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幕末の章

再会③

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 雛妃が叫んでいる頃、漸く斎藤と平助は北の端の街に着いた。
街に降り立ち、歩いて見るがやはり静まりかえっていた。

「これじゃ聞き込みもできないね、どうする斎藤さん?」

「少し歩く………」
斎藤が歩き出すと、平助も後を追った。

「平助、まずは呉服屋を探そう。」

「斎藤さん、呉服屋ってあれじゃないの?」

平助が指を指した先をみると、確かに呉服屋の暖簾が見えた。
辺りの家は寝静まりっているのに、その呉服屋だけは明かりが点いていた。

「あっ!待ってよ斎藤さん‼」

早足で呉服屋に向かう斎藤を平助は慌てて追いかけた。
斎藤に追い付くと、斎藤は呉服屋の前で佇んでいた。

「どうしたの?入らないの?」

平助が首を傾げると、呉服屋の店の中から肥が聞こえた。

『雛妃ちゃんが拐われたって本当なのかい?!』

『すまない、私がついていたのに……』

『若様のせいじゃないじゃないか、兎に角雛妃ちゃんを探さないと………』

そんな会話が聞こえてた。


「斎藤さん………」

平助は斎藤を見上げてゾッとした。
斎藤の表情は“無”だった、その顔からは何も伺う事は出来ない。
斎藤は店の戸を叩いた。

「誰だい?こんな時間に!」

「夜分に済まない、此処に雛妃と言う娘がいないか?」
そう告げると戸が勢い良く開いた。

「あんた‼雛妃ちゃんを知ってるのかい?雛妃ちゃんは何処に居るんだい!」

店から飛び出してきた女が斎藤に掴みかかった。

「女将!」
その後から一人、青年が出てきた。
どうやら掴みかかって来たのは、この呉服屋の女将の様だった。

何も言わない斎藤を見て、女将は泣き崩れてしまった。

「何であの子が拐われなきゃならないんだい!一生懸命働いてくれたのに!私はあの子を本当の娘の様に思ってんだ。あんた!何か知ってるなら教えておくれよ!」

そんな女将を見て、斎藤は苦虫を噛んだ様な顔をした。

「ちょっちょっと待ってよ!俺達も雛妃を探してるんだよ。雛妃が拐われたってどういう事だよ?」

「兎に角、中に入って貰おう女将。ここでは近所迷惑になってしまう。」

青年に促されて、斎藤と平助は呉服屋の中にはいった。

「女将が取り乱してすまなかった。私はこの街の酒屋の息子成光だ、雛妃ちゃんとは仲良くしてもらっている。此方はこの店の女将で、雛妃ちゃんは店を手伝いながら女将と暮らしていたんだ。」

成光が雛妃と仲良くと言った時、斎藤は拳を握り締めた。

「それで、あんた達は雛妃ちゃんとどういう関係なんだい?」

「女将、雛妃は誰か人を探していなかったか?」

斎藤が聞くと女将は目を見開いた。

「何でそれを知ってんだい?」

たちまち女将は怪訝な顔をした。

「雛妃の探してる友人の知世が俺達の所に居るんだ。俺達は知世に頼まれてずっと雛妃を探してた。そしたらこの街の呉服屋の看板娘の噂を聞いたんだよ。知世に話したら特徴が雛妃と似てるって言うから俺達は此処に来たんだ。やっと見つけたと思ったら雛妃が拐われたって言うし………」

平助の話を聞くと女将も成光も複雑な顔をした。


「そうかい………雛妃ちゃんの友人が見つかったんだね。あの子は行ってしまうんだろうね、寂しくなるね。酒屋の若は良いのかい?雛妃ちゃんに気持ちを伝えなくて。」

成光は顔を真っ赤にした。

「なっ!女将‼この人達の前で何て事を言うんだ!私は別に………」

「何言ってんだか、毎日何かにつけて雛妃ちゃんに会いに来ていたじゃないか。」

バレバレだよと女将は呆れた顔をした。
すると何処からともなく冷気が漂ってきた。

「なんだい?急に寒くなってきたね?」
女将はブルッと震えると、腕を擦った。

「さ、ささささ斎藤さん‼駄目だよ、抑えて‼」
平助が慌てて斎藤の肩を掴むと、斎藤はハッとして平助を見た。

「悪かった………」
直ぐに冷気はおさまり平助はホッとすると本題に入った。

「兎に角、俺達は雛妃を探すから拐われた時の状況を話してくれよ。何でもいい、些細な事でも。」

「雛妃ちゃんは今日、私と甘味処に行っていたんだ。その店の裏で拐われたんだ。俺が見つけた時には、雛妃ちゃんは頭に袋を被せられていた。男は四人だった、最初は三人だと思って雛妃ちゃんを助けようとしたんだ、でも直ぐに後ろから殴られて私は気を失ってしまったんだ。」

迂闊だったよと成光は渇いた笑みを見せた。
斎藤は黙って立つと戸に向かった、平助も同じく斎藤に続く。

「待ってくれ!」成光は二人を呼び止めた。

「私も連れて行ってくれないか?」
これには斎藤も眉に皺を寄せた。


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