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第1章 北条家騒動
饗宴の席
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その夜、小田原城では吉右衛門のために饗宴が催されていた。
上座には吉右衛門、氏元、氏勝の三名が座し、夏を含めた他の面々は下座に座している。
個々に用意された膳には、鴨の汁物、天ぷら、かまぼこ、玉子焼き、鰻の蒲焼きと白焼き、鯛の刺身など、豪華絢爛な料理がこれでもかというほどに並べられていた。
「これ、鴨の出汁がきいててうまいな」
「辰巳さん、かまぼこ食べてみてくださいよ。絶品ですから」
「あ、そう」
ユノウに勧められ、辰巳はかまぼこに箸を伸ばす。
「うまっ! やっぱ本場は違うな」
「でしょ。それにしても、やっぱり兄弟だけあって、どことなく顔が似てますよね」
ユノウはかまぼこを食べながら、上座に座る氏勝へ視線を向けた。
「うん。ただ俺的には、似てるどうこうより、あの犬耳に目がいっちゃうよね。あれを見ると、改めてここは異世界なんだなぁって思うよ」
氏勝の頭には、獣人の血が流れていることを示すかのように、立派な犬耳がついていた。
「あれ、母方の遺伝らしいですね」
亀の生家である犬本家は、名古屋城を居城とする獣人の大名で、幕府の重職を担ってきた名門である。
初代当主である犬本忠広は、大陸出身の冒険者で、元の名はタダシロ・イヌートという。道播と同じく、秀長にスカウトされて家臣となった。
諜報や情報分析に長け、諸大名の動向を探ったり謀略を仕掛けたりすることを得意としており、忠広は監視者として、他の大名から恐れられていた。
そのイメージが染みついているのか、犬本家から輿入れした女性は、嫁ぎ先で異様に気を使われる傾向があり、氏重も亀には相当気を使っていた。
その辺りの微妙な嫁舅関係が、お世継ぎ問題に影響を与えていたことは言うまでもない。
「ちょっと疑問なんだけどさ。あれ、普通の耳と合わせて、耳が四つあることになるんだけど、あの犬耳は飾りなの?」
氏勝は犬耳だけでなく、普通に人間の耳もついていた。
「飾りって、コスプレじゃないんですから。ちゃんと聞こえますよ。ただ、聞こえる範囲がそれぞれ異なるんです。辰巳さんは、人間と動物とで、聞くことのできる音の範囲が異なっていることは知ってますか?」
「確か、犬や猫の方が人間より高い音が聞こえるんだっけ」
「それと似たような感じで、人間の耳は人間が聞き取れる範囲の音を、犬耳などの動物の耳には人間が聞き取れない範囲の音を、それぞれ聞くことができるんです。ちなみに、ああいう獣の耳のことを、獣耳や副耳といいます」
「へぇ。ちなみに、人間の方の耳だけを塞いだらどうなるの?」
「人間が聞こえる範囲の音だけが聞こえなくなります。だから人の声なんかは聞こえなくなりますけど、超音波みたいなのは聞き取れます」
「なるほどねぇ」
そんな風にうまい酒や料理を味わいながら雑談をしていると、いつの間にやら部屋の傍らで、畳の上に板を敷いて簡易的な舞台が作られていた。
上座には吉右衛門、氏元、氏勝の三名が座し、夏を含めた他の面々は下座に座している。
個々に用意された膳には、鴨の汁物、天ぷら、かまぼこ、玉子焼き、鰻の蒲焼きと白焼き、鯛の刺身など、豪華絢爛な料理がこれでもかというほどに並べられていた。
「これ、鴨の出汁がきいててうまいな」
「辰巳さん、かまぼこ食べてみてくださいよ。絶品ですから」
「あ、そう」
ユノウに勧められ、辰巳はかまぼこに箸を伸ばす。
「うまっ! やっぱ本場は違うな」
「でしょ。それにしても、やっぱり兄弟だけあって、どことなく顔が似てますよね」
ユノウはかまぼこを食べながら、上座に座る氏勝へ視線を向けた。
「うん。ただ俺的には、似てるどうこうより、あの犬耳に目がいっちゃうよね。あれを見ると、改めてここは異世界なんだなぁって思うよ」
氏勝の頭には、獣人の血が流れていることを示すかのように、立派な犬耳がついていた。
「あれ、母方の遺伝らしいですね」
亀の生家である犬本家は、名古屋城を居城とする獣人の大名で、幕府の重職を担ってきた名門である。
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その辺りの微妙な嫁舅関係が、お世継ぎ問題に影響を与えていたことは言うまでもない。
「ちょっと疑問なんだけどさ。あれ、普通の耳と合わせて、耳が四つあることになるんだけど、あの犬耳は飾りなの?」
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「飾りって、コスプレじゃないんですから。ちゃんと聞こえますよ。ただ、聞こえる範囲がそれぞれ異なるんです。辰巳さんは、人間と動物とで、聞くことのできる音の範囲が異なっていることは知ってますか?」
「確か、犬や猫の方が人間より高い音が聞こえるんだっけ」
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