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第2章 北条家戦争
相手を知るものと知らぬもの
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「もののけの軍勢は変わらずにこちらに向かって進軍中です。距離は一五キロです」
奈々は妖怪たちの現況を馬上の正二郎に伝えた。
「わかりました」
「では、また情報が入りましたらお伝えします」
奈々は一礼してユノウのところへ戻っていった。
「……聞いただろ、もののけどもは一五キロ先まで近づいてきてるとさ」
正二郎は、少し呆れたような感じで隣にいる侍に話しかけた。
「おう。このままいけば、数刻ほどで出くわすことになるだろうな。にしても、本当にすげぇ索敵能力だな」
「ああ。そのうえ、向こうが偵察として放ったもののけを、あっという間に撃ち落としたっていうんだからさ。こっちは偵察が出てたことすら気づいてねぇってのに」
「あれも驚いたな。いきなり後ろの方ですげぇ音がしたと思ったら、なんかがビュンって飛んでって、少ししたら偵察を落としたって言ってきたんだからよ。もう訳わかんねぇよな」
侍は苦笑していた。
「本当、味方で良かったって思うよ。もしあんな攻撃を敵から受けたら、味方の士気だだ下がりだったろうからな」
「ああ、おかげで兵の士気は思った以上に高いよ。前にいる市丸ってのも、なんかすげぇんじゃねぇかって期待もあってな」
「ユノウ殿の話によれば、大筒の名手で、数キロ先の目標でも一撃必中で粉砕できるとのことだ」
「普通なら与太話として受け流すところだが、今は頼もしく聞こえるな」
そんな期待を抱かれているとは露知らず、市丸は照之進と妖怪に関する話をしていた。
「へぇ、炎が一番多いんですか」
「あくまで拙者の経験だが、炎を用いてくる妖怪が一番多かったな。その次は水だが、これは川や海などの水を利用するのがほとんどで、自ら水を生成するものはほとんどいなかった。だから水辺近くで会敵しなければ、水攻撃のことは除外していいだろう。他には雷や氷、髪の毛などといったのがあるが、割合としてはそんなに高くない」
会話の内容は妖怪の攻撃についてで、自身の経験を基に、照之進が丁寧にレクチャーしていた。
「髪の毛……ですか?」
市丸にとって聞き馴染みのない攻撃方法であった。
「そうだ。……あれは磯女という、女性の頭部と蛇の体を持った妖怪を退治した時のことだったな。磯女は生き血を吸う妖怪で、長い髪の毛を自在に伸ばし、相手をがんじがらめにして動きを封じてくるのだ」
「その髪の毛は、どのくらいの強度だったんですか?」
「やわな刀なら簡単に刃こぼれするくらいの硬さがあったな。だから一度絡みつかれると、逃げ出すのは容易ではなく、拙者も血を吸われそうになっている仲間を幾度となく助けたものだ」
「なるほど。他に特徴的な攻撃をしてくる妖怪はいましたか?」
市丸は熱心に話を聞いており、照之進の話し方も次第に熱を帯びてくる。
「他か……攻撃ではないが、幻術を用いて惑わしてくる輩もいたな。自分そっくりの分身を作り出すことで注意をそちらに向けさせ、その隙に攻撃を仕掛けてくるといった具合にな。だから戦いの時は視覚に頼りすぎず、五感で相手の動きを把握しておいた方が良いぞ」
「わかりました」
「……で、結局正体はわからずか」
飛行部隊を束ねている提灯妖怪は、一反木綿から偵察結果を聞かされていた。
「引き続き偵察を行うようですが、正直なところ、あまり期待はできないと思います」
一反木綿は率直な感想を口にした。
「それはお前の勘か?」
「はい、ほぼほぼ勘です」
「お前の勘はよく当たるからな。となると、正体不明のまま小田原へ向かわねばならないということか……」
提灯妖怪は大きなため息を吐いた。
「一応いつ攻撃が来てもいいように、各自臨戦態勢を整えていますが……」
「今の進軍速度だと、小田原まではあと七時間くらいかかる。その間ずっと正体不明の攻撃を警戒し続けるとなれば、精神がもたないだろうな」
「ですので、ここは部隊を二つに分け、交代で警戒させるべきだと思います」
