している必要があるから飛んでいる竜相手では不利だ。
かと言って水魔法が氷河竜相手に効くかどうか……」
この国の人間は炎魔法か水魔法しか使えない。
ランゲだけがどうしてか雷魔法を使うことができるのだ。
相性的に考えても実力的に考えても、ランゲが適任だというのにっ‼︎
答えの出ぬまま会議は一旦そこで終了となった――
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