26 / 37
第1章 出会い
24. 魔力無し
しおりを挟む「…アンタを連れてきたのはね、最初はただ黒髪だったからなんだけどさ」
これまでの自分を誘拐した人だと忘れてしまいそうなくらい不自然に気の抜けた男の雰囲気が突然変わったのが分かった。
じりじりと距離を詰められて、後ずさりしても後ろで手を拘束されているせいであまり動けない。
その時、ふいに魔法の存在を思い出した。こういう時に身を守るために練習したんだから、今使わないでいつ使うんだ。
そう思ってすぐに手首の方に向かって練習通りに魔力を込めて魔法を使おうとしてみたが、何故か魔法が発動しなかった。
「…な、なんで…」
俺が目に見えて動揺していると、男はまるで当然のことであると言いたげな反応で、淡々と告げて来た。
「それ、魔力封じの拘束具だよ。まぁ黒髪の魔法使い相手に普通の拘束具を使うわけないよね」
「魔力封じ…」
そんなものがあるなんて知らなかった。
正直、魔法が使えれば怖いものなんてないと思っていた。
魔法が使えなければ、俺はただのひ弱なのに。
頼りの綱が急に失われて、一気に不安が押し寄せてきた。
目に見えて焦る俺を見て、男はやけにご機嫌な様子だった。
「はは、暗髪の魔法使いの魔法を使えない姿ってどうしてこんなに唆るんだろう」
「…あなたは、暗い髪の人を恨んでるのか?」
白髪で生まれつき魔力がないだけで、虐げられてきたなんて、あまりにも不憫で、俺はいつの間にか目の前の誘拐犯に同情してしまっていた。
そんな風に差別されてきたなら恨んで当然だ。
でも、何となく、この人から恨みの感情は伝わってこない。さっき、自身の過去を自嘲的に話していた時も、声音から憎悪は感じなかった。
「ん~そうかもね。いつも見下してる存在に何されても抵抗出来ないなんて、滑稽じゃん?だから、いつもなら適当に遊んだあとは組織に売ってたけど、アンタは他の奴らとは何か違うし、どうしようかなって思ってて」
そう言いながら突然俺に覆いかぶさってきた男は、両手を床について俺を見下ろしてきた。
「それでオレ、いいこと思いついちゃった」
白髪の男のそれまでずっと保たれていた無表情が崩れて、にんまりと口角が上がった。子供がとっておきのいたずらを思いついたような調子でそう言った男が次に発した言葉に、俺は耳を疑った。
「ねぇ、オレの子供を孕んでよ」
ーーーーーーー
次回R18です。
52
あなたにおすすめの小説
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる