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幕末の章
再会⑤
しおりを挟む「雛妃、平助に着物を直して貰え。平助………」
「分かった、雛妃こっちにおいで。」
平助に手を引かれるまま外に出た雛妃は、平助に着物を直してもらった。
「ほらっ、出来たぞ。大丈夫だったか?ずっと探してたんだぞ?知世が心配してる。」
平助が言うと雛妃は大きな目に涙を一杯に溜めて平助に抱き付いた。
「ちょっ雛妃!どうしたんだよ!」
平助は真っ赤になりあたふたし始めた。
「うえぇぇぇえんっ!知世ちゃん無事なんですね?良かった、本当に良かったぁぁぁぁあ!」
そこへスッキリした顔の斎藤が小屋から出て来たが、平助を見てまた冷気を漂わせた。
「ひっ!斎藤さん、違うよ………違うんだ!雛妃が泣いて………」
斎藤は平助から雛妃をベリッと剥がすと自分の腕に閉じ込めた。
「雛妃、大丈夫か?知世が待ってる、帰ろう?」
この二人さっきから私を名前で呼ぶんだけど………あっ!知世ちゃんがそうに呼ぶからか?
一人で納得してみる。
「あの、さっきの人達は?」
小屋の方を覗こうとすると、私を抱き締めている人に直ぐに遮られてしまう。
何この人、ぬりかべなの?無駄に身長高いから見えない!
146㎝の私はこの人の胸辺りしか見えない。
「ちょっと見えないです!」
少し押しやると、もの凄い引き吊った笑みを向けられた。
「大丈夫だ………」
何がよ?
「ちょっと………冷やしただけだから………」
はっ?
この人は日本語が苦手なんだろうか?
「斎藤さん!取り敢えず自己紹介しておこうよ。雛妃だって戸惑うでしょ?」
斎藤さんと呼ばれる人は私を離すと、頷いた。
「じゃあ俺からな?俺は藤堂平助だ、平助って呼んでくれよな。」
「俺は………斎藤一だ。」
「えっと、平助君と斎藤さん?」
そう言うと平助君は「おうっ!」と笑い、斎藤さんは微妙な顔をしていた。
「雛妃………はぁちゃんでもいいぞ?」
はぁちゃん………?何故に?
凄い優しい笑顔なんですが、止めて下さい。心臓に悪いです。
「いや、命の恩人ですし斎藤さんでお願いします。」
はははっと誤魔化すけど、顔が赤いのはきっと誤魔化しきれない。
何で私の近くの人はこうも綺麗な人が多いの?
知世ちゃんを始め、酒屋の若様も爽やか好青年って感じだし、斎藤さんなんてミステリアスなイケメンお兄様みたい、平助君はヤンチャで元気な世話焼きお兄さんだ。
目には良いけど、心臓には毒だわ。
「今日は本当に有り難うございました。知世ちゃんも無事って分かって安心しました。私、呉服屋さんに帰りますね。奈緒さんも酒屋の若様もきっと心配しているだろうし。」
「待って雛妃!知世の所に行かないのかよ?」
本当は直ぐにでも行きたい、でもこの街には私を心配してくれている人達がいる。
「確かに直ぐに知世ちゃんに会いに行きたいです。でも、知世ちゃんと離れている間に私を心配してくれる大切な人達が出来たんです。その人達に何も言わずにこの街を去るなんて私には出来ません。」
平助君はションボリとしてしまい、斎藤さんは私をジッと見詰めている。
「雛妃、明日昼に知世を連れて迎えに来る。それまでに………」
「はいっ!ちゃんとお別れを済ませておきます!」
それから斎藤さんと平助君に呉服屋さんまで送って貰った。
呉服屋さんまでまさかの斎藤さんにお姫様抱っこをされる羽目になったのだけど………斎藤さんと平助君って凄いの!
平助君もだけど、私を抱えた斎藤さんまで凄い早さで走るから本当に驚いた。
お陰であっという間に呉服屋さんに着いた。
呉服屋さんの前には腕を組んで仁王立ちしている酒屋の若様がいてそれも吃驚したけど、それだけ私を心配してくれたと思うと嬉しかった?
奈緒さんなんて私を見るなり抱き締めて号泣。
本当に申し訳ない事してしまった。
あれだけお世話になっておきながら、こんなに心配をかけるなんて。
「全く、あんなに早く走るなんて聞いてないぞ!」
「ははっ、成光が遅いんだよ。」
「私が遅いんじゃなくて、お前達の早さがおかしいんだよ。どいやったらあんなに早く走れるんだ?」
「気合いだ………」
斎藤さんが呟くと若様は声を上げて笑いだした。
「あっははは!気合いか?よっぽど雛妃ちゃんが心配だったんだな?本当に感謝する、雛妃ちゃんを助けてくれて有り難う。」
若様は斎藤さんと平助君に頭を下げた。
「あぁ、女将昼に雛妃を迎えにくる。」
奈緒さんは斎藤さんを見て悲しい顔をした。
「そうかい、寂しくなるね?もう夜明けだ、時間がないね。雛妃ちゃん、お腹空いてるだろ?ご飯にしよう。あんたらはどうする?」
奈緒さんが斎藤さんと平助君を見ると二人は首を振った。
「俺達は一度戻るよ、報告もあるしな。昼には雛妃が探してた知世も連れてくるからさ。」
そう言って斎藤さんと平助君は帰って行った。
私は奈緒さんと若様とご飯を食べて、少しだけ眠る事にした。
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