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現代の章

神社と桜

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 どうしてこうなった?



私は今、中庭で見知らぬ二年の先輩男子に詰め寄られている。
この先輩は強引でなかなか引いてくれない。


「好きな男いんの?」

「いや、そういう訳じゃないんですけど………」

「じゃあ良いじゃん、俺と付き合ってよ。」

「ちょっとそれは………ははっ………」

ートンっ………

どうしよう、もう逃げ場が無い!
ジリジリ詰め寄る先輩から逃げて、少しずつ後ずさりしていたのだけど………後ろに木があったなんて迂闊だったわ‼
木に手を付いて顔を近付けて来る先輩………
ひぃぃぃい‼近い近い近い近い‼
私貴方とは付き合えません!
誰か助けて‼

「なぁ、俺と付き合ってくれるよな?俺と付き合いたい女いっぱい居るんだ。あんたすげぇ可愛いし俺と釣り合うと思うんだよなぁ?」

何このナル先輩!どこからそんな自信がくるのか。

「あ、あの………他に先輩と付き合いたい方がいるならそちらの人とどうぞ付き合って下さい。」

「はっ?何それ?」

嫌だもう、この人………‼
不意に先輩が私の頬に触れて顔を更に近付けて来る。
まさか………キスされるの?
やだやだやだやだやだやだやだ‼
私のファーストキスがぁ‼


「なぁ、そのくらいにしたらどうだ?嫌がる女に無理矢理なんて恥ずかしくないのか?」

突然聞こえた声に顔を上げて辺りを見るけど誰も居ない。
男の先輩もキョロキョロと辺りを見ていた。

「上だ………」

上?………木の上を見るとそこには木の枝に座っている知らない男子生徒が居た。

「誰?………」

「何だお前?邪魔すんなよ。」

先輩は木の上を睨み付けている。
私はただ木の上を見上げるしかなかった。

「そいつに手を出すな………」

「はぁ?」

「えっ?」

次の瞬間先輩は左に吹っ飛んでいた。

「雛妃‼大丈夫ですか?」
知世ちゃんが焦った顔で駆けてくる。

「てめぇ‼俺の大事な妹に手出して生きて居られると思うなよ!」

先輩に飛び蹴りしたらしい蓮が更に先輩に襲いかかっている。
蓮を相手にするなんて………蓮の強さを知ってる私は少しあの先輩に同情してしまう。

「知世ちゃん、蓮達連れて来てくれたの?」

「雛妃のピンチです、焦りましたわ‼あんなに詰め寄られて………怖かったですわね?大丈夫ですか?」

「うん、知らない人が助けてくれたから………」

木の上を見ると、あの男子生徒は居なくなっていた。
いつの間に………

「知らない人ですか?」

「うん………」すると蓮人が駆け寄ってきた。

「雛妃、大丈夫か?」

「蓮人………大丈夫だよ。ありがとう。」

「こいつは生徒会で処分するから、心配するな。」
蓮が伸びた先輩を引き摺りながら言う。
蓮………先輩が伸びる程、何したの?

「俺はこいつ生徒会に連れて行くから、蓮人は雛妃と知世ちゃん教室まで送ってくれ。」

「分かった、行こうか雛妃、知世ちゃん。」

こうして私達は蓮人に教室まで送って貰ったのはいいのだけど………蓮人の登場で一年生の階は大騒ぎになった。
こうなる事を予想して、毎日教室まで送ると言う蓮と蓮人を何とか説得して知世ちゃんと登校していたのだけど。
今日確信した、私は間違ってなかった。

「きゃー!米原先輩よ‼」

「蓮先輩かな?」

「カッコいい‼」

「あぁー米原さんが羨ましい‼」

羨ましいなら、妹の座譲りますよ?
毎朝の朝稽古、地獄ですよ?
耐えられますか?

