紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

文字の大きさ
4 / 86
第1章 北条家騒動

鳥の名前と国の名前

しおりを挟む
「でかっ!」

 辰巳は間近で倒れている鳥の姿を見て、改めてその大きさに驚いた。

 体高はおよそ三メートル、お腹や脚の付け根辺りは白い毛で覆われているが、それ以外は灰色の毛で覆われている。太くたくましい長脚を備えている一方で、翼は体に比べて大分小さい。また、一メートルはあろうかという大きな頭を持ち、先端がフック状になった強力なくちばしを有していた。

「鳥というより、恐竜みたいだな。この鳥、なんていう名前なの?」

 辰巳の疑問に夏が答える。

「バクロチョウです」

「ばくろちょう? なんか地名みたいな名前だな。……まぁ、普通に考えれば、馬を食べるからって感じなんだろうけど」

「えっと……たぶん、そうだと思います」

 辰巳から視線を向けられると、夏は自信なさげに答えた。

 実際、バクロチョウはその強靭な脚で馬を蹴り倒し、鋭いくちばしでとどめを刺してその肉を食している。馬以外の肉も食していたが、語呂の良さから、バクロチョウの名が定着していた。

「……ということは、言葉はほぼ同じってことか」

 会話が成り立っていることを含めて、辰巳は夏が日本語とほぼ同じ言葉を話しているのだと確信した。

 辰巳が鳥の名前を確認している一方で、ユノウは鳥の体を確認していた。

「思ったほど傷ついてないみたいね」

 攻撃が直撃したのか、首が大きく損傷していたものの、それ以外の場所に大きな外傷は見受けられない。

「持っていくって言ってたけどさ、こんなでっかいのどうやって持っていくの?」

「まぁ、見ててくださいよ」

 ユノウはレッグポーチを開けると、バクロチョウの体を軽く引っ張った。
 すると、その巨体は吸い込まれるようにレッグポーチの中に納まってしまった。

「おおっ! それって、アイテムボックスとかいうやつ?」

 ゲームなどではお馴染みのマジックアイテムの登場に、辰巳は少しテンションが上がる。

「そうです。よくご存じで」

「ラノベやゲームとかで、こういうものはよく出てくるからさ」

「作品によっては次元収納とか無限収納なんて言い方もしますけど、これもそれに似た類のものですよ」

「やっぱり、その手のアイテムって高いの?」

「高いですね。一番容量が小さいものでも、何百万単位ですから」

 ユノウの言葉を証明するかのように、夏が反応を示す。

「すごいです! これって千両袋ですよね。私初めて見ました」

 夏の言葉に、今度は辰巳が反応した。

「せんりょうぶくろ? “せんりょう”っていうのは、値段のこと?」

「はい。すごい高いものだから、千両袋とか大名袋なんていう名前で呼ばれているんです。ただ、売っているところを見たことがないので、本当に千両もするのかどうかはわからないですけど」

「なるほど」

 辰巳にとって、“せんりょう”という言葉が値段を意味し、しかも高額であるということを確認できたことは大きかった。
 それは夏の話す言葉や着ている服から、「この辺りの文化は日本の戦国時代や江戸時代に近いものなのではないか」という辰巳の推測を、大きく後押しするものだったからだ。

 そしてユノウも、ようやくここがどこであるのか見当がついた。

「……あっ、ここ倭国わこくか。ねぇねぇ夏さん、ここって倭国だよね」

「え、そうですけど」

 いきなり国名を確認されたので、夏は少し戸惑い気味に答えた。

「やっぱりそうかぁ。……辰巳さん、ちょっとこっちへ」

 ユノウは夏に会話を聞かれないよう、ちょっと離れたところに辰巳を呼んだ。

「何?」

「ここがどこかわかりました」

「え、どこなの?」
(まぁ、地名を言われたところで、異世界じゃどこだかわからないんだけどね)

 言葉とは裏腹に、辰巳はそれほど関心を抱いていなかった。

 が、ユノウが言葉を発した瞬間、それが一変する。

「倭国です」

「わ、倭国!?」

 その名を聞いて辰巳は驚いた。それは、かつて日本が名乗っていたとされる呼称だったからだ。

 ちなみに、ユノウが夏に国名を確認していたのを、辰巳は聞いていなかった。

「まぁ、そういう反応になりますよね。名前からなんとなく想像できると思いますが、日本にそっくりな島国です。あたしも実際に来るのは初めてですけど、本とかに書かれていた感じだと、戦国・江戸あたりの日本に魔法を混ぜたような、それこそ、異世界版日本って感じの国ですね」

「異世界版日本……。さっき“大名袋”って言っていたけど、この世界にも信長や家康みたいな戦国大名がいるってことかな?」

「さぁ? あたしも倭国については簡単なことしか知りませんので」

「じゃあ、夏さんに聞いてみるか」

「ストップストップ。聞くんだったら、ちょっと間をおいた方が良いかもしれません」

「なんで?」

「あたしの格好とさっきの質問で、もしかしたら怪しんでるかもしれないんで……」

 倭国の文化が戦国あたりの日本と同じようなものだとすれば、ユノウの格好は明らかに違和感がある。今は命を助けたという事実によって、恩義が怪しさを封じ込めてはいるが、この先対応を間違えれば、怪しさが吹き出る危険性があった。

「考えてみてください。例えば群馬あたりの山の中で、奇抜な格好をした人に『ここは日本ですか?』って聞かれたらどう思います?」

「怪しむね」

「でしょ」

「……じゃあ、なんで聞いたの?」

「言ってから気がついたんで……てへっ」

「……」

 ユノウは可愛らしくペロッと舌を出してみせたが、辰巳から向けられた視線はとても冷たいものだった。

 だが、ユノウは気にすることなく話を続ける。

「けど、心配しないでください。あたしこういう状況とか慣れてますから。それに、着物姿の辰巳さんがいるんで、多少は怪しさが中和されてると思いますよ。だから、安心してご飯食べに行きましょう」

「大丈夫かな……」

 ユノウは不安ゼロの笑顔で断言したが、辰巳は安心できなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...