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第1章 北条家騒動
ザリガニでちょいと一杯
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「いらっしゃい」
威勢よく出迎えたのは、若草色の三角巾をかぶった黒髪ロングの若い女性だ。
「夏さん奥にいます?」
「夏? あ、もしかしてお客さん、夏のことを助けてくれた人?」
「はい」
ユノウがうなずくと、その女性はユノウの手をギュッと握った。
「話は聞いてるよ。妹を助けてくれてありがとう。私、姉の咲です」
「冒険者のユノウです」
「旅芸人の辰巳です」
「夏だったら、奥の台所にいるから」
台所へ行くと、夏が料理を作り、文が燗酒を作っていた。
「こんばんは」
「どうも」
「あ、ユノウさん、辰巳さん、いらっしゃいませ」
夏は料理の手を止め、二人の方へ向き直した。
「夏さん、ちょっとお願いがあるんだけど。森で獲ったザリガニ、あれを料理してもらえないかな?」
「構いませんよ」
「ありがとう。じゃあ……」
ユノウは台所を見回したが、巨大なザリガニを出せるようなスペースは見当たらない。
「あ、ザリガニは外にお願いします」
「わかった」
ユノウは夏と一緒に裏口から外へ出ると、そこにモクメザリガニを取り出した。
「余った分はお店にあげるから、自由に使って」
「いいんですか?」
「あたしが持ってても、どうせ持て余すだけだからさ。遠慮せずもらっちゃって」
「ありがとうございます。腕によりをかけて、おいしいもの作らせてもらいます」
夏は声を弾ませた。
「あと、この薬草を採りたいんだけど、生えてる場所知ってる?」
ユノウは夏に依頼書を見せた。
「アオタネソウですか……それなら心当たりがあります。良かったら、明日も食材を採りに行きますので、その場所に連れて行きますよ」
「ほんと、ありがとう。薬草を探すのって結構面倒なのよね。じゃあ、朝一でここに来ればいい?」
「はい、お待ちしてます」
「じゃ、料理楽しみにしてるから」
ユノウは中に戻ると、熱燗を二本注文して、先に席へ着いていた辰巳の隣に腰を下ろした。
「ばっちりです」
ユノウは辰巳に向かって右手の親指を立ててみせた。
「え、何が?」
「何がって、料理と薬草に決まってるじゃないですか。夏さんに聞いたら、生えてる場所を知ってるそうです」
「おっ、やっぱり知ってた」
「はい。それで明日なんですけど……」
会話の途中で、文が注文したお酒を運んできた。
「お待たせしました、熱燗です。……どうぞごゆっくり」
文は徳利二本と猪口二つを長椅子の上に置いた。
「はい、どうぞ」
ユノウは徳利を持つと、辰巳の猪口に酒を注いだ。
「おっと。じゃあ、お返しに」
今度は辰巳がユノウの猪口に酒を注ぐ。
「とりあえず、お疲れ様でした」
「お疲れ」
二人はグイっと酒を飲み干した。
「ふぅ~。で、明日なんですけど、夏さんと一緒に森へ行くことになりましたから」
ユノウは話しながら辰巳の猪口に酒を注ぐと、辰巳もユノウの猪口に酒を注ぎ返した。
「あ、連れてってくれるんだ。それは助かるね」
「だから、明日は朝一でここに来ます」
「朝一って、いつ? まさか日の出じゃないよね?」
時計がないので、辰巳は具体的にそれがいつなのかわからなかった。
「いえ、それは……」
ユノウがしゃべろうとした時、「ゴーンゴーンゴーン」と鐘の音が聞こえてきた。
「ほら、今聞こえてきたじゃないですか。ああやって朝の六時と九時、昼の一二時と三時、夜の六時と九時に鐘が三回鳴らされるらしいので、あれが鳴った後くらいですかね」
「ふーん。けど、それだと朝起きるの厳しくない? だって鐘が鳴る前に起きてなきゃいけないんでしょ。俺感覚だけで五時頃に起きるとか、そんな器用なことできないんだけど」
「心配しないでください、これがありますから」
ユノウが取り出したのは、大きなベルがついたアナログ式の目覚まし時計だ。
「確かにこれがあれば起きられそうだけど、使えるの?」
「時間の流れは地球と一緒なんで、時刻を合わせれば使えます。……今さっき鐘が鳴ったんで、六時一分くらいですかね」
ユノウがパパっと目覚まし時計の時刻を調整し終えると、タイミング良く咲が料理を運んできた。
「お待ちどおさま。モクメザリガニの刺身です」
咲は大皿に盛られた刺身と醤油、そして箸を長椅子の上に置いた。
「おぉ、これ何人前あるんだ?」
食べやすい大きさに切られたモクメザリガニの身が、大皿一面に盛りつけられていた。
「さ、辰巳さん食べてみてください」
「いただきます」
辰巳は薄桃色をした身に軽く醤油をつけると、口に放り込んだ。
「うまっ」
「ね、あたしが獲りにいった理由がわかるでしょ」
辰巳は笑顔でうなずくと、酒を口に運んだ。
「お待たせしました。モクメザリガニの塩焼きです」
文が料理を置くと、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「匂いだけでうまいのがわかるね」
辰巳は熱々の身を口に入れた。
「うん、うまいっ!」
