余命1年病

ちゃっぷ

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9月 お月見

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「じゃあ、ボウルに団子粉と水を入れて、よく練って」

「わ、分かった」

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ただ練るだけだから」

 今日は9月末の満月の日ということで、お月見をすることにした。

 お月見というと名前は知ってるものの、何かやろうとするほどメジャーなイベントじゃなくてスルーする人が多いと思うけど、5月のこどもの日の時みたいに何かを準備したり飾ったりするのが楽しいかなと思ってリストに入れてる。

 そしてお月見といえばうさぎ、ススキ……そして団子かなということで、母親と一緒にお月見団子を準備中だ。

 母親と一緒に料理するなんて幼い頃以来のことで、正直落ち着かないと言うか……なんだかソワソワする。

 まぁ、単純にわたしが料理下手というのもあるかもしれないけど。

 ……少し前のわたしなら、母親と一緒に料理しようなんて発想には絶対にならなかっただろう。

 でも七夕祭りのときにいつもと違った様子の母親を見て、あんなに希薄な関係性だったお父さんと笑い話ができるようになった自分を見て、母親とも少し関係改善できるのではないかなと思ってしまったんだ。

 現に七夕祭りからの母親はヒステリックを起こしたり、不満そうな顔でこちらを見ることはなくなり、なんというか……穏やかな表情を浮かべてることが多い。

 今だって……。

「練り終わった?」

「え、あぁ……うん」

 考え事をしながらこねこねしていたら、いつの間にか団子のもとが塊状になっていた。

 母親が横から少し触って完成具合を確かめる。

「うん、良さそうね。そしたらあとは小さく丸めて、お湯で数分茹でて――」

 料理の手伝いを頼んだときも、今も、母親は穏やかな表情で文句1つ言わずに手伝ってくれてる。

 なんだか……調子が狂うな。

 ***

「冷水にさらして、水気を切って……はい、完成よ」

「おぉー……ちゃんとお団子だー……」

 母親に手伝ってもらいながら、無事にお月見団子が完成した。

 お店レベルとは言わないけれど、自作にしてはよくできた方ではないだろうか。

 黒の平皿を出してもらったので、それにピラミッド型になるように盛り付ける。

「……できた!」

「上手にできてるわね。じゃあベランダに出しておいたミニテーブルの上に置きましょうか」

 母親にそう促され、ベランダに移動してミニテーブルの上に皿を乗せる。

 そして……前もって買っておいたススキを花瓶に挿して、和風なうさぎの小物も置く。

「おぉ~、いい感じ!」

 小ぢんまりとしたお月見セットではあるけど、初めて自分でやるお月見ということもあってテンションが上がる。

「……そんなに喜ぶなら、小さい頃からお月見をやってあげれば良かったわね……」

 テンション高くパシャパシャと写真を撮っていると、ふいに母親がそんなことを言う。

 突然なんだと思いつつも、母親が寂しげな笑みを浮かべていたので、そのまま放置しておくのも居心地が悪くて、とりあえず返事をしておく。

「まぁ、小さい頃なら喜んだかもね。でもそんなんで喜ぶのはせいぜい小学生くらいまででしょ。この年になってこんな風にお月見を楽しめてるのは、余命1年病になったからだよ」

「……そう……」

「そ、それに……お母さんがお団子づくり手伝ってくれたからっていうのも、もちろんあるからね。あ、ありがと……」

 わたしが気恥ずかしさから目を逸らしてボソボソとそう言うと、母親は驚きの表情を浮かべたかと思うと泣きそうになりながら口元を抑えていた。

「……私の方こそ、ありがとう」

 そして感謝の言葉を返してきた。

 ……1歩前進、かな。

「おぉ、こんなとこにいたのか。お月見したいって言ってたから団子買ってきたぞ~……って……」

 いつの間にか仕事から帰ってきてたらしいお父さんが明るい表情で部屋に入ってきて、その手には団子が入っているのであろう手提げ袋があったが、わたしの目の前にある団子を見て固まってる。

「「「……」」」

 一瞬、沈黙のときが流れる。

 お父さんはとても気まずそうだ。

 そんな顔を見て、堪えられなくて思わず吹き出してしまった。

 すると母親もくすくすと笑いだして、お父さんはなぜ2人が笑っているのか分からないという様子だけど、笑ってるならいいかとばかりにつられて笑ってる。

 そして3人で改めてまあるい月を眺めながら、2種類の団子を食べて……家族のひとときを楽しんだ。
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