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幕末妖怪の章

友の叫び

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知世を助け出した雛妃は知世と縁側でお茶を飲んでいた。
勿論、斎藤もくっ付いている。

「はぁ~落ち着く。はぁちゃんが氷出してくれるから助かるよ。」

「雛妃の頼みだからな。」

「でも雛妃があんなに強い何て驚きましたわ。」

「私も吃驚だよ!力加減が出来なかったから樟葉のお屋敷壊しちゃったけど大丈夫かなぁ?」

「私を攫ったのは鬼ですわ。雛妃とあの方はお友達だったのでしょう?大丈夫ですか?」

「うーん、知世ちゃんを攫ったのは許せないよ?でも樟葉は…私を助けてくれた樟葉は凄く優しい人だと思うんだ。だから正直嫌いにはなれないかな。」

「ふふ、雛妃らしいですわ。私はそう言う雛妃が大好きです。でも、斎藤さんが焼きもちを焼いてますわよ?」

「えっ?」
隣に座る斎藤を見上げると何とも言えない顔をしていた。

「はぁちゃん?」

「雛妃は…あの鴉天狗を好きになったのか?」

「はっ?違うよはぁちゃん!樟葉は友達!友達として好きだよ。私にははぁちゃんだけ!!」
力説して雛妃は自分が言った事を考え赤面した。
しかも知世の前でだ。
そんな雛妃を斎藤は抱き締めた。

「ちょ、はぁちゃん!!知世ちゃんの前だよ?!恥ずかしい!!」

「あらあら、私は色んな雛妃が見られて楽しいですわよ?どうぞ、続けて下さい?」

「な、何を言ってるの知世ちゃん!!はぁちゃんも顔!顔近い!!」
ギャアギャア騒ぐ雛妃達を近藤達はにこやかに遠くから見ていた。

「あの笑顔を守らなければな。」

「あぁ、そうだな。」
沖田、平助、原田、永倉も頷いた。
騒ぐ雛妃達の元へ一匹の小さな烏がフラフラと降りてきた。
近藤達は直ぐに妖怪だと分かり雛妃達の元へ急いだ。

「烏?」

「烏ですわね?」
へろへろの烏に知世はお茶を差し出した。
するとその烏は勢い良くお茶を飲み干した。

「某は鴉天狗の吉之助と言う者でございます。」

「烏が喋った!!」
驚く雛妃と知世に警戒する斎藤。

「これは失礼致しました。この姿では分かりませんね。」
ボンッと煙を上げると現れたのは樟葉の屋敷に居た吉爺だった。

「あっ!樟葉の屋敷に居た…」

「はい、吉爺でございます雛妃様。」

「あっ!もしかしてお屋敷壊しちゃった事?本当にごめんなさい!!」
必死に謝る雛妃に吉爺は眉を下げた。

「雛妃様が謝る事はございません。あれは樟葉様が悪うございます。如何せん遅い初恋でしたので…やり方を間違えてしまったのでこざいます。私からもお詫びを申し上げます。」

「何をしに来た鴉天狗。」
そんな吉爺を斎藤は鋭い目で見た。
その後ろでは近藤達が事の成り行きを見守っていた。
吉爺に敵意が無いことを感じたからだ。

「そうでございます!!雛妃様、樟葉様をお救い下さい!!」
吉爺は額から血が滲む程地面に頭を擦り付けた、所謂土下座だ。

「ちょ、吉爺!!頭を上げて!樟葉を助けるってどう言う事?なにがあったの?」

「雛妃、広間に移りましょう。土方さん良いですわよね?」

「あぁ、込み入った話みてえだからな?」
雛妃はフラフラの吉爺を支えながら昼間へ移動した。

「雛妃、私達は話を聞くだけにするから同席するよ。」

「うん、構わないよ。で?吉爺どうしたの?」

「それが…」
吉爺は樟葉の現状を雛妃に話した。
話が進むにつれて雛妃だけでなく、話を聞いていた面々も顔を顰めた。

「樟葉様は姫開きの間に監禁され、毎日若い娘が宛てがわれております。現在の長は宛てがわれる沢山の妻のとなる娘に何の疑問も持たなかったお方、樟葉様のお気持ちは理解出来ないのでしょう。
部屋には媚薬入のお香が焚かれ、食事にも媚薬が入っております。樟葉様の弟君の真葛様の話では娘には手を出さず耐えているご様子、それも何時まで持つか…このままでは樟葉様の自我が崩壊してしまいます。」
吉爺はポロリと涙を流した。

「何それ?!無理矢理樟葉にそんな事を強いるなんてそれでも父親なの?!」
雛妃は憤慨していた。

「誠に遺憾ではありますが、長も良かれと思っているのです。時期長は樟葉様しか居られません。このまま樟葉様が誰とも婚姻なさらないとなると鴉天狗としては大事なのです。」

「一夫多妻って樟葉のお父様は何人妻がいるんですの?」

「現在15人でございます。」

「15…」
雛妃も知世も言葉を失った。

「なら他にも息子は居るでしょう?」

「いいえ、樟葉様は3番目の奥方のご子息ですが時期長は樟葉様以外居られません。樟葉様程の妖力を持ったご子息は居られないのです。鴉天狗は一番妖力の強い者が長となります。」

「はぁ~?!」

「雛妃!」
知世は雛妃に強い眼差しを向けた。
友を助けに行けと。

「知世ちゃん…でも…」

「何を迷っているのです?雛妃を助けてくれた友達がピンチなのですよ?助けに行かないなんて雛妃らしくありませんわ!私の事を気にしているのなら心配ありませんわ。雛妃の友達は私の友達でもありますもの。」

「知世ちゃん…うん!!行ってくる!」

「ちょ、ちょっと待てよ雛妃!鴉天狗の里に乗り込むのかよ?!」

「へーちゃん人聞きが悪いよ。乗り込むんじゃなくて助けに行くの!!」

「いや、俺達の世界ではそれを乗り込むって言うんだよ雛妃。」
原田は呆れた顔をした。

「異種族が乗り込むのは問題だよ?」

「そーちゃん達は来なくて良いよ?私一人で行く。」

「はっ?!雛妃正気か?!」
永倉は目を見開いた。
行くなら全員で行くのだと誰もが思っていたからだ。

「くぅちゃん、私は正気だよ?」

「駄目だ。」

「はぁちゃん、お願い行かせて?私ちゃんと戻って来るから…ねっ?」
斎藤は黙ってしまった。
こんな上目遣いでお願いされたら聞かない訳にはいかない。

「仕方ない、雛妃くれぐれも気を付けるんだよ?雛妃に何かあれは白龍が悲しむ。吉之助殿、雛妃をお願いします。」
近藤は吉爺に頭を下げた。

「ありがとう皆!行ってくる!!」
雛妃は吉爺と共に飛び立った。
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