「蓮と俺が見分けられもしないのに、キャアキャアと………虫酸が走る。」

黄色い声を上げる女子を虫けらを見るような目で見た蓮人は、小声だったけど酷い嫌悪感が含まれていた。

「じゃあね、雛妃誰かに呼び出されたらすぐに俺か蓮を呼ぶんだよ?雛妃は可愛いんだからもう少し自覚してよ。勿論知世ちゃんもね。」

私の頭を撫でると、優しい笑顔を浮かべた。
その豹変ぶりに私も知世も一瞬ギョッとした。

「わ、私は大丈夫ですわ。」

「雛妃分かった?」

「うっうん、分かった。」

蓮人は私の返事を聞くと去って行った。
蓮人の登場で集まった女子達もゾロゾロと蓮人と一緒に去って行った。

教室に戻ると直ぐに松居君が話し掛けてきた。

「米原の兄貴凄いな?どうしたらあんにモテるんだ?」
羨ましいと言って蓮人が居なくなった廊下を凝視している。

「松居君じゃ無理ですわ。」

「ひでぇな槇原!何でだよ?」

「先ずは、顔ですわね?普通です。」

松居君はショックを受けた顔をした。

「それに、その性格じゃモテませんわね?蓮さんも蓮人さんも黙っていても女子がついて来ますわ。貴方の様に彼女居ないとか募集中とか絶対に言いませんわよ?あの二人を毎日見ている雛妃が貴方に靡くとでも思いますか?有り得ませんわよね?だいたい貴方じゃ雛妃に釣り合いませんよ?」

あぁ………知世ちゃんの毒舌が止まらない………
松居君なんてもう、床に手をついて項垂れちゃってるよ。

「と、知世ちゃん?そのくらいにしてあげない?」

知世ちゃんは松居君を見下ろすと、ふんっと鼻を鳴らした。

「このくらいでダメージを受けている様じゃまだまだですわね?雛妃に手を出すなら先ずは私を倒してからにして頂きたいですわ。雛妃行きましょう。」

私達は這いつくばる松居君を残して席に戻った。



◇◇◇◇


「雛妃、帰りましょ?」

放課後………
何時もの道を知世ちゃんと歩く。

「知世ちゃん、こんな所に桜並木あった?」

毎日通ってる筈なのに全然気付かなかった。
階段を挟む様に桜の木が並んでいる。
階段を見上げれば上に鳥居が見える。

「私も気付きませんでしたわ。神社でしょうか?」

「綺麗………知世ちゃん行ってみようよ!」

何故か行きたいと思った。
決して私は信仰心が厚い訳じゃない。
御参りをするなんて一年を通して初詣くらいだし。
でも行きたかった。

「えぇ、折角ですし御参りしていきましょう。
毎日通っているのに今まで気付かなかったなんて失礼な事をしてしまいましたわ。」

私達は御参りをすることにした、階段を登り始めれば予想以上に桜並木は素敵だった。


階段を登りきり、鳥居を潜ると不思議な感情が込み上げてきた。
懐かしい………うまく説明は出来ないけどそう思った、一度も来た事がないのに。
懐かしいのに胸が締め付けられる様に苦しい。

「雛妃?泣いてますの?」

「えっ?」頬に触れれば濡れていた。

「私………泣いてるの?何で………」

泣いていると自覚したらもう涙は止められなかった。

「うっうぅ………知世ちゃん………」

苦しい………切ない………心臓が潰れてしまいそう。
でも、この場所が堪らなく愛しい。
涙で霞む目で神社の社を見て、目を疑った。
社の階段に座る男の人が見える。

「雛妃‼どうしたんですか!」

知世ちゃんが何か言ってるけど耳に入らない。
和服を着た男の人が、私に優しく微笑み手を差し伸べてきた。
私も手を伸ばすけど届くことはなかった。
急に頭痛に襲われて頭を抱える。

『雛妃………』

誰かに呼ばれた気がした、懐かしい声に………
私はこの声を知ってる、間違いない夢で私を呼ぶ声だ。
あまりの痛さに私は意識を手離した。



『雛妃………』あの声をもう一度聞きたい。


貴方は誰なの?


















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