「おいしーっ」
ユノウは身を食べると、すぐに口で猪口を迎えにいった。
二人が美味しいお酒と料理に舌鼓を打っていると、派手な色合いの着物に身を包んだ、見るからにガラの悪そうな三人組の男たちが店へ入ってきた。
威勢よく出迎えたのは、若草色の三角巾をかぶった黒髪ロングの若い女性だ。
「夏さん奥にいます?」
「夏? あ、もしかしてお客さん、夏のことを助けてくれた人?」
「はい」
ユノウがうなずくと、その女性はユノウの手をギュッと握った。
「話は聞いてるよ。妹を助けてくれてありがとう。私、姉の咲です」
「冒険者のユノウです」
「旅芸人の辰巳です」
「夏だったら、奥の台所にいるから」
台所へ行くと、夏が料理を作り、文が燗酒を作っていた。
「こんばんは」
「どうも」
「あ、ユノウさん、辰巳さん、いらっしゃいませ」
夏は料理の手を止め、二人の方へ向き直した。
「夏さん、ちょっとお願いがあるんだけど。森で獲ったザリガニ、あれを料理してもらえないかな?」
「構いませんよ」
「ありがとう。じゃあ……」
ユノウは台所を見回したが、巨大なザリガニを出せるようなスペースは見当たらない。
「あ、ザリガニは外にお願いします」
「わかった」
ユノウは夏と一緒に裏口から外へ出ると、そこにモクメザリガニを取り出した。
「余った分はお店にあげるから、自由に使って」
「いいんですか?」
「あたしが持ってても、どうせ持て余すだけだからさ。遠慮せずもらっちゃって」
「ありがとうございます。腕によりをかけて、おいしいもの作らせてもらいます」
夏は声を弾ませた。
「あと、この薬草を採りたいんだけど、生えてる場所知ってる?」
ユノウは夏に依頼書を見せた。
「アオタネソウですか……それなら心当たりがあります。良かったら、明日も食材を採りに行きますので、その場所に連れて行きますよ」
「ほんと、ありがとう。薬草を探すのって結構面倒なのよね。じゃあ、朝一でここに来ればいい?」
「はい、お待ちしてます」
「じゃ、料理楽しみにしてるから」
ユノウは中に戻ると、熱燗を二本注文して、先に席へ着いていた辰巳の隣に腰を下ろした。
「ばっちりです」
ユノウは辰巳に向かって右手の親指を立ててみせた。
「え、何が?」
「何がって、料理と薬草に決まってるじゃないですか。夏さんに聞いたら、生えてる場所を知ってるそうです」
「おっ、やっぱり知ってた」
「はい。それで明日なんですけど……」
会話の途中で、文が注文したお酒を運んできた。
「お待たせしました、熱燗です。……どうぞごゆっくり」
文は徳利二本と猪口二つを長椅子の上に置いた。
「はい、どうぞ」
ユノウは徳利を持つと、辰巳の猪口に酒を注いだ。
「おっと。じゃあ、お返しに」
今度は辰巳がユノウの猪口に酒を注ぐ。
「とりあえず、お疲れ様でした」
「お疲れ」
二人はグイっと酒を飲み干した。
「ふぅ~。で、明日なんですけど、夏さんと一緒に森へ行くことになりましたから」
ユノウは話しながら辰巳の猪口に酒を注ぐと、辰巳もユノウの猪口に酒を注ぎ返した。
「あ、連れてってくれるんだ。それは助かるね」
「だから、明日は朝一でここに来ます」
「朝一って、いつ? まさか日の出じゃないよね?」
時計がないので、辰巳は具体的にそれがいつなのかわからなかった。
「いえ、それは……」
ユノウがしゃべろうとした時、「ゴーンゴーンゴーン」と鐘の音が聞こえてきた。
「ほら、今聞こえてきたじゃないですか。ああやって朝の六時と九時、昼の一二時と三時、夜の六時と九時に鐘が三回鳴らされるらしいので、あれが鳴った後くらいですかね」
「ふーん。けど、それだと朝起きるの厳しくない? だって鐘が鳴る前に起きてなきゃいけないんでしょ。俺感覚だけで五時頃に起きるとか、そんな器用なことできないんだけど」
「心配しないでください、これがありますから」
ユノウが取り出したのは、大きなベルがついたアナログ式の目覚まし時計だ。
「確かにこれがあれば起きられそうだけど、使えるの?」
「時間の流れは地球と一緒なんで、時刻を合わせれば使えます。……今さっき鐘が鳴ったんで、六時一分くらいですかね」
ユノウがパパっと目覚まし時計の時刻を調整し終えると、タイミング良く咲が料理を運んできた。
「お待ちどおさま。モクメザリガニの刺身です」
咲は大皿に盛られた刺身と醤油、そして箸を長椅子の上に置いた。
「おぉ、これ何人前あるんだ?」
食べやすい大きさに切られたモクメザリガニの身が、大皿一面に盛りつけられていた。
「さ、辰巳さん食べてみてください」
「いただきます」
辰巳は薄桃色をした身に軽く醤油をつけると、口に放り込んだ。
「うまっ」
「ね、あたしが獲りにいった理由がわかるでしょ」
辰巳は笑顔でうなずくと、酒を口に運んだ。
「お待たせしました。モクメザリガニの塩焼きです」
文が料理を置くと、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「匂いだけでうまいのがわかるね」
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