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幕末妖怪の章

雛妃の危機②

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「雛妃…」

「はっ、はい!!」
怒られると思って目を瞑るとフワリと優しく抱き締められた。

「もう、あんな事はしないでくれ。」

「ごめんね、はぁちゃん。もうしないよ。」
私は斎藤の背中に腕を回した。
斎藤さんの匂いはとても落ち着く。
何からも守られてる、そんな錯覚に陥るんだ。

「雛妃、もうあの鴉天狗には会うな。」

「何故?樟葉は私を助けてくれた恩人だよ?」

「駄目だ、あいつは駄目だ。」
斎藤は樟葉が雛妃に匂いを付けたのは自分の物だと保持する為だと斎藤は気付いていた。
同じく雛妃に惚れている者同士だから分かるのだ。

「雛妃は…渡さない。」

「?私は誰の所にも行かないよ?だから…」

「そうじゃない…」

「へっ?んん…」
私は斎藤さんに口を塞がれていた。
これはききききききききききききききききききききききききききききキス?!
長い…息が…もう限界。
私は斎藤さんの胸を叩いた。

「ぷはぁ!ハァハァ…死ぬかと思った。」

「雛妃、鼻から息をするんだ。」

「鼻から?ハァハァ…はぁちゃんなんで…」
言い終わる前に斎藤さんは私の額に自分の額を当てた。

「分かってくれ、雛妃。俺の気持ちを。」

「はぁちゃんの気持ち?」

「俺は何とも思ってない女を抱き締めないし、接吻もしない。」
私は何も言えなくなった。
斎藤さんの瞳が余りにも真剣だったから。

「俺は…俺はずっと雛妃だけ見て来た。雛妃が幼い頃から。」
まさかのロリコン発言に私はあんぐりと口を開けた。
ここで雛妃に斎藤はロリコンだと言う誤解が生じた。

「雛妃だけを…愛してる。」

「えっ?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
私は叫んだ。
まさかあの大人で無口で無表情な斎藤さんが私を好きだったなんて予想もしてなかったからだ。

「あ、愛、愛…愛し…」

「あぁ、雛妃を愛してる。」
斎藤さんはとても優しく笑った。
私の心臓は口から出てしまうんじゃないかと思うくらい暴れていた。

「私は…」

「良い、俺の気持ちを知っていてくれたらそれで。」
今日の斎藤さんは凄く饒舌だ。
こんなに話す斎藤さんは初めてだった。

「雛妃はまだ子供だ。俺は待つ、雛妃が大人になるまで。しかし、その間に誰にも渡すつもりは無い。」
私は真っ赤になった。
そりゃなるでしょ?斎藤さん見たいに綺麗な男の人に愛を囁かれたら気絶ものでしょ?

「雛妃。」

「はい?ん!!」
私は再度斎藤さんに口を塞がれてしまった。
ヌルと斎藤さんの舌が私の中に入って来て、私の舌を何処までも追ってきて逃がさない。

「んんー!!」
息!!息が…酸素を下さい!!
斎藤さんの大人なキスに私の腰は砕けていた。
力も入らない。
次第に遠のく視界には斎藤さんの色っぽい顔が映ったのを最後に意識を手放した。

「やり過ぎた。」
斎藤が呟くと何やら斎藤の部屋の襖の外が騒がしい。

「ちょっ押さないでよ!」

「シっ!斎藤さんに気付かれちゃうじゃない!」

「土方さん重いですわ!もう少し寄って下さい!!」

「あ、あぁ…悪い。」

「どうだい、やっとくっついたのかい?」

「雛妃は鈍いからね、斎藤さんがもっと押せば良いんだよ。」
ガタガタと襖が動くとパタリと襖が部屋の方に倒れて来た。
そこには平助を筆頭に知世や土方、近藤と全員揃っていた。
斎藤はクッタリと気絶してしまった雛妃を支えながら睨んだ。
斎藤からブワァと冷気が放たれると皆蟻の子を散らした様に慌てて逃げて行った。
それを見送った斎藤は眠る雛姫の髪を撫でた。
それはそれは愛しそうに。
この後目を覚ました雛妃は再び叫ぶ事になる。
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