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幕末妖怪の章

鴉天狗の長

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雛妃は崩れた塔の上で樟葉の父親、鴉天狗の長と対峙していた。

「お主が龍の姫か?これは…本当に美しい。息子の嫁にするには惜しいな…」

「貴方が樟葉のお父さんなの?」

「あぁ、そうだ。この里の長、烏間からすまだ。」

「何故樟葉にあんな酷い事をするのよ?!樟葉は貴方の息子でしょ?!」

「お前は樟葉を振ったのだろう?何故樟葉の為にここまでするのだ?」

「はぁ?私の質問に答えなさいよ!!樟葉とは色々あったけど樟葉は私の友達よ!!」

「なるほどな…ではお前の質問に応えよう。儂は樟葉の父である前に鴉天狗の長なのだ。鴉天狗の長の血を絶やす訳にはいかん。特に樟葉の様に力が強い者は特にな。樟葉の血にお前の血が入れば鴉天狗は必ず栄えるだろう。」

「残念でした、私にはもう番が居るの。」

「ふん!そんな者…ここでお前を捕らえて樟葉と交じ合わせれば良い事だ。何の問題も無い。」
雛妃は内心このクソ爺と思っていたがグッと堪えた。

「私に勝てると言ってるの?」

「小娘が、儂とは年季が違う。経験の差もな。儂を老耄とあなどるなよ?」
二人の間にピリピリとした空気が流れた。
雛妃と烏間の周りは他の鴉天狗達が包囲していた。
しかし、二人の余りに強い妖気に近付けないで居た。
その時、先に動いたのは烏間だった。

「烏奥義…刃嵐はあらし。」
烏間の大きな羽から沢山の鋭い刃と化した羽が雛妃に向かって降り注いだ。

「どうだ、儂の刃は鋭いこれで動けなく…」
烏間は目を見開いた。
雛妃は片手で妖気の盾を作り簡単に跳ね除けていたからだ。

「なんだと…儂の…」

「今度は私の番ね?奥義って言ってたから私もそれなりに返さないとね!」
雛妃はニッコリ笑った。
それをみた烏間の背中には嫌な汗が流れた。

「うーん、でも私奥義とか知らないからなぁ…一番得意なので行くわ!」
雛妃の得意技…即ち力任せだ。

「行くわよ~!」

「ま、ちょ…ちょっと待て!!」
烏間が慌て始め、周りの鴉天狗は退避を始めた。
雛妃の頭上には大きな虹色の玉が出現していた。
あんな物を放たれたら里が無くなってしまう。
悲鳴や怒号が聞こえる中、何かがフワッと雛妃を包んだ。

「雛妃、そんな物放てば里が消える。」

「はぁちゃん?」
途端に雛妃の頭上の玉はフッと消えた。
それを見た烏間は空中でへたりこんだ。

「えー!駄目?なら…」
雛妃は烏間の目の前まで飛ぶと拳骨を温めた。

「これで許してやるわ。樟葉は解放してもらうからね!」
烏間の頭に雛妃の全力の拳骨が落とされた。
烏間は凄い速さで屋敷に落ちて行った。
屋敷が崩れる音と砂埃で烏間は見えないが無傷では済まないだろう。
鴉天狗達がワラワラと烏間が落ちた方へ慌てて向かっていた。

「ちょっと貴方!」
雛妃は烏間の所に向かおうとしていた鴉天狗を一人捕まえた。

「樟葉は何処?」

「ひぃ!く、樟葉様は姫開きの間に…」

「だ~か~ら~、その部屋は何処かって聞いてるのよ?!」

「ひぃー!!ごめんなさーい!!」

「雛妃!!」
振り返ると真葛に支えられた樟葉が居た。

「樟葉!大丈夫?!」

「僕は大丈夫だよ。ありがとう、助けに来てくれて。」

「当たり前じゃない、友達だもの。」

「父上は?」

「頭に来たから拳骨かましてやったわよ!」
ふんっとそっぽを向いて怒りを表す雛妃を見て樟葉も真葛も吹き出した。

「ぷっ…あの父上に拳骨…」

「駄目だ兄上耐えられない…アッハハハ父上に拳骨?!鴉天狗の長に…クックック…」
いきなり笑い出した二人に雛妃はキョトンとしていた。

「あ~流石雛妃、雛妃こっちは僕の弟の真葛だ。僕に色々と協力してくれたんだ。真葛のお陰であの牢から出られた。」

「初めまして龍の姫、俺は真葛です。宜しくお願いします。」

「こちらこそ、私は雛妃。雛妃って呼んで。こっちは私の番よ。」

「雪男の雪夜だ。」
一通り挨拶を済ますと皆長である烏間が瓦礫の中から助け出される様を見ていた。

「これから樟葉はどうするの?」

「僕は鴉天狗の長にならないとだから、何れはこの里に戻ると思う。それまでは離れるよ。」

「そうだ兄上、俺の番の所に行ってはどうですか?」

「真葛の番?」

「はい、俺の番は雪女のみぞれと言います。」

「なるほど、雪の里なら鴉天狗の長とて見つけられないな。」
斎藤が呟いた。

「雪の里ならはぁちゃんに頼めば私も会いに行ける?」
雛妃は斎藤を見上げた。

「あぁ、雛妃の頼みなら連れて行く。」

「決まりですね?」

「ちょっとお待ち下さいまし!!」
話が纏まったと思ったら何処からか待ったが掛かった。

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