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領土奪還

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楓の命が奪われ、クロードが眠りについて500年…総帝の部屋のクロードのクリスタルに変化が起きていた。
クリスタルに皸が入りピキっと音を立てながら広がって行った。
クリスタルに姿を変えていたラウは元の姿に戻ると大量の水と共にクロードが目覚めた。
長い年月で髪の毛は伸び放題でクロードが歩くと数メートルは引き摺る程だった。

「楓…」
クロードはまだ真っ暗な部屋の中楓のクリスタルを撫でていた。

「クロード目覚めはどうかしらぁ?」
ルナはラウの頭にチョコンと座ってクロードを見ていた。

「今は何時ですか?かなり眠っていた気がします。」
楓から顔を離さずに聞いた。

「クロードが眠ってから500年が経ってるわよぉ。あれから魔法との戦争が始まって光帝が死んだわ。それから雷帝に双子のアルトとソルトが就いた、光帝は空席のままよぉ。」

「それにガライル王国以外の国は魔物に奪われてしまった。人間の人口は減りイリスも今では稀な存在となってしまった。光帝は空席のままだろうな。」
クロードは顔を伏せた。

「俺の…俺と楓の子は?」

「無事に育ったわぁ。男の子よ、名前はアジュール。立派にオズワルド公爵家の当主を務めたわよぉ。」

「そうですか…良かった。」
クロードは楓を見上げ涙を流した。
もう両親のウィリアムとナディアも楓の両親のバジルと椿もこの世に居ない。
急にクロードを孤独が襲った。

「俺にはもうラウとルナしか居ないんですね?」

「何言ってるのよぉ?ガライルもカイテルもリナリアも生きてるわぁ。それにアジュールが残した子孫だって居るじゃない?」

「そうだ、我達も居るがクロードは1人ではない。」
クロードは二人にありがとうと言うとシャワールームに入った。
長い髪を腰辺りで切り、着替えた。

「ルナ、今の状況は?」

「今はガライルとカイテルがドラスタ王国北で戦闘中よぉ。行くの?」

「私が行かないで誰が行くのですか?」
クロードは総帝のローブを羽織ると夜空を飛んだ。
その頃ドラスタ王国北では土帝ガライルと闇帝カイテルが苦戦を強いられていた。
ガイバーオーガ程では無いが、ガイバーオーガを小型にした様な新種のオーガ達の大群だ。
力はガイバーオーガに劣るが何せ数が毎回多いのだ。

「毎度の事じゃが数が多いのぉ。何処からこんな数が湧いて出るんじゃ?」

「ハアハア…土帝、喋る位なら詠唱して下さい!」
疲れ切ったカイテルがガライルに並んだ。
今では貴重なイリスは戦闘には出さない。
出来れば教育、修行させて次世代の帝を育成したいのだ。
この500年何とか帝達だけで食い止めて来た。
あれからクロウの姿は見ていない。
幸いガイバーオーガは攻めて来ることは無く、だから何とかなっていたのだ。

「まだ増えるのか?!」
倒しても倒してもゾロゾロと後から進軍して来るオーガにガライルはげんなりした。

「古代魔法…司法の鎖!!カイテル!!」

「うえっ?は、はい!!闇魔法…漆黒の深穴ブラックホール!」
司法の鎖に拘束され動けないオーガ達は漆黒の深穴に飲み込まれ消えて行った。
何万といたオーガ達は跡形もなく消え去った。

「クロード様!!目覚めたのですか!!」
カイテルが叫ぶ。

「目覚めたの一発が強力じゃのぉ?儂らは苦戦しつおったのに一瞬とは流石クロード様ですなぁ。」
ガライルは嬉しそうに目を細めた。

「毎回アレが攻めて来るのですか?」

「はい、毎回何万と言う数が来るのです。」

「そうですか、今後は戦う必要はありません。」

「「えっ?」」

「この国に強力な結界を張りますから、あの位の魔物では入る事は出来ないでしょう。これからは俺達が攻める番ですよ?奪われた領土を取り戻します。」

「それが総帝様の意思ならば儂らは従うまでよのぅ、闇帝よ?」

「はい!総帝様が居れば!!」

「では結界を張ってしまいましょうか?我大地の女神と契約する者、名をクロード=ルイ=オズワルド。彼の地に加護を与えん。」
国の中心から大きな魔方陣が広がり最後は国をスッポリ覆ってしまった。
魔方陣は国を覆うとスウッと消えていった。

「これで大丈夫ですよ。」

「総帝様、恐らく国は大騒ぎになっていると思いますから目覚めた事を国民に伝えた方が良いかと…」
現に街は大騒ぎになっていた。
夜に強烈な光と共に魔方陣が現れたと、魔物の奇襲だの大騒ぎだった。

「そうですね、では…」

“住民の皆さん今の魔方陣展開は総帝である私の魔法ですのでご安心下さい。ドラスタ王国全域に強力な結界を張りました。暫くは魔物の脅威から逃れられるでしょう。しかし、私が目覚めた限り皆さんが安全に暮らせる様に努めましょう。まずは領土の奪還です。帝達は夜が明け次第会議を開きます。何時もの部屋で待ちます。以上!”

総帝が目覚めた事で街はお祭り騒ぎとなった。
祭りは一週間続き、クロードの元にも沢山の祝いが届いたのだった。
会議を済ませたクロードはラファイの案内で両親と息子のアジュールの墓参りに来ていた。

「俺は親不孝者ですね…」
墓前に花を手向けながらクロードは呟いた。

「ほら、アジュールの写真だ。」
ラファイから一枚の写真を受け取る。
写真には両親のウィリアム、ナディアと楓の両親のバジルと椿、それに楓によく似た少年が笑顔でクロードと楓のクリスタルの前で笑っている写真だった。

「くっ…ふっ!か、楓に…良く…似て…」
クロードは溢れる涙を堪えられなかった。
何一つ親らしい事をしてやれ無かった息子。
最後すら看取ってやる事も出来なかった。

「アジュールはずっとお前を誇りに思っていた。自分の父親は総帝なんだと俺に良く自慢してたよ。」

「そうですか…俺の紋章のバングルはどうなりましたか?」
エデンにいるクロードに会うには総帝の紋章が入った物が必要となる。

「あれは…アジュールが一緒に墓に持って行ったよ。アジュールの子供達は自分の祖父が総帝だとは知らされてねえ。」

「なら安心ですね。」
クロードはもうオズワルド公爵家とは関わる気は無かったからだ。

「良いのかよ、それで。」

「良いんですよ。500年ですよ?曾孫とかの問題ではありませんし、500年も生きてるお爺ちゃんなんて気味悪いでしょ?」
ラファイは切なそうにそうかとだけ言って二人で墓に手を合わせた。
帝達も500年振りだと言うのに皆外見は変わっていなかった。
緩やかには歳を取るらしいが、本当に緩やかすぎる位緩やかな様だ。
クロードの美貌も健在で長髪を緩く纏めている姿は女と見間違えてしまう程だった。

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