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幕末妖怪の章

真実の狭間で…

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雛妃が我に返ったのはもう空が茜色から群青色に変わろうとしている頃だった。
雛妃が作った大量の料理は島田によって運ばれ、この日隊士達は腹いっぱい…過ぎる程の夕食を食べる羽目になったのだった。
その後、雛妃は近藤と土方と向き合って座っていた。

「雛妃…」

「ごめんなさい!!」
雛妃は近藤を遮り頭を下げた、所謂土下座だ。

「料理…作り過ぎちゃって…」

「あぁ、それは良いんだ。今日は別の話があって呼んだんだよ。」

「へっ?別の話?私お説教じゃないの?」

「違うよ。」
近藤の言葉に雛妃は胸を撫で下ろした。
すっかりお説教コースだと思い込んでいた。

「雛妃、この前お前は妖術を使ったのを覚えてんだろ?」

「はっ?妖術?」

「斬撃で松の木倒しただろうが!あれが妖術だ。」
土方が言った事が理解出来ず雛妃は目を見開いた。

「ひ、ひーちゃん?私は人間よ?妖術が使える訳ないじゃない。」
やだなぁ~もうとおどけて見せた。
しかし、近藤も土方も真剣な眼差しで雛妃を見ている為雛妃はアタフタした。

「雛妃、お前は半妖だ。」

「半妖?」

「雛妃は龍族と人間の間に産まれた半妖なんだよ。」

「待って!私の両親は正真正銘人間よ?私が半妖な筈ないじゃない。」
土方は溜息を吐き、近藤は眉を下げた。

「雛妃の本当の父親の龍が雛妃を時空に逃がしたんだよ。何処に着くかも分からないが雛妃を最初に見つけた者が雛妃を本当の娘だと思い込む様に術を掛けてね。でなければ雛妃は殺されていた。雛妃を逃がす為に龍は禁術を使い視力を失ったんだ。」

「嘘よ…だって私、お兄ちゃんだって居る。それに…」
雛妃は言葉に詰まった。
良く思い返せば兄達が産まれた時の写真はあるのに、雛妃の病院で産まれた時の写真は無かった。
あるのは一歳を過ぎた頃からの写真だ。

「思い当たる節がある様だね?雛妃は今はまだ人に近い。しかし、近いうちに覚醒するだろう。龍の姫としてね。」

「龍の姫?何よそれ…」
雛妃は近藤から龍族の雌は大変珍しく貴重な事、龍族の個体数も少なく覚醒すれば他の妖怪達に命を狙われる事を聞いた。

「私どうなっちゃうの?」

「分からないが、龍族として覚醒した雛妃がどんな姿になるかは私達も龍も分からないんだよ。ただ、私達は雛妃を全力で守るよ。」

「龍の姫は俺達他の妖怪にも大切な存在だ。俺達は雛妃に覚醒して貰いてえ。」

「そんな…」
雛妃は言葉が出なかった。
今までの両親や兄弟は本当の家族では無かった。
父親が龍の妖怪で、母親が人間…頭がついて行かない。

「雛妃、父親の龍がお前に会いたいがってる。会ってやってくれねえか?」

「私の本当のお母さんは…?」

「それは龍から直接聞いて欲しい。出来るだけ早く龍の元へ行きたいんだ。雛妃の覚悟が決まったら行こうと思う。急には雛妃も戸惑うだろう?」

「いっちゃん…私、行く。ちゃんと話を聞かなきゃ。」
雛姫は強い意志を宿した目で近藤と土方を見た。

「分かった。今夜行く、雛妃もそのつもりでいてくれ。準備が出来たら私の部屋においで、龍の元へ案内するよ。」
雛妃は近藤に頷くと近藤の部屋を後にした。
パタリと閉まった襖を見ながら近藤は溜息を吐いた。

「雛妃は大丈夫だろうか?」

「最初は戸惑うに決まってる。今まで人間だったんだ急に半妖で、今まで本当の親だと家族だと思ってた奴等が偽物だと言われたら俺だって戸惑うだろうよ。」
土方も雛妃が去った襖を見ながら眉を下げた。
雛妃は廊下を歩きながら色々な事を考えていた。
しかし、どれも実感が無く考えても何も纏まらない。
兎に角、龍に会うしか無いのは分かって居るくけど怖い。
龍に会う事で自分が本当に人間では無いとお持ち知らされてしまう気がするのだ。
雛妃は部屋に戻らず、雛妃が荒らした中庭の縁側に座って空を見上げていた。

「雛妃…」

「はーちゃん…」
斎藤は雛妃の隣に座ると雛妃と同じ様に空を眺めた。

「怖いのか?」

「…………。」
俯く雛妃の頭を斎藤は優しく撫でた。
その手が大きく余りに温かくて雛妃の視界は歪んで行った。
ポロポロと大粒の涙が溢れる。

「俺は…命懸けで雛妃を守る。龍の姫だからじゃない。雛妃だから守るんだ。」

「うん…」
返事をするのが精一杯だった。

「どんな姿になっても雛妃は雛妃だ。何も変わらない。」

「う…ん…」
雛妃は斎藤の胸で泣いた、その間ずっと斎藤は雛妃を抱き締め優しく頭を撫で続けた。
暫く泣くと雛妃は斎藤から離れ、涙を拭った。

「ありがとうはーちゃん。私行ってくる。」

「あぁ…」
廊下を走って行く雛姫を斎藤は切ない顔で見送った。
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