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第1章 卒業後の進路
いざダンジョンヘ
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「はぁ……はぁ……」
カリンが懸念したとおり、タフィは完全に息があがっていた。
「兄やん、水どうぞ」
対してボイヤーは、ほとんど息があがっていない。
「ったく、ダンジョンに入る前にそんなに体力を消耗してどうすんのよ。もうちょっと後先考えて行動しなさいね」
「わかったよ……」
口で教えるよりも経験して覚えさせる、それがカリンの指導方針であった。
「ダンジョンに入るのは、あんたの体力が十分に回復してからだね。幸い、バカ息子は着いていないみたいだし、ゆっくり休憩しな」
カリンが言ったように、近くには馬車の姿どころか、走ってきた形跡すら見当たらなかった。
実のところ、アポロスはタフィたちが包丁を探すためにヴァーベンの村に来ているということまでは嗅ぎつけていたが、肝心な包丁の在り処までは掴んでいなかったのだ。
タフィたちの眼前に現れたのも、ただの挑発ではなく、あわよくば包丁の在り処を聞き出してやろうという狙いもあったのである。
ただ、アポロスはタフィの顔を見た瞬間、頭の中が挑発でいっぱいになってしまい、在り処を聞き出すことはすっかり忘れてしまったのだ。
「よっし、もう大丈夫だから行こう」
30分ほどの休憩を経て、タフィたちは出発した。
ダンジョンの入り口は草むらの中にあり、台形っぽい形で、ボイヤーでも余裕で入れる大きさをしていた。また、中は地中に向かって緩い坂道になっているなど、ぱっと見はほら穴にしか見えない。
「本当にこんなとこにすごい包丁があるのか?」
タフィはただのほら穴にしか思えない見た目と雰囲気に、少し失望していた。
「平地にいるダンジョンなんて大概こんなもんよ。ワクワクするようなやつに会いたいんだったら、極地みたいなところに行かないとね。そもそも、今回はお宝探しなんだから、隠し場所が合ってればそれでいいのよ」
カリンを先頭に、タフィ、ボイヤーの順でダンジョンの中へと入っていく。
「洞窟みたいに真っ暗じゃねぇんだな」
内部は薄暗いといった感じで、なんとか本を読める程度の明るさがある。
「この光は温光といって、中の温度を一定に保つために光ってるらしいです」
「ふーん……」
ボイヤーは気を利かせて説明したのだが、タフィは明るさの理由などどうでもいいようだ。
「あんたたち気をつけな。そろそろモンスターが出てくるだろうから」
広い空間に出たところで、カリンは注意を促す。
「なんでわかるの?」
「そんなの経験と勘よ……って言っちゃえばそれまでだけど。昨日ボイヤーが言ってたように、モンスターは抗体みたいなもんだから、うちらみたいな異物が侵入してきたってわかったら、排除するために現れてくんのよ。……あんな感じでね」
カリンが槍で指した先にいたのは、きれいな立方体の形をした岩のモンスターだ。
「なんだ、あのサイコロのおばけみたいなのは?」
「あれはキューブ。サイコロみたいに転がって、侵入者を押しつぶそうとしてくるのっ」
カリンは言い終えると同時に槍を投げた。
槍はズバンっと勢いよくキューブに突き刺さり、そのまま四方にヒビが入ってバラバラと崩れ落ちた。
「おっ、一撃で倒した」
「キューブは図体がでかいだけの雑魚だからね。ああいうのが、これから先どんどんと出てくるから」
「っしゃあ!」
タフィは気合を入れるかのようにブンブンと素振りを始めた。
「……気が済んだ?」
「おう」
「じゃあ、どれに進むか決めて」
タフィたちがいる場所は分岐点ようになっており、その先には通路が4つあった。
「俺が決めんの?」
「当たり前でしょ、あんたのお宝探しなんだから。まごまごしてると……ほぉら、出てきた」
通路のひとつから土の色をしたスライムが姿を現した。
「ネンドスライム」
ボイヤーはつぶやくように名前を口にした。
「そう。あいつはネバネバの粘液を飛ばしてくるうえに、打撃系の攻撃は相性が悪いのよね。だからボイヤー、あいつはあんたが倒してきて」
「はい」
ボイヤーは素直にカリンの指示に従い、スライムを豪快にブレスで焼き払った。
「やっぱりスライムは焼くのが一番よね。……で、どれに進むの?」
カリンは、腕組みしながら悩んでいるタフィに視線を向けた。
「うーん……決めた、あの右から2番目の道にする」
「オッケー。じゃ、こっからはあんたが先頭ね」
「え、俺先頭なの?」
タフィは表情を曇らせる。気合は十分だったが、初めてのダンジョンに対する不安を完全に覆い隠すことまではできていなかった。
「さっきも言ったけど、これはあんたのお宝探しなの。あれ、もしかしてビビってる?」
カリンは意地の悪い笑みを浮かべた。
「ビビってねぇよ。おい、行くぞボイヤー」
