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第2章 北条家戦争
祝杯はクリームソーダで
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相模川での戦いを終えたもののけ討伐軍は、敗走するもののけたちへの追撃を不要と判断。そのまま街道を東進し、藤沢宿で一泊することにした。
「へぇ~、辰巳さんの部屋って、あたしと奈々ちゃんが泊まってる部屋よりちょっと広いんですね」
ユノウと奈々は、辰巳が泊まっている部屋に遊びに来ていた。
「あ、そうなんだ」
辰巳の部屋は一〇畳ほどの広さで、床の間には美しい花が活けられていた。
「辰巳さんは、今回の戦いで功第一の活躍をしましたからね。当然のことですよ」
奈々は部屋が広い理由を簡潔に述べた。
「そんな活躍だなんて、俺は知久さんたちを呼び出しただけなんだからさ」
辰巳は少し照れながら謙遜する。
「ご謙遜なさらずに、辰巳さんの紙魔法のすごさには、正二郎さんも舌を巻いていましたから」
「奈々ちゃんの言うとおりですよ。褒められてるんですから、素直に喜んどけばいいんです。それより、クリームソーダ飲みますか?」
「クリームソーダ? あるなら飲みたいけど」
「ユノウさん、そのクリームなんとかってなんですか?」
当然ながら、奈々はクリームソーダのことなど全く知らなかった。
「クリームソーダっていうのは、メロン……確認なんだけど、奈々ちゃんはメロンって知ってる?」
日本に西洋系メロンが伝わったのは明治を迎えてからのことだったので、ユノウは一応確認した。
「メロンって、あの網目模様の甘い瓜のことですよね」
「そうそう、その甘い瓜。それの果汁を入れた炭酸……あー、もう面倒くさい、とりあえず飲んでみて」
見せた方が早いと思ったユノウは、畳の上にお盆を置き、そこに人数分の足つきグラスを用意して、クリームソーダを作り始めた。
「ちゃんとそういうコップ持ってるんだ」
「これ、昔一〇〇均で買ったんですよ。……ちなみに、これも一〇〇均で買ったんです」
ユノウはメロンソーダーをグラスに注ぐと、ディッシャーを辰巳に見せた。
「それ、アイスをパッカンってするやつじゃん」
「ディッシャーっていうんですよこれ」
ユノウはディッシャーを使って、大容量のカップに入ったバニラアイスをすくい、半球型のアイスをグラスの中に入れていった。
「はい、どうぞ」
最後にストローとロングスプーンをグラスに入れ、ユノウはそれを辰巳と奈々に手渡した。
「サンキュー」
「ありがとうございます。……これ、上に乗ってるのって氷菓ですか?」
「ひょうか? ……あ、そう氷菓氷菓。それは牛乳で作った氷菓なの」
「書物などで存在は知っていましたけど、実物を見るのは初めてです」
奈々は目をキラキラさせながら、人生初のバニラアイスを口に運んだ。
「冷た……けど甘い」
「奈々ちゃん、その麦の茎みたいなのを使って、中の飲み物を飲んでみて」
続いて奈々は、人生初のストローで人生初のメロンソーダを口に入れた。
「わっ、なんか口の中ではじける感じがします」
初めて体験する炭酸飲料の口当たりに、奈々は大きく目を見開いた。
「こういう炭酸飲料ってさ、どのくらい前から飲まれてるのかね?」
奈々の反応を見て、辰巳はふとそんな疑問を口にした。
「確かメロンソーダみたいなのが生まれたのは一八世紀後半のヨーロッパで、日本には幕末に黒船とともにレモネードがやって来たのが最初だったと思います」
ユノウが言ったように、炭酸飲料の製造方法が発明されたのは一七七二年のイギリスでのことで、一八〇八年にはアメリカで炭酸水を果汁で味付けしたものが売られ始めたのだ。
「やっぱ幕末くらいなんだね」
「ただ、炭酸水自体は天然でも湧き出すことがあるので、それを含めると紀元前くらいから飲まれてたみたいですね。あたし自身、炭酸水はこっちの世界でも温泉地とかで飲んだことがありましたから」
