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幕末妖怪の章

鴉天狗の里

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「雛妃様もうすぐ里でこざいます。里に入りましたら長の屋敷までは案内致しますが、申し訳ありませんが私はそこで失礼致します。」

「大丈夫よ、ありがとう吉爺。後は私がやるわ。」

「ありがとうございます。では参りましょう。」
鴉天狗の里は山の奥深くに隠れる様にあった。
外からは見えない結界が里に張ってあるらしいが、雛妃には見えていた。

「こちらが長の屋敷でございます。樟葉様をお願い致します。」

「分かったわ。ご苦労さま吉爺。」
吉爺は雛妃に一礼すると飛んで行った。
長の屋敷は大きく、雛妃は見上げて考えた。

「さて、どうしようか?門から行く?うーん…それは駄目な気がする。」
雛妃はもう一度屋敷を見上げた。
屋敷の中央に塔の様な物がある。

「よし!まずはアレを倒して様子を見よう。」
雛妃は妖気を掌に集中させて小さな玉を作った。
キラキラ光る虹色の玉はまるでビー玉の様に綺麗だ。

「えい!!」
玉を塔に向かって投げた。
見事に命中した妖気の玉は轟音をたてながら塔を倒した。

「よし!命中!!」
雛妃は小さくガッツポーズした。
直ぐに屋敷は騒がしくなった。
その頃、樟葉は悶え苦しんでいた。

「くっ!ハァハァ…うぅ…」

「樟葉様!私をお抱き下さいませ!このままでは樟葉様が…」
樟葉に触れようとする娘の手を樟葉は払い除けた。

「触るな!!ハァハァ…」

ードガーーーーーン!!バリバリ…

「きゃぁぁぁあ!!」
屋敷が轟音と共に揺れた。
その時、牢の小さな扉が開いた。
そこには真葛が居た。

「真葛…」

「敵襲の様です。兄上と娘は避難を…と言いたい所ですが兄上、助けが来た様ですよ?」

「はっ?ハァハァ…僕に助けなど…はっ?!まさか雛妃?!」

「兄上の友は凄いですね。鴉天狗の里に一人で乗り込んで来た様です。」
クスクス笑う真葛に樟葉は唖然とした。
あんな事をしたのにまさか雛妃が来るとは思っても見なかった。

「今は父上が向かっています。どうしますか?」

「樟葉様!雛妃とは誰ですか?!」

「黙りなさい!兄上がただ一人愛した女性だ。」
真葛は娘を睨んだ。
真葛も鴉天狗の一夫多妻にはうんざりしていた。

「えっ?樟葉様、樟葉様には私達が居るではありませんか?!何故他の…」

「雛妃とお前達を一緒にするな…くっ!!ハァハァ…雛妃は…龍の姫だ。僕は振られてしまったけど雛妃とは友で居たいと思っている。」
蹲っていた樟葉はゆっくりと起き上がった。

「兄上はお前達を娶る事は無いだろうな。」

「そんな…私達は樟葉様に嫁ぐ為だけに生きてきたのに…」
娘は泣き出した。

「真葛は…」

「俺も兄上と同じです。ただ一人愛する者が居ます。他に妻を取るつもりはありません。」

「そうだったのか…真葛、ありがとう。」

「お礼を言うのはまだです兄上。龍の姫の元に父上が向かったのです。俺達も行かなくては。」

「そうだな…」
樟葉は真葛の肩を借りて牢を出た。
残されたのは憐れな娘だけ、娘は遣い烏を飛ばした。
他の樟葉の妻候補達に向けて。
娘の瞳には嫉妬の炎が燃えていた。
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