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幕末妖怪の章
龍族の姫
しおりを挟む「兆しは…もう出ておる。雛妃が妖術を使った時点で覚醒しうる状態にはあるじゃろう。」
「寄りによって龍族の姫かよ…」
土方は額に手を当てた。
龍族の姫とはとても貴重な存在、龍族には中々雌が産まれない。
稀に数百年、数千年に一度女が産まれる時がある。
よって龍族は個体数が少ないのだ。
妖怪の世界でも龍族は力が強く長寿な為、龍族の姫ともなれば全妖怪が守る対象となる。
妖怪も誰もが良い妖怪とは限らない。
雛妃の覚醒した姿がどうなるかは分からないが、鱗があればそれを狙う者が出るだろう。
ある者は龍族の雌だけに流れる特殊な血を求め雛妃の命を狙う者も出てくるのだ。
これには近藤も土方も頭を抱えた。
「仕事が増えるじゃねえか…」
「ホッホッホ…お主等は妖怪の中でも精鋭揃いじゃろ。大丈夫じゃ、お主等が雛妃を守らぬとも雛妃は強い。それにあの雪男、雪夜じゃったかのう?儂の娘に惚れておるじゃろう?アレが何に変えても雛妃を守るじゃろ。」
「確かに…雪男は一途ですから。惚れたら一生その愛を貫き通す習性がありますが…」
「それに山崎じゃ。愛宕山太郎坊奴は八天狗が一人じゃ。」
「しかし…知世になんて説明すりゃあ良いんだよ…」
「先ずは雛妃を儂の所に連れて来るのじゃ。さすれば真実を知った雛妃がどうにかするじゃ ろう。玖浪から説明されるより雛妃本人から言われる方が雛妃の友も納得するじゃろう。」
「分かりました。直ぐに雛妃を連れて来ます。」
「うむ、早い方が良かろう。そう言えば、ダイダラが何か拗ねておったが?」
「あー…それは、雛妃が平八郎と言う男とその家族を助けたのですが…」
「俺達から金をふんだくって言ったんだ。それに雛妃から声が掛からなかったのを拗ねてんだよ。」
「ふむ、成程なあ。儂の娘は心根が優しい娘に育った様じゃな。」
「俺達から金をふんだくって行く娘の何処が優しいんだよ…」
土方は呆れた顔をした。
「良いではないか、お主等はたんまり溜め込んでいよう?今回の出費とて痛くも痒くもなかろう?」
「まぁその…ゲフンゲフン…」
近藤は気まずそうに咳払いで誤魔化した。
確かに使い切れない程の資産を溜め込んでいるのは事実だったからだ。
「では雛妃の事は頼んだ。良き日に雛妃を儂の所に連れて来るのじゃ。」
「分かりました。」
「あぁ、分かった。」
近藤と土方は先見の龍の洞窟を後にした。
「なぁ歳…」
「あ?」
「龍の横にある石碑は…」
「ああ、恐らく雛妃の本当の母親の墓だろうな。」
龍の左横には小さな石碑とその周りは沢山の花が咲き誇っている。
「雛妃はこの事実を受け止められるだろうか?」
近藤も土方も幼い雛妃を知っている為、自分の娘の様な者だった。
そんな雛妃にこの事実を伝えるのは酷だと雛妃を心配していた。
「先ずは他の奴等に話をしとかねえと、何かあった時動けねえぞ。」
「そうだね、先ずは皆を集めよう。屋敷に着き次第私の部屋に集めてくれ。」
「分かった。」
複雑な思いのまま二人は屋敷へ急いだ。
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