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幕末妖怪の章
被害者は知世
しおりを挟むこの日、雛妃は厨房に籠っていたので知世は一人裁縫に精を出していた。
「ふう~、こんな感じでしょうか?」
知世は出来上がった物を持ち上げ確認した。
これは雛妃と知世の浴衣、時間を見ては少しずつ知世が作っていたのだ。
「雛妃は喜んでくれるでしょうか?」
浴衣を畳み、裁縫道具をしまっているとハラりと髪が前に垂れた。
「そう言えば髪がかなり伸びて来ましたわね…」
知世の腰まであった綺麗なストレートな黒髪はお尻まで伸びていた。
「誰かに頼んで切って貰い…んん!!」
「シッ!騒ぐな、騒いだり暴れたらここで殺す。」
知世は全力で頷いた。
「いい子だ。少し眠って貰う。」
知世は首への衝撃を最後に意識を失った。
知世が目を覚ましたのは大きな畳の部屋だった。
手は後ろで縛られていて動けない。
何時間此処に寝かされていたのか、身体が痛い。
耳を澄ますと廊下からだろうか誰かの話し声が聞こえて来た。
「あれは雛妃じゃないじゃない?!」
「す、すみません…姫と言われたのでそれらしいのを連れて来たんですが…」
成程、私と雛妃を間違えたんですわね?
という事はここは鴉天狗の屋敷と言う所でしょうか?
誰かが部屋に入って来る音が聞こえたので、知世はまだ気絶している振りをした。
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その頃、屯所でな知世が消えたと騒ぎになっていた。
樟葉の所に乗り込むと言う雛妃を斎藤が必死で止めに入り、直ぐに鴉天狗を殺すと言う土方を近藤が諌めていた。
「知世ちゃんはきっと私と間違えられて連れて行かれたんだよ?!私が助けに行かなきゃ!!」
「落ち着け雛妃。」
「これが落ち着いてられますか?!」
廊下で斎藤に羽交い締めにされる雛妃、雛妃の両足には平助と沖田がしがみついていた。
「へーちゃんもそうちゃんも離して!!」
「今話したら斎藤さんに凍らされちゃうよ!!」
「そうそう、平助の言う通り。俺はまだ長生きしたいんだよねー。」
一方、土方は狸の置物に変化した近藤に押し潰されていた。
「近藤さん!!どけ!!」
「歳が落ち着くまでどく気は無いよ。」
「くっそー!!知世!!」
「知世なら大丈夫だろう。歳より雛妃の方が危ないね、三人掛りでやっとか。」
近藤は溜息を吐いた。
近藤はどうしたものか次の行動を決めかねていた。
そうこうしているうちに雛妃達が居る廊下から爆音が聞こえて来た。
それと同時に平助や沖田が何やら叫んでいるのが聞こえた。
「雛妃を止められなかったか…」
近藤は呟いた。
「歳、雛妃が鴉天狗の所に向かった様だ。私は降りるが落ち着いてくれるかい?」
「あぁ、分かった。雛妃が向かっちまったら話は別だ。」
近藤と土方が廊下に出ると頭に大きなたん瘤を作った平助と沖田が廊下に倒れていた。
「斎藤君は雛妃を追ったのかい?」
「痛え~!!凄い勢いで追って行ったよ…」
「全く俺達はこんななのに、斎藤さん雛妃の拳全部避けるんだもん…嫌になっちゃうよね?」
「否…沖田君、君なら蛇の姿になれば雛妃を拘束出来ただろう?」
沖田は近藤を見て固まった。
ハッとした顔をしている所を見ると今気付いたのだろう。
近藤は頭を抱えた。
「兎に角、雛妃は斎藤が着いて行ったから大丈夫だろ?俺達はどうする近藤さん。」
「うむ、平助君は確か前に雛妃を斎藤君と共に追ったね?どうだった?」
平助は思い出すように腕を組み胡座をかくとハッと顔を上げた。
「駄目だよ近藤さん!!俺と斎藤さんで全力で追っても雛妃には追いつけなかったはさ、雛妃の奴妖気を消して俺達を撒いたんだ!!」
「ハッ?!平助と斎藤でも追いつけなかったの?雛妃どんだけ早く飛ぶの?」
土方は近藤に呟いた。
「近藤さん、龍は何て?」
「見守れと…雛妃が解決するだろうと言っていた。」
それを聞いた土方は溜息を吐くと平助と沖田を見た。
「俺達は待機だ。念の為原田と永倉にも広間に来る様に言ってくれ。」
「分かった。」
「えー、待機なの?一度鴉天狗とはやってみたかったんだけどなぁ?」
「また機会があるだろう。」
近藤は破壊された廊下で空を見上げた。
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