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第1章 北条家騒動
招かれざる客
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「いらっしゃ……」
彼らを見た途端、咲から笑顔が消えた。
「よぉ、借金の回収に来たぜ」
言ったのは無精髭を生やした小太りの男で、腰には刀とひょうたんがぶら下がっていた。
「回収? 今月分の期日はまだ先じゃないかい」
咲は強めの口調で言い返した。
「予定が変わったんだ。今すぐ払ってもらおうじゃないか」
「急に言われたって払えないよ」
「払えないんだったら、奥にいる娘を連れていくだけさ」
男がドスの効いた声で脅し文句を言うや、一人で酒を嗜んでいた侍がスッと立ち上がった。
「先ほどから聞いていれば、随分と乱暴な物言いだな」
「なんだてめぇは!」
「私はただの冒険者だ。目の前で人さらいが起きそうになっているので、止めに入らせてもらっただけだ」
侍は薄緑色の着物に赤い陣羽織を羽織り、冒険者とは思えない気品を漂わせていた。
「人さらい? 勘違いしてもらっちゃあ困るな。俺はただ、貸した金を返してくれって言ってるだけだよ。金さえ返してくれれば、俺たちはおとなしく帰るさ」
わざとらしい笑みを浮かべながら話す男の後ろでは、子分と思われる二人が、脅すように鎖鎌と小刀を見せつけている。
「ほぉ、勘違いか? 仲間の二人を見ると、そうは思えんのだがね」
穏やかな口調の一方で、侍は左手で腰に差した刀の鞘を持ちながら、「いつでも抜けるぞ」と男たちを牽制している。
一瞬にして、店内は不穏な空気に支配された。
「おいおい、これヤバいんじゃないか」
楽しい酒の席が一変、辰巳はすっかり酔いがさめてしまった。
「辰巳さん、急いで場が和むようなものを切ってください」
「え?」
「このままだと刃傷沙汰が起こっちゃいますよ。ほら、いいから早く切ってください」
「わ、わかったよ。えっと、和みそうなもの和みそうなもの……」
辰巳はアタッシュケースから紙とハサミを取り出すと、大急ぎで場が和みそうなものの形を切り上げた。
「よし。出でよ、陽気に踊る人」
そう言って現れたのは、浴衣にねじり鉢巻き、“祭”と書かれた団扇を右手に持った、見るからに陽気そうな男だった。
「あっしを呼んだのはどちら様でございましょうか」
「俺俺。なんでもいいから、急いでこの場を和ませて」
「へい。では、音の方をお願いします」
「音? 音ってなんでもいいの?」
「ようござんす。『炭坑節』でも『オクラホマミキサー』でも、なんでも構いません。なんなら、適当に弾いたものでも合わせて踊りますから」
「だってさ、ユノウ」
辰巳は楽器を弾けないので、必然的にユノウの役割となる。
「わかりました」
ユノウは三味線を取り出して軽く調子を合わせると、適当に音頭調の曲を弾き始めた。
「さぁさヨイヨイ。あ、ソレ、ソレ、ソレ、ヨイヨイヨイヨイ。ヨイサッ、ヨイサッ」
曲に合わせて、男は歌いながら踊り始めた。
さらに、陽気さを上乗せするため、辰巳も手拍子をし始める。
「て、てめぇら、俺たちを馬鹿にしてるのか!」
「これは一体……」
眼前で繰り広げられる急展開すぎる状況に、無精髭の男と侍は困惑した。
「さぁさ、みなさんご陽気に。ヨイサッ、ヨイサッ。ソレソレソレソレ」
男はそんなことなど全く気にもせず、満面の笑みで見事な踊りを披露する。
すると、陽気な空気にのまれるように、咲が手拍子を始め、続いて台所から様子をうかがっていた文と夏が、そして侍がつられるように手拍子を始めた。
「踊って踊って皆笑顔」
男の踊りに皆が魅入られていくなか、無精髭の男は頑なに手拍子をしようとはしなかった。
が、子分と思われる二人はあっさりと陥落した。
「馬鹿野郎。お前らまで手拍子してどうすんだよ」
「すいません、兄貴」
「面目ねぇ……」
店内はすっかり陽気な空気に支配されており、脅しや暴力が通じるような感じは一切ない。
