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人類の存続

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「そんな…まさか…」
クロードは地揺れの中膝を付き絶望した。

「どうしました総帝様?!」

「ラファイ…楓の気配があるんです。クロウと一緒に居る様です…」
これにはラファイや他の帝達も言葉を失った。
クロウの手にある楓の命はクロウに握られている事になる。
総帝の妻が捕まっていては他の帝達も迂闊に手を出せない状況にされてしまったのだ。

「兎に角、向かいます!!南です、いきますよ?!」

「「「「了解!!」」」」
南へ只管飛ぶとガイバーオーガが見えてきた。
何時もと違うのはガイバーオーガ達を引き連れて居る者が居る事だ。
クロウは見た事も無い大きな真っ黒い牛の様な魔物に乗っていた。
大きな角が二つ目は真っ赤に血走り体長10mはある巨体だ。
楓は気を失っているのかクロウの隣で動かない。

「クロウ!!楓を返せ!!」
クロウに突っ込んでいくクロードを闇帝が闇の枷で止めた。

「カイテル!!離しなさい!!」

「落ち着くのじゃ!このまま突っ込んでも儂らも楓ちゃんも命が無いじゃろ!!」

「しかし!!」

「しかしじゃねえよ!楓が死ねば腹の子まで失うんだぞ?!少し冷静になれ!!」
ラファイの怒声にハッとしたクロードは暴れるのを止め俯いた。

「これはこれは、荒れて居ますね総帝様?」
クックックッと笑いながらクロウがクロードを見て笑う。

「チッ!!煽るんじゃねえよ。」
ラファイは舌打ちした。

「土帝、水帝と光帝も合流させて下さい。全力でここに向う様に言って下さい。」

「了解したのじゃ。」
ガライルは直ぐに念話を送った。

「さて、この方は貴方の妻でしたか?とても美しい女性ですね?大変羨ましいです。しかも子を宿しているみたいですね?」
クロウは楓の腹を撫で頬をそっと撫でた。

「何が狙いだ?楓は関係ねえだろ?」
俯いていたクロードが顔を上げると薄紫色の瞳は赤紫色に変わっていた。
これはクロードが完全にキレている時だ。

「関係ですか?ありますよ?貴方の妻だと言うだけで利用価値がありますからね。」

「楓を返せ!!楓に触るな!!」

「それは出来ませんよ。私は貴方が最愛の人を失ったらどうなるか見たいのですから。その為に攫って来たのです。それに貴方が痛め付けられる姿を見たこの人の表情も楽しみで仕方ないのですよ。」
つまり…楓を殺すと言っているのか?
させない、絶対に!!

「さて、そろそろ起きて頂きましょうか。」
クロウは楓の顔の前でパチンっと指を鳴らすと楓の目がピクピクと動きゆっくりとクロードと同じ薄紫色の大きな瞳が開いた。
楓は状況が分からないのかキョロキョロしてクロウを見ると悲鳴を上げた。

「楓!!」

「クロード!!」

「良いですね、感動の再開。しかし、それは直ぐに悲しみに染まるのです。」

「グフッ!!ガハァッ!!」
クロウが手を翳すと黒い何かがクロードの腹を貫いた。

「いやぁぁぁぁあ!!クロード!!」
取り乱す楓、しかしそんな楓をクロウは笑みを浮かべながら決して離さない。
帝達もいきなりの事で動けずにいた。
最初に動いたのは以外にも風帝フールだった。

「総帝様、大丈夫?!」

「クッ!!大丈夫ですこの位…ぐぁぁぁぁあ!!」
クロードの腹を貫いた黒い物体はそのまま根を張る様にクロードの身体を蝕んで行った。

「クソっ!!焔魔法…閻魔の灼!」
炎の閻魔が現れ大きな灼をクロウに向けて振り下ろす。

「土魔法…ストーンヘンジ!!」
空から幾つもの大きな石柱がクロウとガイバーオーガ達の周りに降り注ぎ突き刺さって行く。

「闇魔法…黒煙!!今です風帝!!」
ストーンヘンジの中を真っ黒な霧で満たした闇帝は風帝に叫んだ。

「了~解!風魔法…風神の鎌鼬!!」
ガイバーオーガは次第に切り刻まれる痛みに叫ぶ声が聞こえたが、クロウに関しては全く見えなかった。
楓にはクロードが結界を張っているので無事だろう。
真っ黒な霧が鎌鼬の風で吹き荒れ視界は非常に悪い。

「うむ、これの欠点は儂らからも中の様子が見えん所じゃの?」

「確かにね。」
未だに続くガイバーオーガの叫びにクロードの苦悶の声が重なった。
クロウが放った魔法がまだクロードを蝕んでいると言う事はまだクロウは無事だと言う事だ。

「クロード、大丈夫か?」

「何とか…抑えては居ますが、この黒い物は俺の心臓を目指している様です。」

「マジで命狙って来てんのかよ?!」
ラファイは顔を歪めた。
クロードは意識を保つのも必死だろうに、クロウの魔法を抑えながら楓に結界を施している。
今クロードが気を失えば楓も無事では済まない。
ラファイは今までクロウがここまで動いたのは初めて見た。
今まではガイバーオーガを使って高見の見物をしている感があった。
なのに何故今楓を攫ってまで動いたのだろう?
それにラファイはクロウが何故あそこまでクロードに拘るのか不思議に思っていた。
暫く吹き荒れた鎌鼬が静まり始めると同時に霧も次第に晴れて来た。
そこには血塗れになり膝を付くガイバーオーガ達と無傷のクロウと牛…それから…牛の鋭い角に貫かれた楓の姿だった。

「嘘だ…楓!!」

「クロ…ド…」

「これは失礼、余りの風に手を離してしまいました。」
帝様はクロウを睨む。

「おや、助けなくて宜しいのですか?」
そう言ってクロウは牛の後方に下がった。

「楓!!直ぐに助けます!!」
いち早く楓に向かったクロードは腹を貫いた角を見て絶望した。

「クロ…ド…私は良いから…赤ちゃんを…」

「嫌だ!楓が居なければ!!」

「お願いクロ…ド…貴方なら…出来るわ。私達の…赤ちゃん…助けて…」

「楓…クッ!古代魔法…生命の揺籃」

「ありがとう…クロード…」
クロードが楓のお腹に手を翳すと小さな小さな命が生命の揺籃となる薄紫色のクリスタルに吸い込まれた。

「楓!!直ぐに再生を…」
クロードが楓を見ると既に楓は事切れた後だった。

「楓!!楓?!楓ぇぇぇえ!!」
楓を抱き泣き叫ぶクロードの力は爆発した。
一瞬でガイバーオーガを消し、クロウもかなりの深手を負った。
無意識なのかクロードは楓をクリスタルに閉じ込めた。
辺り一体を荒野に変えそれでも止まらないクロードに帝達は何も出来なかった。
後から駆け付けた水帝と光帝はこの光景に唖然とし楓の死に涙を流した。
そこにラウとルナが現れた。

「クロード達の事は我らに任せろ。」

「暫く眠らせるわぁ。このままじゃ世界中が荒野になってしまうものねえ。その間は貴方達に任せるわ。」
そう言うとラウとルナは暴走するクロードに向かって行った。
ルナは精霊の水でクロードを包み込み、ラウは己をクリスタルに変化させルナの水ごと包み込んだ。
クロードはクリスタルの中で水に揺られながら眠った様だった。
クロウはいつの間にか姿を消していた。
残された帝様は兎に角楓のクリスタルとクロードのクリスタル。
後はクロードが魔法を施した生命の揺籃を回収しエデンに戻った。

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