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領土奪還
3-2
しおりを挟むそれから帝会議の議題は専ら住民達の自己防衛についてだった。
いくら人口が減少したにせよ少ないイリスだけでは守れないのだった。
かと言って騎士団の様に一般の住民に剣を握らせるのも酷と言うものだ。
今は結界の外に次第に溜まっていくオーガ達をクロードや帝達が時折一掃しているが、もしもの時の備えは欲しい。
「そもそもさぁ、幾ら僕達でもクロウ自身が来ちゃったりガイバーオーガが襲撃して来たら住民を守りながらなんて戦えないよぉ?」
「フールの言う通りだな、だから住民にも自己防衛出来る何かが無いかと話し合ってんだろうが。」
「うーん…力の無い者でも扱える武器の様な物があれば良いんですけどね?」
「クロード様、武器なら銃などを配給してはどうですか?あれなら玉を込めるだけですし、出来れば乱射出来る物が良いですよね?」
「カイテルの意見取り入れてみましょうか?」
「しかし、鍛治職人が足りんじゃろ?住民達全てに行き渡らせるとなると…」
「ガライル心配要りませんよ?全部俺が作りますから。2、3日あれば出来ます。」
ほらとクロードは鉱石魔法と溶解魔法に魔石や錬金術を多様して一つの銃を作り出した。
「俺の力を込めてありますから威力は折り紙付きですよ?」
それをフールが受け取りジロジロといろんな角度から確認を始めた。
「ふーん…普通の銃じゃない?」
フールは会議室の壁に狙いを定める真似をしてバーンと言った瞬間フールは間違って引き金を引いてしまった。
ーズバァァァァァァアン
「へっ?」
素っ頓狂なフールの声と半壊した会議、パラパラと落ちてくる瓦礫の音が響いた。
「おや?威力が強すぎましたか?しかし、魔物相手ならこの位でもいいか気がしますね?」
全員嫌駄目だろう…とクロードを見た。
「クロード、お前これ間違って住民が発砲したらどうするつもりだ?しかも犯罪に使われる可能性だってあるぞ?」
「それなら俺の紋章を刻みましょう!有事の際以外には発砲出来ない様にしておきます。」
「それなら良いが…有事の際には住民が魔物の命中させてくれんと街が消えるのぉ。」
ガライルの呟きに全員が固まった。
「クロード様…コレに自動で照準を合わせるなんて事は追加出来たりするの?」
フールは銃を持ったまま顔を引き攣らせた。
「それが出来なきゃ使い物にならねえな。」
ラファイも半壊した会議室を見て溜息を吐いた。
「ちょっと時間が必要ですけど出来ますよ?その変わり魔石を大量に用意して下さい。そこらのオーガを倒せば問題なく集まるでしょう?」
そして、クロードは銃を帝達は魔石を集めに走った。
その後数週間で銃は完成し威力はそのままにする事になった。
配布は何とか存続しているギルドに依頼し、使い方もレクチャーして貰った。
それから土帝ガライルの提案でクロードが張った結界の周りに更に頑丈な壁をガライルが造ると言ってくれた。
入口は東西南北の四つ設置し人間以外は通れない様に闇帝が術をかける事になった。
雷帝の双子は常に会議中寝ていたので放っておく事になった。
「クロード様。」
「どうしましたカイテル?」
会議が終わり執務室に戻ると闇帝カイテルが訪ねてきた。
「これを…」
クロードはカイテルから淡い黄色に光る鉱石の様な物を受け取った。
「これは?」
手に握ると何故か懐かしい気がした。
「光帝…マキナから最後に預かった物です。」
「マキナから?」
「はい。クロード様に預けて欲しいと、次の光帝となった者に渡して欲しいそうです。マキナの魔力を結晶にした物だと言っていました。」
「だから懐かしい気がするんですね?」
もう数百年経った今でもマキナの魔力の結界は色褪せることなく光っていた。
「分かりました、預かります。早く次世代が現れれば良いのですが。」
「雷帝も空席が長かったですからね。しかし、今ではイリスの出生率は下がる一方です。」
イリスの出生率、これも問題だった。
このままではこの世界から魔法が消えてしまう恐れもあるのだ。
そうなれば自分達帝が居なくなってしまったらこの星の人間は滅んでしまうだろう。
ーコンコン…
「どうぞ。」
「クロード…エデンの転移魔方陣で揉め事だそうだぞ?しかもオズワルド公爵家の者だそうだ。」
クロードは首を傾げた。
「何故オズワルド公爵家が来るのです?俺の事は今は知らない筈でしょう?」
「何処から漏れたんだろうな?お前に面会を求めてるそうだ。しかし証が無いから近衛も困ってるらしいぞ?」
「そうですね、俺の紋章はアジュールが持ってますからね。例外はありません。証を持たない者は総帝に面会は出来ないと近衛に伝えて下さい。」
ラファイは分かったと言って出て行った。
「良かったのですか?」
カイテルは心配そうにクロードに尋ねた。
「大丈夫ですよ。例外を作ってしまったら誰でも総帝に会える事になってしまいますからね。幾ら俺の子孫でも証が無い限りは会う事はありませんよ。」
「そうですか…」
この500年で帝達は孤独となっていた。
両親を看取り、子供を看取り、孫を看取り…一番長く生きているガライルは何度こんな思いをして来たのだろうか?
マキナは悔いなく逝ったのだろうか?
クロードは長過ぎた眠りを後悔していた。
「カイテル、マキナの最後を教えて貰えますか?」
「マキナは…逃げ遅れた子供を庇って致命傷を負いました。クロード様が居ないので回復を得意としていたのはマキナでしたから…でも、最後は笑っていました。庶民だったマキナが光帝になれて、最後は誰かを守って死ねるのなら本望だと。」
「そだったんですね。優しいマキナらしい最後です。カイテルは…大丈夫でしたか?」
カイテルがマキナに思いを寄せていたのをクロードは知っていた。
カイテルもまた愛する者を失ったのだ。
「駄目…でした。でも、マキナはまだこの結晶の中で生きていますから。僕は大丈夫です。」
カイテルは愛しそうにクロードの手にあるマキナの結晶を見た。
「カイテル、明日また午後に来て下さい。」
「?分かりました。」
クロードはマキナの思いも気付いていた。
きっとマキナも喜んでくれる筈だ。
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