「はい」
タフィを先頭にして、ボイヤーとカリンも奥へ向かって通路を歩いていった。
カリンが懸念したとおり、タフィは完全に息があがっていた。
「兄やん、水どうぞ」
対してボイヤーは、ほとんど息があがっていない。
「ったく、ダンジョンに入る前にそんなに体力を消耗してどうすんのよ。もうちょっと後先考えて行動しなさいね」
「わかったよ……」
口で教えるよりも経験して覚えさせる、それがカリンの指導方針であった。
「ダンジョンに入るのは、あんたの体力が十分に回復してからだね。幸い、バカ息子は着いていないみたいだし、ゆっくり休憩しな」
カリンが言ったように、近くには馬車の姿どころか、走ってきた形跡すら見当たらなかった。
実のところ、アポロスはタフィたちが包丁を探すためにヴァーベンの村に来ているということまでは嗅ぎつけていたが、肝心な包丁の在り処までは掴んでいなかったのだ。
タフィたちの眼前に現れたのも、ただの挑発ではなく、あわよくば包丁の在り処を聞き出してやろうという狙いもあったのである。
ただ、アポロスはタフィの顔を見た瞬間、頭の中が挑発でいっぱいになってしまい、在り処を聞き出すことはすっかり忘れてしまったのだ。
「よっし、もう大丈夫だから行こう」
30分ほどの休憩を経て、タフィたちは出発した。
ダンジョンの入り口は草むらの中にあり、台形っぽい形で、ボイヤーでも余裕で入れる大きさをしていた。また、中は地中に向かって緩い坂道になっているなど、ぱっと見はほら穴にしか見えない。
「本当にこんなとこにすごい包丁があるのか?」
タフィはただのほら穴にしか思えない見た目と雰囲気に、少し失望していた。
「平地にいるダンジョンなんて大概こんなもんよ。ワクワクするようなやつに会いたいんだったら、極地みたいなところに行かないとね。そもそも、今回はお宝探しなんだから、隠し場所が合ってればそれでいいのよ」
カリンを先頭に、タフィ、ボイヤーの順でダンジョンの中へと入っていく。
「洞窟みたいに真っ暗じゃねぇんだな」
内部は薄暗いといった感じで、なんとか本を読める程度の明るさがある。
「この光は温光といって、中の温度を一定に保つために光ってるらしいです」
「ふーん……」
ボイヤーは気を利かせて説明したのだが、タフィは明るさの理由などどうでもいいようだ。
「あんたたち気をつけな。そろそろモンスターが出てくるだろうから」
広い空間に出たところで、カリンは注意を促す。
「なんでわかるの?」
「そんなの経験と勘よ……って言っちゃえばそれまでだけど。昨日ボイヤーが言ってたように、モンスターは抗体みたいなもんだから、うちらみたいな異物が侵入してきたってわかったら、排除するために現れてくんのよ。……あんな感じでね」
カリンが槍で指した先にいたのは、きれいな立方体の形をした岩のモンスターだ。
「なんだ、あのサイコロのおばけみたいなのは?」
「あれはキューブ。サイコロみたいに転がって、侵入者を押しつぶそうとしてくるのっ」
カリンは言い終えると同時に槍を投げた。
槍はズバンっと勢いよくキューブに突き刺さり、そのまま四方にヒビが入ってバラバラと崩れ落ちた。
「おっ、一撃で倒した」
「キューブは図体がでかいだけの雑魚だからね。ああいうのが、これから先どんどんと出てくるから」
「っしゃあ!」
タフィは気合を入れるかのようにブンブンと素振りを始めた。
「……気が済んだ?」
「おう」
「じゃあ、どれに進むか決めて」
タフィたちがいる場所は分岐点ようになっており、その先には通路が4つあった。
「俺が決めんの?」
「当たり前でしょ、あんたのお宝探しなんだから。まごまごしてると……ほぉら、出てきた」
通路のひとつから土の色をしたスライムが姿を現した。
「ネンドスライム」
ボイヤーはつぶやくように名前を口にした。
「そう。あいつはネバネバの粘液を飛ばしてくるうえに、打撃系の攻撃は相性が悪いのよね。だからボイヤー、あいつはあんたが倒してきて」
「はい」
ボイヤーは素直にカリンの指示に従い、スライムを豪快にブレスで焼き払った。
「やっぱりスライムは焼くのが一番よね。……で、どれに進むの?」
カリンは、腕組みしながら悩んでいるタフィに視線を向けた。
「うーん……決めた、あの右から2番目の道にする」
「オッケー。じゃ、こっからはあんたが先頭ね」
「え、俺先頭なの?」
タフィは表情を曇らせる。気合は十分だったが、初めてのダンジョンに対する不安を完全に覆い隠すことまではできていなかった。
「さっきも言ったけど、これはあんたのお宝探しなの。あれ、もしかしてビビってる?」
カリンは意地の悪い笑みを浮かべた。
「ビビってねぇよ。おい、行くぞボイヤー」
「はい」
タフィを先頭にして、ボイヤーとカリンも奥へ向かって通路を歩いていった。
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