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幕末の章

再会④

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 「私は雛妃ちゃんを良く知っているし、その方が雛妃ちゃんも安心すると思うんだ!」

成光は到って真面目に言っている、本気と書いてマジだ。
良かれと思い言っている。
平助は隣から漂う冷気にギョッとして、青冷めた。

「斎藤さん、勘弁してよ!俺が凍えちゃう………」
斎藤は平助をチラリと見ると口を開いた。

「構わない………が俺達は急ぐ、着いて来られるなら一緒に来るといい。しかし、俺達はあんたが遅れれば置いていく。」

「それでも構わない!じゃあ女将、雛妃ちゃんを探しに行ってくる。」

平助は斎藤に小声で確認した。

「斎藤さん、どうすんの?あの人居たら飛べないじゃん。」
 
「平助、走るぞ。」

「なるほど、走りでも俺達にはついて来られないもんな!成光さん、そろそろ行こうぜ。」


「行くと言っても何処を探すんだ?」

「町外れを探す、雛妃を隠すなら人目を避けたいはずだ。走るぞ………」

「分かった。」

三人で町外れに向けて走り出す。
最初は成光に合わせて走っていたが、斎藤と平助は視線を合わせると頷きスピードを上げた。

あっという間に成光は見えなくなった。
置いて行かれた成光は呆然と二人が走り去った方を見ていた。

「ハァハァ………着いてこれるならと言っていたが、あんなの誰も着いて行けないじゃないか!」

悔しそうに地面を蹴った。




無事に成光を撒いた斎藤と平助は、上空から町外れを探っていた。
人目に着きづらい小屋などがあればかなり怪しい。
平助は夜目が効くから助かる。

「斎藤さん、町外れに小屋は何個かあるよ?全部まわるの?」

「いや、その間に雛妃が何処かに連れて行かれては困る。
恐らくまだこの街に居る筈だ。平助、遠耳を使え。」

平助は言われた通り、耳に神経を集中させる。
平助は遠耳を使えば半径20㎞程離れていても音を拾う事が出来る。

『あっ………』

直ぐに誰かの声を拾った、その声の方角に耳を集中させると次第にハッキリ聞こえてきた。

『あんっ!そこいい‼もっと………もっとです旦那様!』

『此処か?それっ‼』

『あぁぁ………あんっ!駄目ぇぇえ‼』

平助は顔を真っ赤にして叫んだ。

「くそっ!こんな時間に何やってんだ‼ちくしょう、羨まし………じゃなくて!紛らわしい‼俺は雛妃を探してんだよ‼」

平助は地団駄を踏んだ、空に居るが踏まずには居られなかった。
そんな平助を斎藤は冷めた目で見ていた。

「違うんだ斎藤さん!こんな時間にあんな事してる奴等が悪いんだ!」
平助はさっきの声を思い出し、最早茹で蛸状態だ。

「なら………小屋を順番に壊すか?」 
斎藤は掌を空へ翳すと、幾つもの氷の槍を作った。

「まっ待って!それは不味い!気付かれちゃうじゃん!ちゃんとやるから、取り敢えずその槍しまおう!そうしよう?なっ?」

斎藤は溜め息をつくと氷の槍を溶かし、霧にした。
平助はもう一度耳を集中させる。徐々に範囲を拡げ耳を澄ます。

『ぎ………ぁ………』
掴んだ、また声の方へ集中する。

『許すと思ってるんですか‼』

『悪かった、なっ?落ち着け!』

『私は落ち着いています‼』

『ぎゃぁぁぁあ!許してくれ‼』

『ぐはっ‼』

何やら物騒な声だ………

「斎藤さん、ここから西に3㎞だ。もしこれが雛妃なら俺、雛妃に会うのが怖いよ………」
ブルッと震える平助に、首を傾げたがすぐに平助が声を聞いた方へ飛んだ。


暫く飛ぶとボロい小屋が見えてきた。
回りには木が生い茂り、確かに人目にはつかない所だ。

「平助、此処か?」

「うん、此処で間違いないよ。小屋から叫び声が聞こえるから。」
斎藤は顔色を変えた。

「雛妃か?」

「違うよ、雛妃は多分超元気だ。」

平助は訳が分からない事を言う。
まぁ小屋に行ってみれば分かる事だ。
二人は小屋の入り口の前に降りると、少し様子を窺った。

「きゃぁぁぁぁあ‼また触りましたね‼」

「済まねぇ、わざとじゃ………って、ぎゃぁぁぁあ!」

斎藤は迷わず小屋の戸を開けた。
戸を開けると直ぐに斎藤に向けて足が飛んできた。
その足を意図も簡単に受け止め、足の主を見た。

「貴方もこの、人達の仲間ですか?」
そこには幼い頃の面影をそのまま残した雛妃が居た。
斎藤は足を掴んだまま、雛妃を見ると目を見開いた。

着物ははだけているし、白い足は露になり終いには着物の合わせが開き胸まで露になっていたのだ。
斎藤は床に転がる男達を睨んだ。

すると男達は斎藤にすがりついてきたのだ。

「あんた、助けてくれ!」

「頼むよ!この嬢ちゃんめちゃくちゃなんだよ!」

良く見れば、男達の顔は可哀想な程腫れ上がっている。

「貴方達が悪いんじゃないですか!胸触ったり、足舐めたり本当に信じられない‼ちょっと、足離してもらえますか?」

雛妃は斎藤を見上げた。
しかし、斎藤は雛妃を見ていなかった。
斎藤の鋭い目は男達を捉えていた、物凄い殺気を放ちながら。






















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