勇者面接官スター・ゲイザー~と、その秘書リリー・ユリー~

Gigi

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10.勤務外実地調査・ウガルルム討伐

前編下

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 王国の暦は現在、近隣諸国のほとんどの国々で使われています。
 少なくともこの大陸ではそうなので、北世界の半分といっても差し支えはないでしょう。

 曜日は休日の『虹』から始まり、風、炎、海、森、銀、空、と一巡していきます。
 これは世界そのものの一巡と伝わる神話が元になっています。
 最初に虹が輝き、風が吹き、世界中が炎に燃えました。
 海が生まれてそれを消し、森ができて生き物が誕生しました。
 そして宝石が作られます。この宝石というのは鉱石や金属の加工、つまり人間の文明とされて、後に『銀』の言葉が当てられました。
 最後の『空』は、世界が天雷で滅びるという解釈がされています。なにもない空に還るともいわれています。
 そして新たに虹が輝いて世界は繰り返されていく、という神話の内容です。

 今日はその虹曜日です。きのう世界が滅んだわけではありませんが、おおかたの仕事は空虹祝日は休みですので、買い物であったり旅行であったり、家でゆっくりとされている方も多いのではないでしょうか。
 宮廷公務員も一部を除き公休日ですので、私もいまは朝の王都の早朝の休日を眺めています。

 冒険者ギルドは年中無休なので今日も開いています。
 さすがにこの時間ではそこまで騒がしくもないのですが、待ち合わせはここの外にしました。
 この建物の通りを出るとすぐに大通り馬車の停留所があるので、時間の都合を考えてのことです。出発が早いぶんに越したことはありませんから。
 まだ朝の少し早い時間なので見慣れた通りも静かです。
 この建物の二階に勇面室はあるのですが、休日にひっそりとした職場を外から見るのはどこか不思議な感じがします。

 昨日のうちに出発の準備はできていますので、あとは冒険者のアリーさんを待って現地へ向かうだけです。
 調査は半日ほどの予定なので冒険技能よりも戦闘能力を考えての最適な冒険者を雇いました。今回の実地調査はなおさら実力の高い冒険者でなければなりません。もっとも、そのモンスターが発見されなければ王都にとって幸いなのですが。

 やはり気品は隠せないというか、軽装備の身なりをいえば冒険者なのですが、雰囲気という曖昧なものですらはっきりと洗練した形を成す歩き姿です。人通りが多かったとしても、はっと目に留まるかもしれません。
 私に気づいて、かけ足になってきました。近づくにつれ、胸部の銀色の鎧さえなければ愛想のいい学生であるとか、都会の踊り子であるとか思われるかもしれません。職業でいうと魔法戦士なのですが。

 アリー・スターさんです。限りなく偽名に近いのですが、本来の名を呼ぶわけにはいきません。あくまで適切な冒険者として調査の護衛として雇いました。
「スターちゃん、おはよう! 時間前に来たつもりだったの。待った? 待ったよね、もうちょっときれいな鎧がいいかなって思ってね、昨日から磨いてたんだけど、やっぱり着てこなきゃよかったかなって、でも迷うほど服も持ってないし、それにね、もう普段着が鎧みたいになっちゃてるから……」
 アリーさんは結った先の長い金髪を指先でさわりと弄り、上目遣いで言います。私からすると大抵のひとは顔を見上げているわけですが。
「近場ですがモンスターとの遭遇を想定していますので、それでよろしいかと思います」
「マントも染みがついてるからね、洗ってたの。まだちょっと湿ってて……。でも、スターちゃんと冒険なんて夢みたい。ああ……落ち着く……」
 アリーさんの顔が私に近づいてきます。近すぎではないでしょうか。鼻を埋めながら私はにおいを嗅がれています。小動物のにおいらしいです。
「さっそくですが大通り馬車へ乗ります。王都南中央門で駅馬車へ乗り換え、現地に近い駅で降車予定です。それと今回は調査ですので、冒険にならないことを祈っています」

 地理局の定義する『冒険』とは、指定地域内の戦闘行為を含む半日以上の滞在です。
 今日の調査において目的内外のモンスターとの遭遇ならびに戦闘行為の想定はしていますが、調査と安全が優先ですので可能な限り回避します。
 それと調査時間は遅くても昼過ぎまでです。
 駅馬車の最終時刻である夕刻までに帰宅できなければ翌日の勤務に影響を与えてしまうからです。欠勤はもちろんのこと遅刻であっても面接業務に支障をきたすことになりますから。
 そして馬車を待ちます。

 先日の面接者曰く、ビースト・嵐獅子神ウガルルム種と遭遇し討伐成功、だそうです。経緯のどこまでが事実かを確かめる必要があります。
 もちろん勤務外の実地調査ですので、職務に差し支えがあってはいけません。
 個人的な興味を含んでいますので、アリーさんへの依頼費用も実費ですし、私のこの『ゆうしゃ冒険セット』も私物として購入したものです。水を容れたスキットルや敷きものなどがコンパクトにリュックに収まっています。

 『魔獣』に分類されるウガルルムが王都の近くに出現しては王都の危険につながります。
 かといって魔法局の保安部や王都警備兵に報告しては、面接者情報の守秘義務が守られません。なにより、単純に生態への興味があるので自分で調査します。
 もちろんアリーさんにも詳細については教えていません。行き先と、とある情報でリストにないモンスターが現れた可能性がある、とだけ伝えたのですが、二つ返事で快く護衛を承諾してくれました。
 調査対象は凶暴なモンスターではあるのですが、いるかいないかわからないものを探して調べるというのは、楽しいものです。