「……ったく、出直すぞ。てめぇら覚えとけよ!」
悔しそうに捨て台詞を吐くと、男たちは店を出ていった。
彼らを見た途端、咲から笑顔が消えた。
「よぉ、借金の回収に来たぜ」
言ったのは無精髭を生やした小太りの男で、腰には刀とひょうたんがぶら下がっていた。
「回収? 今月分の期日はまだ先じゃないかい」
咲は強めの口調で言い返した。
「予定が変わったんだ。今すぐ払ってもらおうじゃないか」
「急に言われたって払えないよ」
「払えないんだったら、奥にいる娘を連れていくだけさ」
男がドスの効いた声で脅し文句を言うや、一人で酒を嗜んでいた侍がスッと立ち上がった。
「先ほどから聞いていれば、随分と乱暴な物言いだな」
「なんだてめぇは!」
「私はただの冒険者だ。目の前で人さらいが起きそうになっているので、止めに入らせてもらっただけだ」
侍は薄緑色の着物に赤い陣羽織を羽織り、冒険者とは思えない気品を漂わせていた。
「人さらい? 勘違いしてもらっちゃあ困るな。俺はただ、貸した金を返してくれって言ってるだけだよ。金さえ返してくれれば、俺たちはおとなしく帰るさ」
わざとらしい笑みを浮かべながら話す男の後ろでは、子分と思われる二人が、脅すように鎖鎌と小刀を見せつけている。
「ほぉ、勘違いか? 仲間の二人を見ると、そうは思えんのだがね」
穏やかな口調の一方で、侍は左手で腰に差した刀の鞘を持ちながら、「いつでも抜けるぞ」と男たちを牽制している。
一瞬にして、店内は不穏な空気に支配された。
「おいおい、これヤバいんじゃないか」
楽しい酒の席が一変、辰巳はすっかり酔いがさめてしまった。
「辰巳さん、急いで場が和むようなものを切ってください」
「え?」
「このままだと刃傷沙汰が起こっちゃいますよ。ほら、いいから早く切ってください」
「わ、わかったよ。えっと、和みそうなもの和みそうなもの……」
辰巳はアタッシュケースから紙とハサミを取り出すと、大急ぎで場が和みそうなものの形を切り上げた。
「よし。出でよ、陽気に踊る人」
そう言って現れたのは、浴衣にねじり鉢巻き、“祭”と書かれた団扇を右手に持った、見るからに陽気そうな男だった。
「あっしを呼んだのはどちら様でございましょうか」
「俺俺。なんでもいいから、急いでこの場を和ませて」
「へい。では、音の方をお願いします」
「音? 音ってなんでもいいの?」
「ようござんす。『炭坑節』でも『オクラホマミキサー』でも、なんでも構いません。なんなら、適当に弾いたものでも合わせて踊りますから」
「だってさ、ユノウ」
辰巳は楽器を弾けないので、必然的にユノウの役割となる。
「わかりました」
ユノウは三味線を取り出して軽く調子を合わせると、適当に音頭調の曲を弾き始めた。
「さぁさヨイヨイ。あ、ソレ、ソレ、ソレ、ヨイヨイヨイヨイ。ヨイサッ、ヨイサッ」
曲に合わせて、男は歌いながら踊り始めた。
さらに、陽気さを上乗せするため、辰巳も手拍子をし始める。
「て、てめぇら、俺たちを馬鹿にしてるのか!」
「これは一体……」
眼前で繰り広げられる急展開すぎる状況に、無精髭の男と侍は困惑した。
「さぁさ、みなさんご陽気に。ヨイサッ、ヨイサッ。ソレソレソレソレ」
男はそんなことなど全く気にもせず、満面の笑みで見事な踊りを披露する。
すると、陽気な空気にのまれるように、咲が手拍子を始め、続いて台所から様子をうかがっていた文と夏が、そして侍がつられるように手拍子を始めた。
「踊って踊って皆笑顔」
男の踊りに皆が魅入られていくなか、無精髭の男は頑なに手拍子をしようとはしなかった。
が、子分と思われる二人はあっさりと陥落した。
「馬鹿野郎。お前らまで手拍子してどうすんだよ」
「すいません、兄貴」
「面目ねぇ……」
店内はすっかり陽気な空気に支配されており、脅しや暴力が通じるような感じは一切ない。
「……ったく、出直すぞ。てめぇら覚えとけよ!」
悔しそうに捨て台詞を吐くと、男たちは店を出ていった。
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