69 / 86
第2章 北条家戦争
相手を知るものと知らぬもの
しおりを挟む
「もののけの軍勢は変わらずにこちらに向かって進軍中です。距離は一五キロです」
奈々は妖怪たちの現況を馬上の正二郎に伝えた。
「わかりました」
「では、また情報が入りましたらお伝えします」
奈々は一礼してユノウのところへ戻っていった。
「……聞いただろ、もののけどもは一五キロ先まで近づいてきてるとさ」
正二郎は、少し呆れたような感じで隣にいる侍に話しかけた。
「おう。このままいけば、数刻ほどで出くわすことになるだろうな。にしても、本当にすげぇ索敵能力だな」
「ああ。そのうえ、向こうが偵察として放ったもののけを、あっという間に撃ち落としたっていうんだからさ。こっちは偵察が出てたことすら気づいてねぇってのに」
「あれも驚いたな。いきなり後ろの方ですげぇ音がしたと思ったら、なんかがビュンって飛んでって、少ししたら偵察を落としたって言ってきたんだからよ。もう訳わかんねぇよな」
侍は苦笑していた。
「本当、味方で良かったって思うよ。もしあんな攻撃を敵から受けたら、味方の士気だだ下がりだったろうからな」
「ああ、おかげで兵の士気は思った以上に高いよ。前にいる市丸ってのも、なんかすげぇんじゃねぇかって期待もあってな」
「ユノウ殿の話によれば、大筒の名手で、数キロ先の目標でも一撃必中で粉砕できるとのことだ」
「普通なら与太話として受け流すところだが、今は頼もしく聞こえるな」
そんな期待を抱かれているとは露知らず、市丸は照之進と妖怪に関する話をしていた。
「へぇ、炎が一番多いんですか」
「あくまで拙者の経験だが、炎を用いてくる妖怪が一番多かったな。その次は水だが、これは川や海などの水を利用するのがほとんどで、自ら水を生成するものはほとんどいなかった。だから水辺近くで会敵しなければ、水攻撃のことは除外していいだろう。他には雷や氷、髪の毛などといったのがあるが、割合としてはそんなに高くない」
会話の内容は妖怪の攻撃についてで、自身の経験を基に、照之進が丁寧にレクチャーしていた。
「髪の毛……ですか?」
市丸にとって聞き馴染みのない攻撃方法であった。
「そうだ。……あれは磯女という、女性の頭部と蛇の体を持った妖怪を退治した時のことだったな。磯女は生き血を吸う妖怪で、長い髪の毛を自在に伸ばし、相手をがんじがらめにして動きを封じてくるのだ」
「その髪の毛は、どのくらいの強度だったんですか?」
「やわな刀なら簡単に刃こぼれするくらいの硬さがあったな。だから一度絡みつかれると、逃げ出すのは容易ではなく、拙者も血を吸われそうになっている仲間を幾度となく助けたものだ」
「なるほど。他に特徴的な攻撃をしてくる妖怪はいましたか?」
市丸は熱心に話を聞いており、照之進の話し方も次第に熱を帯びてくる。
「他か……攻撃ではないが、幻術を用いて惑わしてくる輩もいたな。自分そっくりの分身を作り出すことで注意をそちらに向けさせ、その隙に攻撃を仕掛けてくるといった具合にな。だから戦いの時は視覚に頼りすぎず、五感で相手の動きを把握しておいた方が良いぞ」
「わかりました」
「……で、結局正体はわからずか」
飛行部隊を束ねている提灯妖怪は、一反木綿から偵察結果を聞かされていた。
「引き続き偵察を行うようですが、正直なところ、あまり期待はできないと思います」
一反木綿は率直な感想を口にした。
「それはお前の勘か?」
「はい、ほぼほぼ勘です」
「お前の勘はよく当たるからな。となると、正体不明のまま小田原へ向かわねばならないということか……」
提灯妖怪は大きなため息を吐いた。
「一応いつ攻撃が来てもいいように、各自臨戦態勢を整えていますが……」
「今の進軍速度だと、小田原まではあと七時間くらいかかる。その間ずっと正体不明の攻撃を警戒し続けるとなれば、精神がもたないだろうな」
「ですので、ここは部隊を二つに分け、交代で警戒させるべきだと思います」
「……今できるのはそのくらいか。わかった、不公平にならないよう、うまく差配してくれ」
「わかりました」
一反木綿は早速振り分けに取り掛かる。
「怖がらせるのは妖怪の専売特許だと思っていたんだがな……」
