余命1年病

ちゃっぷ

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8月 夏休み

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「まぁ……いらっしゃい! ひかりちゃん」

「少し合わない間に大きくなったなぁ……」

「久しぶり。おばあちゃん、おじいちゃん」

 久しぶりに父方の祖父母宅へと訪れると、2人が嬉しそうに出迎えてくれた。

 今日は8月半ば……世間では夏休みと呼ばれる期間だ。

 すでに学校を退学しているわたしには関係のないことだけど、気分だけでも夏休みを味わいたいなと祖父母宅へと来ていた。

 あと……死ぬ前に祖父母にも会っておかないとなという思いもあったしね。

 最後に会ったのは……小学生の時くらいかな?

 遠方の田舎にあることもあり、小学5年生くらいになると祖父母宅に行くのを拒否するようになり、ほとんど来ることはなかった。

 でも今日ばかりは、両親とともに1泊する予定だ。

 祖父母は久しぶりに孫であるわたしに会えたのが嬉しいのか、最初は明るい笑顔を浮かべてくれていた。

 けれど少しくつろぎながら近況などを話していると……だんだん祖母の顔が曇り、ついには堪えられないといった様子で涙を流し始める。

「ご、ごめんね……でも……なんでひかりちゃんが……」

 泣き出した祖母の背中を、おじいちゃんが寄り添うようにしながら支えている。

 その姿が、余命1年病を知ったときの両親に似てるなと、わたしはどこか他人事のように見ていた。

「大丈夫だよ、おばあちゃん。余命は1年しかないけど、痛みも苦しみもない健康体なんだ。だから……大丈夫」

 自分で言ってて『何が大丈夫なんだろう』と思ったが、わたしはなんとなく「大丈夫だよ」と同じ言葉をかけることしかできなかった。

 ***

 祖父母宅へと訪れた夜、近所の大きな川で花火があるということを事前に調べておいて知っていたので、両親と祖父母とともに行くことにした。

 近所と言っても少し距離があるということでおじいちゃんの運転で、祖母のお弁当を持って、花火大会の行われる川沿いまで行く。

 道中、気まずくなるかなと思いきや、おじいちゃんやお父さんが積極的に話しかけてくれて、それなりに楽しい時間を過ごせた。

 川沿いの芝生にレジャーシートを広げ、お弁当を広げて、祖母の素朴だが美味しい料理を堪能しながら、花火が打ち上がるのを待つ。

 そして時間になり……ヒューッという甲高い音を上げながら1発目の花火が打ち上がり、ドンッと内臓に響くような大きな音を上げて、夜空に大きな花火が咲き誇る。

「うわっ、近っ! すごっ!」

 ほぼ真上に打ち上がっている花火は、すごい至近距離だ。

 近すぎて、体にパラパラと打ち上がった後の花火のカスが降り注ぐほどだった。

 ……父親と祖父がお弁当を早く食べきるようにすすめた理由が分かったわ……。

 そこから何発も打ち上がる花火を、言葉にならない声を漏らしながら楽しむ。

 一瞬だけ美しく咲き誇り、パラパラと消えていく花火を人生に例える人がいるけれど、わたしはこんな風に力強く美しく生きることはできないだろうなと思う。

 わたしは自由に生きると言っても、平々凡々で終わるだろう……むしろそうありたいと思ってるから良いんだけどね。

 ……ただ花火大会が終わった途端、帰り準備を始める周囲の人や家族を見たときには、なんとも言えない気持ちになった。

 ***

 祖父母宅に戻ったら、少しくつろいでからお風呂に入って早めに布団に入る。

 やっぱり田舎には娯楽が少ないからね。

 ただなかなか眠れず、水でも飲もうかと起き上がってリビングに向かうと、まだ起きていた祖父母と両親が重い空気を漂わせて何やら話し合いをしていた。

「……きっと香奈子さんのせいよ。だってうちの家系に余命1年病になった人はいないもの」

 祖母がそんな風に母親を責めていた。

 今思い出したけど、そういえば小さい頃にも祖母が母親に嫌味を言ったり、わたしに母親の悪口を言っていたりしたっけ。

 だからおじいちゃんは好きだけど、祖母のことはそんなに好きじゃなかったんだった。

「おい、そんなことを言うもんじゃない! 香奈子さんに失礼だろう」

 慌てておじいちゃんが祖母の暴言を注意する。

 けれど祖母は全く意に介しておらず、その後も両親に……というか、主に母親に暴言を投げ付けていた。

 両親は何も言わない。

 ……なんで言い返さないのよ。

「おばあちゃん、余命1年病は遺伝でなるものじゃないよ。原因不明の奇病なの」

 耐えかねて、思わずリビングに入って言葉を挟む。

 両親も祖父母も驚いた様子でこちらを見ていたけど、わたしは意に介さず言葉を続ける。

「もう会える機会も少ないんだからさ、そんなヒス起こしてる姿見せないでよ」

 そう言ってスタスタと歩き、冷蔵庫から水を取り出してコップに注ぎ、一気に飲み干すと振り返ってニコッと笑顔を見せる。

「私寝るから、もううるさくしないでね。じゃ、おやすみなさ~い」

 そう言葉を残して、わたしはさっさと用意された部屋へと戻っていった。
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