「あ、そうなんだ」
辰巳は小さくうなずきながら、ストローでごくごくっとメロンソーダを飲んだ。
「へぇ~、辰巳さんの部屋って、あたしと奈々ちゃんが泊まってる部屋よりちょっと広いんですね」
ユノウと奈々は、辰巳が泊まっている部屋に遊びに来ていた。
「あ、そうなんだ」
辰巳の部屋は一〇畳ほどの広さで、床の間には美しい花が活けられていた。
「辰巳さんは、今回の戦いで功第一の活躍をしましたからね。当然のことですよ」
奈々は部屋が広い理由を簡潔に述べた。
「そんな活躍だなんて、俺は知久さんたちを呼び出しただけなんだからさ」
辰巳は少し照れながら謙遜する。
「ご謙遜なさらずに、辰巳さんの紙魔法のすごさには、正二郎さんも舌を巻いていましたから」
「奈々ちゃんの言うとおりですよ。褒められてるんですから、素直に喜んどけばいいんです。それより、クリームソーダ飲みますか?」
「クリームソーダ? あるなら飲みたいけど」
「ユノウさん、そのクリームなんとかってなんですか?」
当然ながら、奈々はクリームソーダのことなど全く知らなかった。
「クリームソーダっていうのは、メロン……確認なんだけど、奈々ちゃんはメロンって知ってる?」
日本に西洋系メロンが伝わったのは明治を迎えてからのことだったので、ユノウは一応確認した。
「メロンって、あの網目模様の甘い瓜のことですよね」
「そうそう、その甘い瓜。それの果汁を入れた炭酸……あー、もう面倒くさい、とりあえず飲んでみて」
見せた方が早いと思ったユノウは、畳の上にお盆を置き、そこに人数分の足つきグラスを用意して、クリームソーダを作り始めた。
「ちゃんとそういうコップ持ってるんだ」
「これ、昔一〇〇均で買ったんですよ。……ちなみに、これも一〇〇均で買ったんです」
ユノウはメロンソーダーをグラスに注ぐと、ディッシャーを辰巳に見せた。
「それ、アイスをパッカンってするやつじゃん」
「ディッシャーっていうんですよこれ」
ユノウはディッシャーを使って、大容量のカップに入ったバニラアイスをすくい、半球型のアイスをグラスの中に入れていった。
「はい、どうぞ」
最後にストローとロングスプーンをグラスに入れ、ユノウはそれを辰巳と奈々に手渡した。
「サンキュー」
「ありがとうございます。……これ、上に乗ってるのって氷菓ですか?」
「ひょうか? ……あ、そう氷菓氷菓。それは牛乳で作った氷菓なの」
「書物などで存在は知っていましたけど、実物を見るのは初めてです」
奈々は目をキラキラさせながら、人生初のバニラアイスを口に運んだ。
「冷た……けど甘い」
「奈々ちゃん、その麦の茎みたいなのを使って、中の飲み物を飲んでみて」
続いて奈々は、人生初のストローで人生初のメロンソーダを口に入れた。
「わっ、なんか口の中ではじける感じがします」
初めて体験する炭酸飲料の口当たりに、奈々は大きく目を見開いた。
「こういう炭酸飲料ってさ、どのくらい前から飲まれてるのかね?」
奈々の反応を見て、辰巳はふとそんな疑問を口にした。
「確かメロンソーダみたいなのが生まれたのは一八世紀後半のヨーロッパで、日本には幕末に黒船とともにレモネードがやって来たのが最初だったと思います」
ユノウが言ったように、炭酸飲料の製造方法が発明されたのは一七七二年のイギリスでのことで、一八〇八年にはアメリカで炭酸水を果汁で味付けしたものが売られ始めたのだ。
「やっぱ幕末くらいなんだね」
「ただ、炭酸水自体は天然でも湧き出すことがあるので、それを含めると紀元前くらいから飲まれてたみたいですね。あたし自身、炭酸水はこっちの世界でも温泉地とかで飲んだことがありましたから」
「あ、そうなんだ」
辰巳は小さくうなずきながら、ストローでごくごくっとメロンソーダを飲んだ。
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