紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

文字の大きさ
73 / 86
第2章 北条家戦争

大敗北と大勝利と

しおりを挟む
「敗れただと?」

 相模川での戦いから数刻の時を経て、ぬらりひょんのもとに凶報がもたらされていた。

「はい。相模川にて小田原の軍勢と戦いましたが、力及ばず……。瀬戸大将様と歩兵の大多数は無事ですが、騎馬部隊は半数以上がやられ、朧車部隊に至っては全滅しました……」

 報告に来た骸骨武者の声からは、無念さがありありと伝わってきた。

「全滅……。小田原の軍勢はそれほどまでに強いのか?」

「はい。数は我らの三分の一以下でしたが、強力な大筒を有しており、それによって次々と朧車がやられていったのです。他にも絶え間なく連射のできる銃や、歌いながら電撃を放つ魔法使いがおり、それらの攻撃によって騎馬部隊も一方的にやられたのです。歩兵部隊は、両部隊に続いて突入する予定でしたが、戦況のあまりの酷さに瀬戸大将様は突入を断念し、撤退をお決めになったのです」

「なるほど、だから歩兵部隊の被害が少ないのか。ところで、飛行部隊はどうなっている?」

「飛行部隊は、この戦いの前に謎の攻撃を受けて全滅しております」

「……わかった。下がってよい」

 骸骨武者が一礼して部屋を去ると、入れ替わるように塗壁がやって来た。

「何用だ、塗壁」

「戦況を聞きに来たに決まっとるだろうが」

 塗壁はぬらりひょんの向かいにどっかと腰を下ろす。

「……で、どうなんだ?」

「相模川で小田原勢と戦い、敗れたとのことだ。しかも、一方的にこっちがやられ、朧車と提灯たちは全滅したそうだ」

「……最悪だな。やはり、油断があったのか?」

 ぬらりひょん同様、塗壁の顔つきも一気に暗くなる。

「その方が良かったかもしれんな。だが、報告を聞く限りではそのような感じはしない。残念ながら、純然たる力の差で敗れたようだ」

「そんなに小田原のやつらは強いのか?」

「ああ。朧車は大筒で一撃、提灯たちは正体不明の攻撃で葬られ、それ以外にも強力な戦力を有しているらしい」

「……厄介だな。で、瀬戸大将殿たちはそいつらに追撃されとるのか?」

 塗壁の顔は険しさを増した。

「いや、そういったことは聞いていない」

「うーん、追い返せればいいということなのか、それともどうせ向かうからということなのか……おそらく、後者だろうな」

「つまり、これは江戸攻めの軍勢だというのか?」

「そうだ。朝一に小田原を発ち、相模川で瀬戸大将殿の軍と遭遇した、といったところだろうな」

 塗壁は冷静に状況を推測していた。

「となると、その小田原の軍勢がいずれここに来るというのか……」

「さすがに今日明日ということはないだろうが、明後日には江戸市中に到達するんじゃねぇかな」

「……わかった、それを含めて、氏吉様に報告しよう。塗壁、お主も来い」

「おいもか?」

「当然だろうが。お主の推測を報告するのだからな」

「仕方ねぇな」

 塗壁は面倒くさそうに氏吉のもとへ向かうと、淡々と自らの考えを述べ、その結果大幅な戦術変更がなされることになったのである。



「今しがた正二郎殿からの使いが来てな、相模川でもののけどもの軍勢と戦い、大勝利を収めたそうだ」

 茶室で茶を点てながら、吉右衛門は氏元に吉報を告げた。

「左様でございますか。それは喜ばしき限りのことで」

「しかも、向こうは我が方の三倍以上の兵力を有していたが、市丸殿や三郎殿らの活躍によって、終始一方的な展開だったとのことだ」

「なんと……」

 それを聞いて氏元は目を丸くした。

「勝てるとは思っていたが、まさかここまで圧倒するとは。やはりあのものたちの力は、私の想像の範疇には収まらんな」

「……秀頼様が頼りになされた理由が、よくわかりました」

「もしかすると、本当に第一陣のみですべてを終わらせてしまうかもしれんぞ」

 吉右衛門は、辰巳たちへの多大なる期待を語りながら、茶碗を氏元に差し出した。

「そうなってくれれば、ありがたい限りにございます」

 氏元も辰巳たちに大きな期待を抱きつつ、お茶をズズっと飲んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...