「完結」幕末で響く銃声はスナイドル

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第四章 過去の武人

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源四郎は地図の断片を懐にしまい、スナイドル銃を握り直した。銃身はまだ温かく、火薬の焦げる匂いが鼻をつく。倉庫街の静寂は、戦闘の余韻で重く沈んでいた。倒れた刺客たちの血が石畳に広がり、潮の匂いと混じる。だが、源四郎の耳は新たな足音を捉えた。軽く、しかし統率された足音。複数だ。彼は息を殺し、蔵の影に身を潜めスナイドル銃のブリーチをそっと開き、薬莢を確認した。左近の言葉が脳裏に響く。「スナイドルなら、一分間に4発だ。だが、銃声は敵を呼ぶ諸刃の剣だ」。
闇の中から、新たな黒装束の刺客たちが現れた。七人。前の五人よりも動きに無駄がなく、目には殺意が宿っている。三人が刀、一人が槍、一人が短筒、そして二人が見慣れぬ長銃を持っていた。源四郎の目が細まった。あの長銃もスナイドルだ。黒龍会がすでにスナイドル銃を手にしている証拠だ。彼は心の中で舌打ちした。短筒や刀なら、剣術と銃の組み合わせで対抗できる。だが、同じスナイドル銃を持つ敵は、射程と速射性で互角。いや、数の上では不利だ。
「そこにいるのは佐々木源四郎だな!」リーダー格らしい刀の男が叫んだ。声は低く、どこか聞き覚えがある。源四郎は記憶を探った。幕府の道場で聞いた声だ。だが、今は考える暇はない、身を潜めたまま、源四郎は銃を構えた。まずスナイドル銃の二人を仕留める。遠距離からの攻撃が鍵だ。
彼は物陰からスナイドル銃の男の一人に狙いを定めた。
肩に銃を当て剣術の呼吸法を応用し、息を整える。パンッ! 鋭い銃声が響き、スナイドル銃の男が胸を押さえて倒れた。火薬の煙が漂い、源四郎は素早く次の薬莢を装填した。
二発目の銃声が響き、もう一人のスナイドル銃の刺客が肩を撃たれて崩れた。だが、銃声が源四郎の位置を暴露した。短筒の男が火を噴き、弾が蔵の壁をかすめた。源四郎は冷静に距離を保ち、三発目を撃った。パンッ! 短筒の男が倒れ、残りの四人が一斉に動いた。
刀の男二人が左右に分かれ、源四郎を挟み撃ちにしようとした。槍の男は正面から突進し、リーダー格の男は背後の蔵に退避した。源四郎は舌打ちし、剣術の勘を頼りに動いた。槍の男が突きを繰り出した瞬間、源四郎は横に飛び、槍の穂先をかわした。スナイドル銃を構える暇はない。彼は短刀を抜き、北辰一刀流の技で槍の柄を叩き、男のバランスを崩した。すかさず短刀を男の喉に突き刺し、倒した。
だが、刀の男二人が同時に襲いかかってきた。源四郎は地面を転がり、一人の刀をかわした。もう一人の刀が肩をかすめ、黒装束が裂けた。血が滲む。源四郎は痛みを無視し、スナイドル銃を拾い、素早く装填。パンッ! 一人の刀の男が膝を撃たれ、叫び声を上げて倒れた。だが、もう一人の刀が源四郎の背後に迫る。振り返る暇がない。源四郎は本能で短刀を投げ、男の腕に命中させた。男が刀を落とし、源四郎は一気に距離を詰め、短刀で仕留めた。
残るはリーダー格の男。蔵の影から姿を現した彼は、刀を構え、静かに歩み寄ってきた。「佐々木源四郎。やはりお前か。道場以来だな」。その声で、源四郎は思い出した。藤堂玄蕃。かつて幕府の道場で剣を競った男。開国派に与し、幕府を見限った男だ。「藤堂…黒龍会とはお前だったのか」。源四郎の声は低く、怒りを帯びていた。
藤堂は笑った。「幕府は終わった。刀の時代もな。スナイドル銃こそ、新時代の力だ。お前もそれを使っているじゃないか」。彼は腰の短筒を抜き、構えた。源四郎はスナイドル銃を握り直した。藤堂の短筒は射程が短い。だが、蔵の狭い空間では、距離を取るのが難しい。源四郎は壁に身を寄せ、藤堂の動きを見た。
突然、藤堂が短筒を撃った。弾が源四郎の脇を掠め、木箱に突き刺さった。源四郎は咄嗟にスナイドル銃を構え、引き金を引いた。パンッ! だが、藤堂はすでに物陰に隠れていた。弾は蔵の壁に命中し、木屑が舞った。

藤堂の声が闇に響いた。「無駄だ、源四郎。この蔵にはスナイドル銃が百挺ある。お前一人でどうする?」。源四郎は答えた。「なら、俺がそれを止める」。彼は藤堂の声の方向を見極め、静かに移動した。剣術の足捌きが、銃の戦いにも活きた。物音を立てず、蔵の柱の影に身を隠す。藤堂が姿を現した瞬間、源四郎は狙いを定めた。パンッ! 弾は藤堂の足元をかすめ、石畳を砕いた。藤堂が再び隠れ、短筒を乱射してきた。
源四郎は冷静に距離を保ち、藤堂の動きを読んだ。短筒の装填は遅い。藤堂が火薬を詰める隙を狙い、源四郎は一気に蔵の出口へ走った。外の開けた空間なら、スナイドル銃の射程が有利だ。だが、藤堂は予想以上に速かった。刀を手に追いかけてくる。源四郎は振り返り、銃を構えた。パンッ! 弾が藤堂の肩をかすめ、血が飛び散った。藤堂は呻きながらも、蔵の奥へ逃げ込んだ。
源四郎は追うのをやめた。銃声でさらに敵が来る可能性がある、今は蔵の場所を特定することが先決だ。
銃を背に掛け、肩の傷が疼いたが、構わず歩を進めた。
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