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第十二話 神様 世界に光をあたえる
しおりを挟むふわふわした雲の上で、俺は今日もハンバーガーを頬張りながら下界を見下ろしていた。神様になって半年、ここからの眺めはいつ見ても飽きない。地上の人間たちの日常を覗き見るのは、前世のコンビニバイト時代には想像もできなかった特権だ。
「やれやれ、今日も世話の焼ける人間どもだな」
いつものように白髪の長い天界の先輩神(通称「じいさん」)が、金の杖で雲をつついている。この年季の入った神様と俺がコンビを組んで、人間界の問題を解決してきたのも今日で最後になる。
「じいさん、最終話だぜ。何か壮大なことをやって締めたいんだよな」
俺がハンバーガーを咥えたまま言うと、じいさんは細い目をさらに細めて笑った。
「ほう、最後を飾るとな。そなたが転生してから色々と暴れまわったが、最後は何をするつもりだ?」
「恋愛系かな。でも、ただのラブストーリーじゃつまらない。もっと…なんていうか…宇宙的なスケールでさ!」
「たかが恋愛を宇宙スケールにするとは。相変わらず大風呂敷を広げるのう」
じいさんの苦笑を横目に、俺は下界のスクリーンを操作した。様々な人間たちの姿が映し出される中で、ひとりの女性が目に留まった。
「おっ、この子いいじゃん」
スクリーンに映るのは、星空の下で一人たたずむ女性。名前は星野みずき(25歳)、天文台で働く研究員だ。彼女の横顔には、どこか切なさが滲んでいる。
「この子、昔から星が好きで天文学者になったんだけど、最近仕事一筋で恋愛から遠ざかってるらしい。元カレの高橋健太(26歳)とは一年前に別れたみたいだが…」
俺がスクリーンをスクロールすると、別の場所にいる青年の姿が映った。瞬間、じいさんが「おや?」と声を上げる。
「どうかしたか?」
「いや、この二人、赤い糸で繋がっておるではないか」
じいさんの目には、俺には見えない運命の赤い糸が見えるらしい。つまり、みずきと健太は本来結ばれるべき相手ということだ。
「マジで? それなら話が早いな!」
俺は目を輝かせた。最終話にふさわしい壮大な計画が浮かんできた。
「じいさん、俺、決めたぜ! この二人を運命の再会させて、そして…」
「そして?」
「世界中の運命の相手同士を一斉に結びつけてやる! 最終話だし、地球規模の幸せでフィナーレを飾るぜ!」
じいさんは「おいおい」と呆れた表情を浮かべるが、その目はどこか期待に満ちていた。
「やれるものならやってみろ」
「任せろって!」
俺はハンバーガーを雲の上に置き、両手を広げた。神力を集中させる。下界のスクリーンが星野みずきに拡大される。
星野みずきは、天文台の望遠鏡を調整しながらため息をついた。今夜は流星群の観測日。いつもなら胸が躍るはずなのに、どこか虚しさを感じていた。
「みずき先輩、準備できました!」
新人スタッフの声に、みずきは微笑みを作って振り向く。
「ありがとう。今から観測を始めるね」
みずきが望遠鏡を覗き込んだ瞬間、不思議な光景が広がった。無数の星が、まるで意志を持ったかのように動き始めたのだ。
「え…? これは…」
望遠鏡から顔を上げると、夜空には信じられない光景が広がっていた。星々が集まり、巨大な矢印を形作っている。そして、その矢印は天文台から離れた公園の方向を指していた。
「先輩、あれ見てください!」
同僚たちも騒ぎ始める。みずきの頭の中では、科学者としての理性と、人間としての好奇心が衝突した。結局、好奇心が勝った。
「ちょっと確認してくる!」
みずきは天文台を飛び出した。
同じ時刻、健太は仕事終わりに立ち寄った公園のベンチで、疲れ切った体を休めていた。IT企業のプログラマーとして、毎日画面とにらめっこの日々。今日も残業続きで、精神的にも肉体的にも消耗していた。
「はぁ…なんのために働いてるんだろう」
星空を見上げた健太の目に、異変が映った。星々が集まり、何かのメッセージを形作っている。
「なんだあれ…?」
メッセージは「振り向け」と読める。健太が首をかしげながら振り向くと、公園の入口に立つみずきと目が合った。
「み、みずき…?」
「健太…くん?」
二人は驚きの表情を浮かべたまま、その場で凍りついた。
雲の上で、俺はニヤリと笑った。
「よっしゃ! 第一段階成功!」
「なるほど、星を使って二人を再会させたか。派手好きよのう」
じいさんは感心したように頷いている。
「でもこれじゃまだ足りないんだよ。この二人、お互い好きなのに意地っ張りで素直になれないタイプなんだ。もうひと押しが必要だな…」