 ウガルルムについては出現の真偽を本人へ尋ねに行けば明確になるのかもしれないのですが、職務外のことですし、合否結果の郵送到着前に面接者へ接触することは面接官として避けたいところです。
 それに公休日ですのでお休みのところをわざわざ尋ねるのも気兼ねします。あれだけ大見得を切って事実を話してくれるとも限りませんし。
 合否結果でいえば、管理局からの発送が早くても週明けの風曜日か炎曜日になりますので、私としては来週を待つよりも早く調査をしたいわけです。
 試験に関する郵便物は官公庁発送の個人宛郵便ですので、それなりに早く正確に届くのですが、これがもし一般郵便であれば各地区に点在する郵便広場に受取人各々が取りに行く仕組みです。王都は広いですから。
 それで広い王都街中の移動でも、大きな通りを定時巡回している、ちょうどいま来たような乗合馬車がよく使われます。

「私、王都では乗ったことないかも……うん、ない。初めて」
 アリーさんは王都で乗合馬車を利用するのが初めてのようです。さすがにほかの街ではあるのでしょう、いちおう現在は冒険者ですから。
 私も徒歩通勤なのでこの乗合馬車を使う機会はあまりないのですが、まえに定員を越えて二十人ほどが屋根にまで乗って混雑していたので、見送って次を待ったことがあります。
 今日はまだ始発から二本目の便なので空いています。停留所に掲げてある時刻ぴったりではありませんが。
 先客のご婦人の横に並んで座ると、アリーさんが声をかけられました。
「あなた、どこかで……あっ、王女殿下にそっくりねえ、何年前だったかしら、殿下のお誕生日パレードで、ほら、大通りでパレードがあったじゃない。ちょうどこの辺りで私も拝見できたのよ。とてもおきれいで見とれたもの。本当にそっくりねえ、あなた」
 アリーさんは困った笑顔で返します。
 そのときの主役は王室の絢爛馬車列の中央から市民へ手を振っていましたから、一般人の利用する乗合馬車など乗ったこともなかったでしょう。

 ふと疑問に思ったので、私はご婦人に尋ねてみました。
「少しお尋ねします、現在の王女殿下のご所在をご存知ですか?」
「ええと、なんだったかしら、どこかでご留学されたあと、船旅で保養して……ああ、そうよ、今は王族のたしなみとして、しとやかにお茶を習いへ遠い国まで行かれているのよね?」
 アリーさんは自分の膝に突っ伏しました。これから勇ましくモンスター退治になるかもしれません。

 がたごとと王都を揺れる乗合馬車は、馬車中央組合という民間業者が国から委託されている交通事業です。
 略称として『バチュ』とも呼ばれています。小型の馬車で行き先を指定できる宅地用移動馬車会社もあるのですが、こちらは『タクチー』と呼ばれています。
 バチュはいま私たちが乗っている南北直線の大通り馬車のほか、王都の内周と外周の道路をそれぞれ巡回して走っています。
 ちょうど内周に差し掛かると、交差点に内周を廻るバチュが停車しています。こちらが早かったようです。
 この大通りは王都の中央をまっすぐ縦に走っていますので、内周通りとは十字路になるわけです。
 馬車の往来は交通事故が起きないように、公務員の交通員さんが両手に国旗の旗を持って指示信号を出しています。
 そして内周通りを横断します。見上げれば古い城壁が内周地区を囲み、今は王都の観光名所のひとつになっています。そしてまっすぐ外周地区へ、馬車は停留所で時おり停まり、蹄の音を奏でて走ります。

 この外周地区にも城壁はあります。まだ古いとまではいえず、本来の用途で使われたことはありません。使われるような事態を待たず、さらに王都が広がったからです。
 王都には城壁の数だけ拡張された、城塞都市の歴史があります。
 周囲が広い平原であるのも理由です。
 現代では最も外側の城壁は簡易的なもので、壁としてはあまり機能してはいません。今や外壁をはみ出して住宅が建てられていきますから。
 歴史はこうした過程で都市を発展させていくのでしょうか。土地境界や不動産登記で揉めながら。

 外周地区に差し掛かると、それぞれ設けられた大外門が、旅人を商人をと招き入れています。
 その南門中央で駅馬車に乗り換えます。
 するとなんでしょう、モンスターでしょうか、輪郭だけを見ると肥満巨人トロールなのですが、大きさは人間です。こちらへ手を振っています。
「室長! 遅いですよ! わたし始発で来てずっと待ってましたよ! ずるいですよ室長、わたしと遊ぶって言ったじゃないですか」
 言っていません。
 リリーです。大荷物を背負っていますが旅行にでも行くのでしょうか。
 丸く太らせた荷物の大きさからすれば引っ越しの可能性もあります。わずかな可能性として、発言から推察するに、私たちと同行するつもりでいるということも考えられます。

「きのう地理局で冒険許可証を取ってたでしょう? 私も取りました! アリーさんからも聞きましたよ! わたしを置いて行こうとしてましたか? そんなわけないですよね? そんな少ない荷物で冒険の旅なんてできませんもんね、わたしがいるから大丈夫ですよ!」
「リリー、冒険でも旅でもありません。そうならず調査のみを行えるようにアリーさんに同行を依頼したのですが」
「ええとね、リリーさんに、勇面室の大事なお仕事だからって聞かれて、行き先を教えたんだけど……ごめんなさい?」
 勤務外の実地調査です。
 休日にまで騒がしい秘書といっしょに行動しているのは、どこか不思議な感じがします。

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