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幕末妖怪の章
鬼族とその動向
しおりを挟む流鬼は鬼の里に帰ると直ぐに鬼の長の元へ急いだ。
「長、流鬼です。」
「入れ。」
「失礼します。」
流鬼は立派な襖を開けるとまずは深く頭を下げた。
「まぁ座れよ。で?どうなった、あの鴉天狗の馬鹿息子はどうだ?」
「はい、龍の姫の拉致は失敗致しました。しみません…俺が姫を間違えて攫ってしまい失敗致しました。」
「ほう、狸の奴らの所には他にも娘が居るのか?」
「はい。しかし、その娘を助けに来た本物の龍の姫はとても美しく…強かったです。」
鬼の長は白い長い髭を撫でると流鬼を見て目を細めた。
「その腹は龍の姫か?」
「は、はい。油断していたとは言え、鬼族の俺が一発でこれです。」
「なるほどな…流鬼、水鏡に龍の姫を映せ。」
「畏まりました。」
流鬼は大きな水鏡に自分の髪を一本落とした。
髪の毛はスっと溶けて消えるとそこに雛妃が映し出された。
「おお…!何と美しい!」
長の部屋に居た鬼達からも声が上がった。
「うむ、噂以上だな。やはり我が息子の嫁に欲しい。さすれば我が種族に龍の血が入る、我ら鬼は更に強くなるだろう。」
「はい!しかし、もうあの鴉天狗の息子は使えないでしょう。如何致しますか?」
「うむ…どうしたものか…。今白龍や狸達と戦うのは時期尚早、我らが束で掛かっても姫は手に入らぬだろうな。少し様子を見るぞ。」
「はい。」
鬼の長は既に雛妃を手に入れた時の事を考えているのだろう。
髭を弄りながらも顔はにやけていた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
一方、父親を訪ねた樟葉は冷や汗をかいていた。
「父上、それは…」
「龍の姫を娶れぬならば、直ぐに縁談を受けろと言っているんだ。」
「し、しかし…僕はまだ…」
「樟葉よ、お前は将来鴉天狗を纏める長となる者だ。妻を娶ったとて龍の姫が手に入れば妻にすれば良い事だ。」
樟葉は言葉に詰まった。
鴉天狗は一夫多妻、それは理解している。
樟葉の父親も妻は15人、樟葉は3番目の妻の息子だった。
兄弟など既に把握出来ていない。
しかし、樟葉は妻は雛妃一人だけと決めていた。
何より好きでも無い女を妻に迎える気も無かった。
「父上、僕は妻は雛妃だけと決めています。好きでも無い女を妻に迎える気はありません!」
「ほう…それで?」
「僕の代わりなど他にも沢山居るでしょう、ならば他の兄弟に…」
「ならん!!」
樟葉の父親は怒鳴った。
「何故ですか!!」
「樟葉、お前程の妖力を持った儂の息子は居らんのだ。時期長はお前以外居らん。これは長である儂の意向だ、覆らん。」
「それでも縁談は受けません!!」
「そうか…仕方なかろう。真葛!!」
「はい、父上。」
「樟葉を牢へ、姫開きの間だ。」
「はい。」
「姫開きの…!父上待って下さい!!それだけは…」
「連れ行け。」
樟葉は力無く真葛に連れて行かれた。
真葛は樟葉の弟に当たる、確か9人目の妻の息子だったと思う。
「兄上は…長になりたくないのですか?」
道中真葛が樟葉に語りかけた。
「……ただ、僕は雛妃しか欲しくないだけだ。」
「俺は兄上が羨ましかった。生まれながらに強い妖力を持ち、長の地位が約束されている。俺達はただ長の息子だと言うだけなのです。」
「なら、お前が僕の代わりになれば良いだろ?」
「なれるのならなっていますよ。兄上を殺してもです。しかし、俺では兄上には勝てないでしょう。返り討ちにあうのが関の山ですよ。さぁ、着きました。大人しく入って下さい。」
「………。」
樟葉は大人しく姫開きの間に入った。
その瞬間真葛が呟いた。
「吉爺には言っておきます。少し耐えて下さい。」
ハッとして振り返るも小さな木の扉は閉まってしまった。
鴉天狗の姫開きの間は、樟葉の様に妻を迎える事を拒んだりした時期長が入れられる牢屋だ。
牢の中は大変綺麗で真ん中に大きな布団があるだけの牢屋。
明日にでも樟葉の嫁候補の娘が日替わりで連れてこられるだろう。
そう、ここは無理矢理にでも子供を作らせる牢屋。
お香には媚薬が含まれ、食事にも精力が着くものや媚薬も混ぜられる。
樟葉はドカッと座ると頭を抱え溜息をついた。
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