俺は指をパチンと鳴らした。
公園の夜空に、今度は星々が「運命だ」という文字を形作る。みずきと健太は同時に空を見上げた。
「これ…何かの悪戯?」みずきが呟く。
「いや…もしかして…」健太は何かを思い出したように目を見開いた。
「何?」
「いや、覚えてるか? 俺たちが初めて会ったとき、流星群の観測会だったよな。お前が言ってたじゃん。『星は時々、人間に大切なことを教えてくれる』って」
みずきの頬が赤くなる。「覚えてたの…?」
「忘れるわけないだろ」健太は照れくさそうに頭をかく。「あの日から俺、星を見るたびにお前のこと思い出してた」
「私も…」みずきは小さな声で言った。「毎晩星を見てるけど、あの時の流星群が一番きれいだった」
二人の間に沈黙が落ちる。その時、一筋の流れ星が夜空を横切った。
「願い事、した?」健太が聞く。
みずきは静かに頷いた。「うん…でも言えない」
「俺も」健太が微笑んだ。「でも、多分同じ願い事だと思う」
雲の上では、俺が天井に向かってガッツポーズを決めていた。
「よっしゃあ! パーフェクトだぜ!」
「ふむ、なかなかやるではないか」じいさんも満足げだ。
「でも、まだ終わりじゃないぜ。最終話なんだから、もっとでかいことやるって言っただろ!」
俺は立ち上がり、両腕を大きく広げる。神力を最大限に高める。全身から金色の光が溢れ出した。
「世界中の運命の相手同士…今こそ結ばれよ!」
俺の叫びとともに、巨大な神力の波が地球全体を包み込む。
世界中で、不思議な現象が同時多発的に起こり始めた。
ニューヨークでは、20年前に別れた恋人同士が偶然同じタクシーに乗り込み、再会した。
パリでは、片思いを秘めた青年の前に、電車の遅延で偶然憧れの人が現れた。
東京では、SNSのバグでたまたま繋がった男女が、実は幼稚園時代の初恋の相手だと気づいた。
ローマでは、結婚式場で働く女性と、そこで結婚式を挙げる予定だった(実は婚約者に逃げられた)男性が出会った。
世界中で、運命の相手同士が不思議な偶然で再会し、結ばれていく。そして空には、一斉に流星群が現れた。
みずきと健太は、そんな世界規模の奇跡を知らないまま、二人だけの小さな奇跡に浸っていた。
「なあ、みずき。別れてから俺ずっと後悔してた。もう一度やり直せないかな」
健太の言葉に、みずきの目に涙が浮かんだ。
「私も…ずっと待ってた。あなたからのその言葉を」
二人が見つめ合ったその瞬間、夜空には前代未聞の流星群が出現した。あまりの美しさに、世界中の人々が空を見上げた。
雲の上で、俺は大きく息を吐いた。全力で神力を使った後の疲労感が体を包む。それでも、達成感で胸がいっぱいだった。
「やりすぎじゃないか?」じいさんが苦笑する。
「最終話だからな! 盛大にやらないと」
俺は雲の上に仰向けに寝転がり、自分の仕掛けた流星群を眺めた。世界中の人々の幸せな表情が、スクリーンにモザイク画のように映し出されている。
「転生して神様になって、色々やってきたけど…これで良かったんじゃないか?」
「ああ、そなたは型破りな神だったが、人間たちを幸せにするという本質は忘れなかった。立派なものだ」
じいさんの褒め言葉に、俺は照れくさそうに笑った。
「じゃあ、最後にもう一つだけやらせてくれよ」
俺は最後の神力を振り絞り、世界中の空に大きなメッセージを星で描いた。
「ありがとう、そしてさようなら」
そのメッセージは、様々な言語で世界中の空に浮かび上がった。科学者たちは混乱し、宗教家たちは啓示と呼び、恋人たちは互いを抱きしめた。
みずきと健太も、そのメッセージを見上げていた。
「神様からのメッセージかな」みずきが微笑む。
「俺たちだけじゃないみたいだな、この奇跡」健太も笑顔で答える。
二人は指を絡ませ、流星の光に照らされながら歩き始めた。
「これで、俺の『転生したら神様になっていた』も完結だな」
俺はハンバーガーの最後の一口を頬張りながら呟いた。
「完結? 神の仕事に終わりはないぞ」じいさんがニヤリと笑う。
「まあな。でも一旦区切りをつけないと、読者が飽きるだろ?」
「読者?」
「あ、いや、なんでもない」
俺は雲の上から下界を見下ろし、笑顔で溢れる世界を満足げに眺めた。どこかで「神様!」と呼ぶ声がすれば、また飛んでいくつもりだ。でも今は、ハンバーガーを食べながらこの光景を楽しもう。
だって俺は、なんでも助けちゃう転生神様なんだからさ!
(完)
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