「……今できるのはそのくらいか。わかった、不公平にならないよう、うまく差配してくれ」
「わかりました」
一反木綿は早速振り分けに取り掛かる。
「怖がらせるのは妖怪の専売特許だと思っていたんだがな……」
提灯妖怪は自虐的につぶやくのだった。
奈々は妖怪たちの現況を馬上の正二郎に伝えた。
「わかりました」
「では、また情報が入りましたらお伝えします」
奈々は一礼してユノウのところへ戻っていった。
「……聞いただろ、もののけどもは一五キロ先まで近づいてきてるとさ」
正二郎は、少し呆れたような感じで隣にいる侍に話しかけた。
「おう。このままいけば、数刻ほどで出くわすことになるだろうな。にしても、本当にすげぇ索敵能力だな」
「ああ。そのうえ、向こうが偵察として放ったもののけを、あっという間に撃ち落としたっていうんだからさ。こっちは偵察が出てたことすら気づいてねぇってのに」
「あれも驚いたな。いきなり後ろの方ですげぇ音がしたと思ったら、なんかがビュンって飛んでって、少ししたら偵察を落としたって言ってきたんだからよ。もう訳わかんねぇよな」
侍は苦笑していた。
「本当、味方で良かったって思うよ。もしあんな攻撃を敵から受けたら、味方の士気だだ下がりだったろうからな」
「ああ、おかげで兵の士気は思った以上に高いよ。前にいる市丸ってのも、なんかすげぇんじゃねぇかって期待もあってな」
「ユノウ殿の話によれば、大筒の名手で、数キロ先の目標でも一撃必中で粉砕できるとのことだ」
「普通なら与太話として受け流すところだが、今は頼もしく聞こえるな」
そんな期待を抱かれているとは露知らず、市丸は照之進と妖怪に関する話をしていた。
「へぇ、炎が一番多いんですか」
「あくまで拙者の経験だが、炎を用いてくる妖怪が一番多かったな。その次は水だが、これは川や海などの水を利用するのがほとんどで、自ら水を生成するものはほとんどいなかった。だから水辺近くで会敵しなければ、水攻撃のことは除外していいだろう。他には雷や氷、髪の毛などといったのがあるが、割合としてはそんなに高くない」
会話の内容は妖怪の攻撃についてで、自身の経験を基に、照之進が丁寧にレクチャーしていた。
「髪の毛……ですか?」
市丸にとって聞き馴染みのない攻撃方法であった。
「そうだ。……あれは磯女という、女性の頭部と蛇の体を持った妖怪を退治した時のことだったな。磯女は生き血を吸う妖怪で、長い髪の毛を自在に伸ばし、相手をがんじがらめにして動きを封じてくるのだ」
「その髪の毛は、どのくらいの強度だったんですか?」
「やわな刀なら簡単に刃こぼれするくらいの硬さがあったな。だから一度絡みつかれると、逃げ出すのは容易ではなく、拙者も血を吸われそうになっている仲間を幾度となく助けたものだ」
「なるほど。他に特徴的な攻撃をしてくる妖怪はいましたか?」
市丸は熱心に話を聞いており、照之進の話し方も次第に熱を帯びてくる。
「他か……攻撃ではないが、幻術を用いて惑わしてくる輩もいたな。自分そっくりの分身を作り出すことで注意をそちらに向けさせ、その隙に攻撃を仕掛けてくるといった具合にな。だから戦いの時は視覚に頼りすぎず、五感で相手の動きを把握しておいた方が良いぞ」
「わかりました」
「……で、結局正体はわからずか」
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「引き続き偵察を行うようですが、正直なところ、あまり期待はできないと思います」
一反木綿は率直な感想を口にした。
「それはお前の勘か?」
「はい、ほぼほぼ勘です」
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提灯妖怪は大きなため息を吐いた。
「一応いつ攻撃が来てもいいように、各自臨戦態勢を整えていますが……」
「今の進軍速度だと、小田原まではあと七時間くらいかかる。その間ずっと正体不明の攻撃を警戒し続けるとなれば、精神がもたないだろうな」
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