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幕末妖怪の章

龍族の姫②

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「はぁ?!雛妃が龍の姫?!」
平助は飛び上がる程驚いていた。
近藤と土方は屋敷に着くなり皆を集め雛妃の事を話して聞かせた。

「龍の姫君たぁ…偉い事になったね?」

「左之さん!偉い事所じゃ無いじゃん!俺達雛妃を守らなきゃ!!」

「守るって言っても雛妃は強いじゃない?」
原田は苦笑いした。
平助も雛妃の強さは知っている為押し黙った。
斎藤は難しい顔をして畳を睨んでいた。
山崎は屋根裏から聞いていたが動揺したのか天井からガタガタと音がした。

「それで、雛妃を近々先見の龍の元へ連れて行く事になった。龍の話では覚醒の兆しはもう出ているそうだ。どうなるかは分からないが、我等としては覚醒して貰いたい。」

「龍族は少ないもんな。」
平助は龍族に並ぶ妖力の持ち主だ、龍族との親交も深い。

「龍族の姫の誕生なんて何千年振りだ?俺が産まれてからは聞いた事ねえな。」
永倉はうーんと考え込んだ。

「雛妃は今どうしてんだ?」
土方が聞くと平助が答えた。

「素振りまで禁止になったからそれを間際す様に厨房に篭って何か作ってるよ。」
雛妃を心配した平助が厨房を覗きに行った時、雛妃は物凄い勢いで何かを作ってるのを見たのだ。

「そうか…もう暫くそっとしておこう。」
近藤の意見に皆頷いた。
あの状態の雛妃の邪魔をしたらどうなるか…想像に容易かった。
その頃雛妃は…一心不乱に料理を作りまくっていた。

「雛妃…そんなに作ってどうしますの?」
知世が話し掛けても反応もせず鍋に向かっている雛妃を止める術を知世は持ち合わせていなかった。

「今日の夕食はご馳走ですわね…」

「その様ですね…」
声のした方を見ると島田が厨房に並ぶ料理の数々を見て唖然としていた。

「島田さん、雛妃がちょっと暴走気味ですの。」

「はい、見たら分かりますが…この量、隊士達で食べきれますかね?」

「ですわね、こうなった雛妃を止める術を私知りませんの。早く我に返ってくれるのを願うしかありませんわ。」

「知世殿、ここは私が見て居ます。土方殿が呼んでいました行ってきて下さい。」

「分かりました。雛妃を宜しくお願いします。」
知世は島田に雛妃を任せ、土方の部屋へ向かった。

「土方さん、知世です。」

「あぁ、入れ。」

「失礼しますわ。」
知世は土方の前に置かれた座布団に座ると少し困り顔の土方と向き合った。

「どうしましたの?顔に隠し事があると書いてありますわよ?」

「嫌な…雛妃はどうしてる?」

「暴走気味ですわよ?厨房は料理で溢れて居ますし、島田さんが食べ切れるか頭を抱えていましたわ。」

「そうか…止めれねえのか?」

「貴方は私に死ねと言っているんですの?ああなった雛妃を止めに入った雛妃のお兄様がどうなったかお聞きになりたいですか?」

「いや、いい…悪かった。雛妃が落ち着いたら近藤さんの部屋に連れて来て欲しいんだ。」

「またお説教ですの?」

「今度は違え。近藤さんから雛妃に大切な話がある。後で雛妃から知世にも話が行く筈だ。頼めるか?」

「良いですわよ。貴方からの頼みですもの。」

「悪いな…」
土方は優しく知世を抱き締めて唇を重ねた。
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