上 下
60 / 93
幕末妖怪の章

雛妃仕出かす。

しおりを挟む

ある日の早朝雛妃は中庭で一人木刀を持ち素振りをしていた。
道場への立ち入りを禁止された雛妃は身体が鈍らない様にと素振りを始めたのだった。
まだ空が白んで来た頃、中庭に出るのが日課になっていた。
それについては近藤と土方に了解を取っていた。

「ふぅ~…」
額に滲んだ汗を拭うとふと雛妃は思った。
これが間違いだった、そんな事を考えなければ良かったと後で後悔するのだった。

「ここの皆は妖怪なのよね?色んな妖術も使えるし。」
一度だけ見た平助が刀から斬撃を放ったのは凄くかっこよかった。

「私も出来るかしら?」
雛妃は腰に木刀を構えると呼吸を整え精神統一する。
何かが身体を巡り、手に集まっていく感覚それに合わせて素早く木刀を振った。

ーシュバッ!!メキメキ…ドゴォォォォォオン

「へっ?」
何故か木刀から青い斬撃が出て中庭の大きな松の木を切り倒していた。
呆然としているとドタバタと廊下を走る音が幾つも聞こえてきた。

「「「「何事だ!!」」」」
皆はだけた浴衣姿で廊下で中庭の惨状を唖然として見ていた。

「「「「…。」」」」

「……………てへ?」
言わなくても察して欲しい。
直ぐに私は近藤さんの部屋へ連行されて皆に囲まれ居た堪れない状況になっている。

「あー、つまり私達の妖術に憧れて真似をしたらああなったと言う事で良いのかな?」

「はい…」
近藤さんも戸惑っているのか顔が引き攣っている。

「でもさ雛妃、真似しようとして人間の雛妃が簡単に出来る様なもんじゃないぜ?」
へーちゃんが言うのも後最もだ、私だって出来ると思っていなかったんだもの。

「やってしまったものは仕方ない。この事は口外禁止とする。後は私と歳に任せてくれ。」

「雛妃は早朝の素振りも禁止だ。良いな?」

「はい…」
私はすっかり落ち込んで着替えてから厨房へ向かった。
雛妃が去り解散した後、近藤と土方は急ぎ先見の龍の元へ向かった。

「先見の龍…」

「おお、どおした険しい顔をして。」
先見の龍は見えない目を細め近藤を見た。

「雛妃が妖術を使った。」
土方がぶっきらぼうに言うと龍は更に目を細めた。

「ほう…それで?」

「雛妃は何者ですか?貴方は雛妃を知っている様に話していました。何か貴方と関係があるのではないですか?」

「ふむ…」
龍は天を仰ぎ仕方ないと近藤と土方と向き合った。

「雛妃が妖術を使ったのは…雛妃が儂の娘…いや、遠い子孫に当たるからじゃ。先祖返りとでも言うのかのう?」
それから龍は遠い昔の話を二人に話して聞かせた。

しおりを挟む

処理中です...