幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ

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第九章 幸せ

第三十三話

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 イラホン様のお父様にお会いした翌日。

 昨日の今日で疲れているだろうから、教会の方は大丈夫だからゆっくりしてとイラホン様に言われて……今日は自室で、マラクの入れてくれた紅茶を飲んでゆっくり過ごしている。

 マラクは家の掃除や食事の準備など、家事をこなしていてずっとそばにいるわけではない。

 神使には神の力があるから手でやる必要はないとイラホン様は仰っていたけど、手でやった方が老朽箇所・修繕箇所・改善点が分かるから良いと、わざわざやってくれているらしい。

 手伝いたいと言っても、大丈夫ですからゆっくりなさってくださいと言われてしまった。

 イラホン様は教会、マラクは家事……私だけが、ぼんやりと自室で紅茶をすすっている。

 ……申し訳無さがすごい。

 そもそも、イラホン様がいない屋敷にいるのはいつぶりだろう……。

 ここに来てすぐ、生活に慣れるまではと言われていた時以来だろうか。

 イラホン様のお仕事をお手伝いさせていただくようになってからは、毎日のように教会に行っていたからなぁ。

 手持ち無沙汰で、ぼんやりと天井を眺めるしかやることがない。

 そんな風にしていると、イヤな考えが頭に広がっていく。

 教会の方は大丈夫だから……そう言われると、自分がやっていることはあくまでお手伝いに過ぎなくて、必ずしも必要な存在ではないと言われた気がする。

 不要・邪魔・お荷物・穀潰し……イヤな連想ゲームが始まる。

 いやいや! この考え方は良くない!

 イラホン様は私を気遣ってお休みをくださったのだから、明日からちゃんとお手伝いできるようにしっかりと身体を休めなくては。

 そう意気込んでも、結局のところできることは紅茶をすすることだけ。

 ため息をつきながら何もない時間を過ごしていると、マラクから来客の知らせが届いた。

「カティ様とバハロン様がいらっしゃっています。旦那様は教会と伝えたのですが、アルサ様に用事があると仰っていて……お断りいたしましょうか?」

 マラクが私を気遣って断ろうか尋ねてくる。

 カティ様とバハロン様が、イラホン様にではなく私に用事……?

 不思議に思いながらも、ちょうど手持ち無沙汰だったこともあり、大丈夫だからと応接室にお通しするように伝える。

 マラクは心配そうにしていたけれど……イラホン様のご友神を大切にすることも、妻として大切なことだろう。

 私が応接室に到着すると、すでにカティ様とバハロン様がソファに座っていたので、私も挨拶をして彼らの向かいのソファに腰掛ける。

「――私にご用というのは、一体どういったことでしょうか?」

 マラクが応接室に紅茶を運び終わった頃、私がそう切り出す。

 するとカティ様が、いつもと違った真剣な眼差しでこちらを見つめながら話し始めた。

「……あんたにとって、イラホンってどんな存在?」

 突然のことに驚きながらも、私は心のままにお答えする。

「……大切な方です。私を救ってくださって、私を幸せにしてくださる唯一無二の方です」

 私がそう答えると、バハロン様は気まずそうにしている。

 どうしたのだろうと思っていると、カティ様が続けた。

「じゃあ、あんたはイラホンに何を与えられるの?」

 そう問われて、一瞬言葉を失った。

 私がイラホン様に与えられるもの……?

 家事はマラクがこなす、仕事は私が必ずしも必要というわけではない。

 イラホン様は私がいたから神として成長できたと仰っていたけれど、それは過去のことで今、私がイラホン様に与えて差し上げるものなど何もない。

 言葉に詰まっていると、カティ様が得意げに語る。

「私はイラホンに、空と大地の神という名誉と地位を。三大神での結婚ということで、神々からの祝福も与えられる。あんただけがイラホンに与えられるものは、なに?」

 そして再度問われる。

 カティ様がイラホン様に与えられるものが壮大過ぎて……私が与えられるものなんて何も思い浮かばなかった。

 答えられずに黙り込んでいると、カティ様が机をバンッと力強く叩いた。

 ビクッとして音のした方を見ると、カティ様は震えていて……顔を見てみると、怒りに満ち溢れていた。

「……それが分からないようじゃ、あんたはイラホンを不幸にする! 絶対にね!」

 そう吐き捨てるように言い残し、カティ様は瞬間移動で消えていってしまわれた。

 私が何も言い返せず、その通りだと俯いていると……残されていたバハロン様が声を掛けてきた。

「……カティの言った意味、よく考えてね」

 いつもは明るいバハロン様も静かにその言葉を残して、消えてしまわれた。

 残された私は、お二人の言葉が胸に突き刺さって……冷めていく紅茶を、見つめていることしかできなかった。
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