提灯妖怪は自虐的につぶやくのだった。
奈々は妖怪たちの現況を馬上の正二郎に伝えた。
「わかりました」
「では、また情報が入りましたらお伝えします」
奈々は一礼してユノウのところへ戻っていった。
「……聞いただろ、もののけどもは一五キロ先まで近づいてきてるとさ」
正二郎は、少し呆れたような感じで隣にいる侍に話しかけた。
「おう。このままいけば、数刻ほどで出くわすことになるだろうな。にしても、本当にすげぇ索敵能力だな」
「ああ。そのうえ、向こうが偵察として放ったもののけを、あっという間に撃ち落としたっていうんだからさ。こっちは偵察が出てたことすら気づいてねぇってのに」
「あれも驚いたな。いきなり後ろの方ですげぇ音がしたと思ったら、なんかがビュンって飛んでって、少ししたら偵察を落としたって言ってきたんだからよ。もう訳わかんねぇよな」
侍は苦笑していた。
「本当、味方で良かったって思うよ。もしあんな攻撃を敵から受けたら、味方の士気だだ下がりだったろうからな」
「ああ、おかげで兵の士気は思った以上に高いよ。前にいる市丸ってのも、なんかすげぇんじゃねぇかって期待もあってな」
「ユノウ殿の話によれば、大筒の名手で、数キロ先の目標でも一撃必中で粉砕できるとのことだ」
「普通なら与太話として受け流すところだが、今は頼もしく聞こえるな」
そんな期待を抱かれているとは露知らず、市丸は照之進と妖怪に関する話をしていた。
「へぇ、炎が一番多いんですか」
「あくまで拙者の経験だが、炎を用いてくる妖怪が一番多かったな。その次は水だが、これは川や海などの水を利用するのがほとんどで、自ら水を生成するものはほとんどいなかった。だから水辺近くで会敵しなければ、水攻撃のことは除外していいだろう。他には雷や氷、髪の毛などといったのがあるが、割合としてはそんなに高くない」
会話の内容は妖怪の攻撃についてで、自身の経験を基に、照之進が丁寧にレクチャーしていた。
「髪の毛……ですか?」
市丸にとって聞き馴染みのない攻撃方法であった。
「そうだ。……あれは磯女という、女性の頭部と蛇の体を持った妖怪を退治した時のことだったな。磯女は生き血を吸う妖怪で、長い髪の毛を自在に伸ばし、相手をがんじがらめにして動きを封じてくるのだ」
「その髪の毛は、どのくらいの強度だったんですか?」
「やわな刀なら簡単に刃こぼれするくらいの硬さがあったな。だから一度絡みつかれると、逃げ出すのは容易ではなく、拙者も血を吸われそうになっている仲間を幾度となく助けたものだ」
「なるほど。他に特徴的な攻撃をしてくる妖怪はいましたか?」
市丸は熱心に話を聞いており、照之進の話し方も次第に熱を帯びてくる。
「他か……攻撃ではないが、幻術を用いて惑わしてくる輩もいたな。自分そっくりの分身を作り出すことで注意をそちらに向けさせ、その隙に攻撃を仕掛けてくるといった具合にな。だから戦いの時は視覚に頼りすぎず、五感で相手の動きを把握しておいた方が良いぞ」
「わかりました」
「……で、結局正体はわからずか」
飛行部隊を束ねている提灯妖怪は、一反木綿から偵察結果を聞かされていた。
「引き続き偵察を行うようですが、正直なところ、あまり期待はできないと思います」
一反木綿は率直な感想を口にした。
「それはお前の勘か?」
「はい、ほぼほぼ勘です」
「お前の勘はよく当たるからな。となると、正体不明のまま小田原へ向かわねばならないということか……」
提灯妖怪は大きなため息を吐いた。
「一応いつ攻撃が来てもいいように、各自臨戦態勢を整えていますが……」
「今の進軍速度だと、小田原まではあと七時間くらいかかる。その間ずっと正体不明の攻撃を警戒し続けるとなれば、精神がもたないだろうな」
「ですので、ここは部隊を二つに分け、交代で警戒させるべきだと思います」
「……今できるのはそのくらいか。わかった、不公平にならないよう、うまく差配してくれ」
「わかりました」
一反木綿は早速振り分けに取り掛かる。
「怖がらせるのは妖怪の専売特許だと思っていたんだがな……」
提灯妖怪は自虐的につぶやくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる