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幕末日常と食事の章

冷蔵庫と匙加減

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 昼食はこれまた大好評だった、これだけコロッケで消費したじゃが芋もまだまだ余っているから芋料理を考えなくては。

「斉藤、匙加減間違えるなよ?」
突然口を開いた土方さん、何を言っているのかと知世ちゃんと顔を見合わせた。

「そうだぞ、食費節約がかかっているからな!」
ガハハハッと豪快に笑う近藤さんに、少しムスッとした斉藤さん。

「大丈夫だ。」
冷やすのは俺の専門だと食事を黙々と続ける斉藤さんを見て不安になったのは私だけじゃない。

「雛妃、大丈夫なんでしょうか?」

「はは……私もちょっと不安になってきたよ。」
匙加減て何だ?
私と知世ちゃんの不安を他所に食事を終えた斉藤さんは台所へと向かった。
私と知世ちゃんも慌てて食事を掻き込むと直ぐに斉藤さんの後を追ったのだった。
完成した冷蔵庫になる箱は食器棚と壁の間にピッタリと設置されていて、中は私がお願いした通り冷蔵とと冷凍に分かれていてちゃんと棚も付いていた。

「凄い大きいですわね?」
その大きさに知世ちゃんも驚いていた。

「隊士の数も考えればこのくらいなくてはならないだろう。」
確かに斉藤さんの言う通りだ、家庭用の大きさじゃ間にわないかもしれない。

「じゃあ、はぁちゃんお願いね。上が冷やす所で、この下が凍らせて保存する所にしたいから。」

「分かった。」
斉藤さんが両手を合わせると手の間に雪の玉が徐々に現れてそれをパンッと潰すと箱に向けて雪の粒がキラキラと吸い寄せられて行った。

「冷やすのはこのくらいで良いのか?」
上の冷蔵の棚に手を入れると冷んやりと冷たい冷気で満たされているのが分かった。

「うん、バッチリだよ。」

「次は下か、どの位に凍らせたい?」

「どう言う事?」

「徐々に凍らせたいのか、一瞬で入れた物を凍らせたいのかだ。」
なぬ?そんな事も出来るの?ならば決まってるわ。

「一瞬でがいかな、その方が鮮度も落ちないし。」

「分かった。少し離れていてくれ。」
斉藤さんから少し離れると今度は手の間に真っ青で光る玉が現れた。
それを下の棚に押し込むと棚の中は凄く綺麗な青い氷に覆われた。

「出来た、次は平助の出番だ。」

「えっ?何でへーちゃんなの?」

「平助は結界を張るのが得意だ、冷気が漏れない様に結界を施して貰う。なぁ平助?」

「おっ!俺の出番か?」
そう言うと平助君の頭には狐の耳がお尻には尻尾が生えた。

「雛妃、皆さん本当に妖怪なんですわね?」

「うん、普段が普通に人間過ぎて忘れてたよ。」
こんな時皆が妖怪なんだと本当に実感する、それに妖怪って万能じゃないかとも錯覚してしまう。
平助君は何か印を組むとブツブツと何かを唱え始めた。
その途端さっきまでだだ漏れだった冷気がピタリと無くなったのだ。

「出来たぞ!これで完璧だ!」
親指を立てニッと笑う平助君がとても頼もしく見えた。

「うっ、ぎゃぁぁぁあ!」

「えっ?どうしたの?」
さっきまで笑っていた平助君が急に叫び出し、驚いた私と知世ちゃんは平助君に駆け寄って更に驚いた。

「斉藤さん!これやり過ぎだよ!雛妃が凍っちゃうじゃないか!」
平助君の九本ある尻尾のうち二本がカチンコチンに凍っていた。
どうやら尻尾が冷凍庫の中に触れたらしい。

「ふむ、加減が難しいな。」
マジマジと平助君の凍った尻尾を眺める斉藤さんに寒気がした。
だって私は凍りたくないもの!

「難しいじゃないよ、俺は良いけど雛妃は人間なんだぞ?」
嫌、平助君も凍っちゃ駄目でしょ。
土方さんが言ってた匙加減てこれの事だったのね?
その後ちゃんと斉藤さんはやり直してくれて、更に心配した平助君が冷凍庫の氷の周りにも結界を張ってくれた。
これなら氷に触っても大丈夫らしい。
私は早速土方さんが持ってきてくれた鳥肉を冷凍庫に入れようと鳥肉を一つ一つ葉に包んでいくと、鳥肉に隠れて何やら違う肉も出てきた。

「こ、これは……」
何だか見た事あるわ、この形……
食べると美味しいって話は聞いた事あるけど、本物は初めてよ。
アレの下半身よね?この足の感じは……
私が固まっていると平助君が覗き込んできた。

「おっ?蛙じゃん!」
ですよねーーーーーーーー!

「これ美味いんだぞ、焼いても良いし生でもイケる。今夜食おうぜ!」
生!それは流石に無理だわ!

「ははは……何とかしてみるわ。」

「雛妃、まさか本当に夕飯に出すんですか!」
知世ちゃんは真っ青、だよね……最早ゲテモノだもの。

「まぁね、折角とってきてくれたんだしさ。命は無駄にできないよね。」
この時代に来て私は命を頂く意味を知った、この蛙さんだって無駄にしたら失礼だわ。
こうして目出度く冷蔵庫を作る事に成功し、更に私達は初めての蛙さんを頂いたのだった。

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