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 この予想外な顛末に、ミチカはパニックになった。
 なにが起こったのかよく分からず、とりあえず早く逃げなければ、と思考を放棄して本能に従った。

「あの、わたくし、急な用事を思い出しまして」
「いやいや。何の急用があるというのだ? そんな格好で外へ出たら変態だと思われるぞ」

 すたすたと足早に地下室を出るミチカの後ろにはぴたりとアーシュがついてくる。

「主(あるじ)よ、そのガウンの下は全裸だ。分かっているのか?」
「ええそうですね、ええ、そうなんですけれど」
「主が変態だと思われたら私は悲しいぞ」

 のんびりとミチカへの気遣いを見せるアーシュ。
 必死に歩いているというのに、距離はちっとも開かない。
 階段を駆けのぼる途中、気が急いたミチカは足を滑らせて、真後ろにいたアーシュの胸に抱き止められた。

「大丈夫か? 少し落ち着いたらどうだ?」
「あ、ありがとう……ええ、そうね。でも、急いでいますので」
「ああ……‬なるほど。そういうことか」

 にやりと勝手に納得しているアーシュを振り切って階段を駆け上がり、ミチカは玄関ホールへと出るが、すぐに追いかけてきたアーシュに腕を掴まれ捕らわれた。
 玄関のドアを目の前に、ミチカの希望は閉ざされた。

「離してくださいっ」
「まあ、落ち着け、主よ。よく分かったから」

 ミチカの乱れた髪を整えてやり、首筋にちゅっと口づけてから「まったく可愛い主だ」と、耳元で嬉しそうに囁くアーシュ。
 どうせロクなことを考えていないに違いないのだ、とミチカは思う。

「寝室へ行くのが待ちきれなかったのだな? 欲しがりな主め」
「だからもう、ちが……っ」

 そのまま耳たぶをはむっと咥えられて、否定の言葉は封じられた。アーシュは優雅にミチカのガウンの胸元を寛げ、手を忍ばせてくる。

「んっ、ちょ、アーシュ!」
「そんなに待ちきれないのなら、今、ここでしてやろうか?」
「そ、れは、ぜったいに嫌、です」
「なんと奥ゆかしいことだ。では玄関(ここ)がいやなら、すぐそこのゲストルームだ。そこまでなら我慢できるだろう? さあ、主、そこの廊下を右だぞ」

 ミチカは促されるまま、ふらふらと歩き出す。
 なぜか不思議と抵抗できなかった。後ろから乳を揉まれているというのに、歩けと言われてそのまま歩いてしまう。勝手に身体が動いているわけではないが、彼の命令に逆らうことができない。
 これがペナルティの強制力なのだろうか。
 アーシュが下した『あの命令』を遂行するための行動には、逆らえない——。




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