紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

文字の大きさ
40 / 86
第1章 北条家騒動

しゃべるものども

しおりを挟む
「いかにも、儂は壺である」

「しゃべった」

 辰巳は念のために壺を持って調べてみたが、しゃべること以外に変わった点は見受けられなかった。

「お主、いきなりジロジロと見回すのは失礼ではないか」

「すいません」

 辰巳は壺をそっと地面に置いた。

「それで、儂に何の用だ?」

「用?」

「お主が疑問に思ってどうする。特に用がないのなら儂は帰るが、いいか?」

「あ、はい」

 辰巳がうなずくと、壺はスーッと姿を消した。

「ユノウの言うとおりみたいだね」

「たぶん、召喚獣みたいな扱いなんでしょう」

「なるほどねぇ。じゃあ、花火を切ったら、『たまや~』とか言いながら出てくるのかな」

 気になった辰巳が、新しい紙を出すためにアタッシュケースに手を伸ばした瞬間、まるで自らの存在をアピールするかのように、クラクションが鳴った。

「あのぉ、僕は用あるんでしょうか?」

 迎は完全に放置されていた。

「あ、ごめんごめん。迎さんにはちゃんと用があるから。とりあえず、ドア開けてもらえるかな?」

 辰巳は両手を合わせて迎に謝った。

「わかりました」

 二人は迎に乗り込むと、自然な流れでユノウが運転席に、辰巳がドア脇の席に座った。

「えっと、アクセルにブレーキ、メーター、特に問題はなさそうだね。……マニュアル車運転するなんて久しぶり」

 ユノウはハンドルを握り、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

「これ、スピード出したら酔いそうなんだけど」

 ガタガタと揺れながら、迎は低速で草むらを進んでいく。

「それはしょうがないですよ。ここ、ただの草むらですから」

 軽く運転感覚の確認ができたところで、ユノウは迎を止めた。

「とりあえず、運転は大丈夫ですね。まぁ、問題があるとすれば、あたしがずっと運転しなきゃいけないことぐらいですかね」

 その言葉に迎が反応する。

「あ、道教えてくれれば、僕自分で走りますから」

「え、自走できるの?」

「できますよ」

 迎は軽くエンジンをふかすと、そのままゆっくりと動き出した。

「本当だ、普通に走ってる」

「なので運転が大変でしたら、任せてもらっても構いませんよ」

「……」

「ユノウさん?」

「……あ、ごめんごめん。もう、止めていいよ」

 迎はその場に停車し、二人は外へ出た。

「これで移動手段は決定かな」

「……」

「ユノウ?」

「え? あ、そうですね」

「……じゃ、迎さん、また明日呼ぶから、その時はよろしく」

「わかりました。では、失礼します」

 迎は別れの挨拶として軽くクラクションを鳴らし、姿を消した。

「ところで、さっきからずっと何を考えているの?」

「……乗り物自体が運転してくれるのであれば、別に車にこだわる必要はないんじゃないかなぁって」

 二人は移動手段について、自分たちが運転することを前提にして考えていたため、車以外の乗り物は候補から外していた。

「あぁ、確かに」

「例えばヘリコプターとか飛行機なら、小田原なんてあっという間ですよ。ちょっと、試しにヘリコプター切ってもらえませんか?」

「ヘリコプター……うーん、わかった」

 プロペラ部分に多少手こずりつつも、辰巳は見事に形を切り上げた。

「出でよ、ヘリコプター!」

 現れたのは、やや大型で流線形の機体をもったヘリコプターだ。

「やぁ、呼んだのは君たちかい?」

 ヘリコプターは軽い感じで二人に挨拶した。

「はい。早速ですけど、乗りたいんでドア開けてもらえますか?」

「オーケー」

 コックピットと客室、双方のドアが開く。

「俺、こっち乗るから」

 今度は辰巳が操縦席に座り、ユノウが客席に座った。

「おぉっ!」

 ずらっと並ぶ計器類や操縦桿を見て、辰巳のテンションが一気に上がる。

「辰巳さんって、ヘリ乗るの初めてですか?」

「初めて初めて。ユノウは?」

「あたしは伊豆諸島へ行った時に乗ったことがあります。その時乗ったヘリも、客室はこんな感じでしたね」

 ユノウが座っているのは一番後ろに設置された四人掛けシートで、前二列には通路を挟むかたちで一人掛けシートと二人掛けシートが設置されている。座席のシートピッチは狭く、ひざまわりは少し窮屈だった。

「それで、操縦は君がするの?」

 ヘリコプターからの質問に対し、辰巳は右手を左右に振った。

「いや、しませんしません。操縦は全部お任せします」

「オーケー。じゃあ、腕前を披露する意味も込めて、一回飛んでみよう。二人とも、シートベルトを着用してくださぁい」

 ヘリコプターがドアを閉めてエンジンを起動させるや、プロペラが大きな音を立てて回転を始めた。

「すげぇエンジン音」

「そりゃそうですよ、プロペラの真下にいるんですから」

「じゃあ、飛ぶよ。テイクオフ」

 合図と同時に、ヘリコプターは凄まじい風を巻き起こしながら原っぱを離陸した。

「おー、飛んでる飛んでる」

 辰巳は興奮を隠しきれない。

「耳栓のストックってあったかなぁ?」

 ユノウは窓の外には見向きもせず、初ヘリに戸惑うであろう夏たちへの対応について考えていた。

「この辺を軽く旋回するね」

 ヘリコプターは五分ほど夜空を飛行した後、元の場所に着陸した。

「二人とも、空の散歩はいかがだったかな?」

「最高っ」

「良かったです。それに座席の方も問題ないですね」

 こうして、小田原への移動手段はヘリコプターに決定した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...