紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第1章 北条家騒動

詰むか詰まないか

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「うーん……3三角成か」

 仁仙が指南書を見ながら将棋を指していると、慌てた様子で美影がやって来た。

「た、大変です」

「なんだ?」

「例の飯屋が襲われたようです」

「ほぉ。で、ご落胤殿は無事なのか?」

 仁は表情を変えることなく詰将棋を続ける。

「はい。直道と奈々、あと知り合いと思われる方々とともに、直孝様のお部屋にいらっしゃいます」

「そうか。……ところで、ご家老はご落胤の事実を知っているような感じだったか?」

「……そのことなんですが、お部屋には、京平きょうへいさんの姿もあったんです」

 その名を聞いて、駒を指そうとした手が止まる。

「間違いないのか?」

 京平は仁の部下で、夏を見張るように命じられていた。

「あのかっぱのような髪型は、京平さんに間違いありません。ただ、京平さんが裏切るなんて、とても信じられません」

 美影にとって、京平は色々と面倒をみてもらった良き先輩だったので、そのショックは大きい。

「確かに信じがたいことだ。だが、それを示すような事実がある以上、受け入れるしかないな」

 仁は持っていた駒をパチリと指すと、頬杖をついてしばらく盤上をじっと見つめた後、大きく息を吐いた。

「……そうか、京平を取られたか。うーん、京平を取られたとしたら、これは詰んだかもしれないな」

 仁はそうつぶやきながら盤上の飛車をつまみ上げて、駒台の上に置いた。

「お頭、ここは草月院様を頼りましょう。今、お呼びしてまいりますので」

 美影は仁の返答を待つことなく、部屋を飛び出していこうとした。

「待て、その必要はない」

「どうしてですか? 草月院様は必ずお頭のことを擁護してくれるはずです」

 美影の言うように、草月院は仁の占いに傾倒しており、処断されそうになっているとわかれば、理由の如何を問わず、擁護するのは確実である。しかも城主の生母の懇願となれば、重臣といえども無視できないはずだからだ。

「擁護されたところで、その場しのぎにしかならない。諸々の事情が明らかになれば、いかに重政様であっても、母親の要望を退けるであろう。それより、万一の時はすぐに逃げ出すよう、急ぎ各人に伝えてきてくれるか」

 仁は、潮時が迫りつつあると判断した。

「お頭はどうするんです?」

「俺はとりあえずご家老のお相手かな。来ないことを祈りたいが、そのうちお招きの声がかかるだろうからさ」

「わかりました、皆に申し伝えておきます。では、私はこれで」

 美影はがっかりした様子で部屋を後にした。

「思っていた以上に、あいつは忍者隊の再興に期待を抱いていたんだな」

 仁は申し訳ない気持ちになった。

 元々今回の企てにおいて、仁たちの主たる目的は忍者隊の再興であり、副目標的なものとして北条家への嫌がらせが存在していた。

 ところが時が経つにつれて、仁の中でそれぞれの比重が変化していき、今や完全に入れ代わってしまっていたのだ。

 そのため、忍者隊再興の芽が潰えようとしている状況にあっても、それほどショックは大きくなかった。

「事が落ち着いたら、櫛のひとつでも買ってやるかな」

 そんな風に独り言をつぶやきながら将棋を指していると、使いの者がやって来て、直孝が呼んでいることを告げた。

「……祈り届かずか」

 仁は持っていた歩を駒台の上に置くと、直孝の部屋へと向かった。
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