紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第2章 北条家戦争

相模川の戦い

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「なんだっ、何が起こった!?」

 突然の爆音に、瀬戸大将は飛び上がらんばかりに驚いた。

「瀬戸大将殿ぉ! 敵の砲撃です! 敵のぉ……」

 大慌ててでやって来た子泣き爺の背後で、再び爆音が鳴り響く。

「砲撃……」

 瀬戸大将は表情を曇らせる一方で、攻撃の正体が判明していることに安堵感も覚えていた。

「瀬戸大将殿、敵は川向こうより大筒を放っております。かなりの高性能にて、朧車は一撃で行動不能に陥りました」

「なんだと!? ……で、大筒は何門ある?」

「大筒とおぼしきものは一門です」

「一門だけか」

 瀬戸大将は少しほっとした。

「それと、敵は橋の周囲に陣を張っているようです。ただ、その数は我らの半数以下とのこと」

「なるほど、相模川を天然の防壁とし、高性能の大筒で数的不利を補っているというわけか。……ならば、ここは力で押し通るのみ。子泣き爺殿、騎馬部隊とともに全速力で橋へと向かい、進路を確保してくれ」

 相手の狙いを理解した瀬戸大将は、機動力のある部隊を先行させることにした。

「わかりました」

 子泣き爺とともに、朧車部隊と騎馬部隊は全速力で橋の方へと向かう。

「そちらの半数は川岸に向かって大筒を狙え。残りはこのまま橋を突っ切るぞ!」

 正確無比な砲撃によって次々と朧車が撃破されていくなか、子泣き爺は狙いを定めにくくするため、朧車部隊を二手に分けた。

「おわっ! やはり、こちらを狙ってきたか」

 砲撃は橋へ向かう部隊に向けられ、相応の被害を出しつつあった。

 一方で街道を外れて川岸へと向かった部隊は大きく横に展開。被害を出しつつもなんとか距離を詰め、攻撃射程内に市丸たちを捉えようとしていた。

「よし、行け!」

 横目でその様子を見ていた子泣き爺は、力強く右手を前に出した。

 朧車たちが攻撃態勢に入りつつあった次の瞬間、激しい銃撃音がけたたましく鳴り響いた。



「近づかせませんよ」

 三郎は朧車たちに向かって豪快に機関砲をぶっ放した。

「すいません。助かりました」

 市丸は主砲を放ちつつお礼を言った。

「お気になさらず。対岸への接近は私が対処しますので、桂さんは橋の方を優先して攻撃してください」

 話している間も三郎は絶え間なく機関砲を撃ち続け、朧車たちは攻撃どころではなくなり、後退するものや戦闘不能に陥るものが現れ始めていた。

「♪雷よ、雷よ。轟け、轟け、轟けろけろけろけろぉー」

 ほうきに乗ったワミは、上空から騎馬部隊に電撃魔法をおみまいしていく。

「拙者も行くか」

 戦況の変化を確認した照之進は、橋の上へと移動し、そこから妖怪たちに向かって矢を射始めた。

「あ、海江田さんも動き出した」

「もうあそこにいる必要性もないですからね」

 味方が妖怪たちを圧倒していることもあって、辰巳とユノウは余裕を持って成り行きを見守っていた。

「それにしても、妖怪と魔女と戦車が戦うって、すげぇ絵だな」

「カオスな異種格闘技戦って感じですよね」

「……え?」

 辰巳はユノウの例えがいまいちピンと来なかった。

「あ、なんでもないです」

 そんな他愛もない会話がなされている傍らでは、正二郎たちが唖然とした様子で対岸での戦いを眺めていた。

「……俺らの出番はねぇな」

 対空ミサイルと異なり、戦闘の様子を間近で見ているので、その分正二郎の受けた衝撃も大きかった。

「武人としてこんなことを言うのもあれだが、出番がなくて良かったと思ってる。正直なとこ、俺らじゃあの数の牛車のバケモンには太刀打ちできなかっただろうからな」

「確かに、刀や弓じゃ、あれ一体倒すだけで一苦労だ」

 正二郎は苦笑しながら侍の言葉に同意を示す。

「そいつをああも簡単に屠っていくんだからな。そのうえ、矢に銃弾、電撃が雨あられと降り注いでくるんだ、なんだかもののけどもが可哀そうになってくるな」

 思わず侍が同情してしまうほどに、戦いは一方的な展開で進んでいった。
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