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領土奪還
3-12
しおりを挟む気を失った木蓮は真っ白な空間に居た。
何故か懐かしいと思った。
暫くボーッとしていると目の前に光の玉が現れ、木蓮そっくりの女が現れた。
「貴女…楓さん?」
「ええ、そうよ。私に会いに来てくれてありがとう。それに、クロード…クロードも前より明るくなったわ。私が死んでから少し変わってしまったから。」
寂しそうに言う楓に木蓮は何とも言えない感情が自分の中に渦巻くのを感じていた。
似ているけど全然違う…優しい声、洗練された所作、こんなに美しい女性を私は知らない。
やっぱりあの緑の人が言った通り。
私はもしかしたら楓の代わりになれるかもと、クロードに愛して貰えるかもしれないと心の何処かで期待していたのかもしれない。
「私は…貴女にお礼を言われる資格はないわ…だって…。」
「貴方は私。私は貴女よ?」
楓は木蓮の手を優しく握った。
「違う…全然違うわ。」
「クロードを愛してしまった?」
木蓮はガバッと顔を上げると楓はとても優しい顔で微笑んでいた。
「それは…」
「ふふ…貴女がクロードに惹かれても可笑しくないわ。だって貴女は私なんだもの。」
「そうかもしれない…でも私は貴女の様にはなれない。こんなに苦しい感情…私は知らない!」
「それは嫉妬ね?私に嫉妬してる様じゃクロードを愛しても身が持たないわよ?クロードはモテるから。でもクロードは全くそれに気付いて無いのよ?可笑しいでしょ?」
コロコロ笑う楓に木蓮は唖然とした。
勝てない、この人には勝てない。
木蓮はまた俯いた。
身の程も弁えず私は何て愚かなんだろう。
「クロードは優しいでしょ?」
「えっ?はい…とても。優し過ぎる位。」
「でしょ?そい言う所は変わらないのよねふふ…。」
木蓮は口に手を当てクスクス笑う楓に見惚れた。
「私は…クロードに愛されたい。どうしたら私は貴女になれる?私は愛し方も愛され方も知らない…何も知らないの…。」
涙を流す木蓮を楓は抱き締めた。
「言ったでしょ?貴女は私だと。私は貴女と一つになりましょう。クロードは私達を守り愛してくれるわ。」
「無理よ…帝の人達は私を、木蓮を認めてはくれない。だって皆貴女を、楓を慕っているもの。」
「今はそうかも知れないわ。特にフールなんてそうでしょう?でも大丈夫。みんなが大好きなアップルパイを作ってあげて?喜ぶわ。特にガライルなんてクスクス…。」
「アップルパイ?」
私の記憶に何故かあるアップルパイだ。
「そう、アップルパイは私の故郷の星の食べ物なのよ。アップルパイは帝の皆とクロードともう居ないけれどクロードの家族しか知らないものだから。」
私にしか作れないしね?とウィンクする楓に自然と木蓮も笑顔になった。
「さぁ、もう起きる時間よ?木蓮手を…」
木蓮は楓の手にそっと手を置いた。
「私は貴女、貴女は私。私は木蓮に宿る。」
木蓮は目を瞑った。
楓はスっと木蓮の中に入って行った。
とても温かい…楓は優しさとクロードへの愛で溢れている。
そのまま木蓮は白い空間に溶けて行った。
木蓮が倒れてクロード達は木蓮を医療室に運んで様子を見ていた。
帝達も集まり眠る木蓮が余りにも楓に似ていて、昔の嫌な思い出が甦る。
「目覚めないのぉ?」
「ルナ、木蓮はどうしたのか分かりますか?」
クロードの問にルナは微妙な顔をした。
『目覚めれば…分かると思うわ。』
何とも言えない顔のルナになれるクロードは首を傾げた。
そんな中、フールだけは眠る木蓮を睨んでいた。
『フンっ…我は知らんからな?』
「ラウ、そろそろ機嫌を直して下さい。」
ラウはそっぽを向いて床に丸くなってしまった。
そんなラウに眉を下げると木蓮がモゾモゾ動き出した。
「おっ?目が覚める様じゃよ?」
ガライルが言うと皆木蓮に注目した。
虚ろな目で辺りを見ると木蓮はクロードに微笑んだ。
「クロード…」
「木蓮?大丈夫ですか?」
「ふふ…大丈夫よ。」
木蓮の変わり様に全員が息を飲んだ。
目を覚ました木蓮は楓そのもの、倒れる前の木蓮とは全く違っていた。
「クロード、私達の赤ちゃん…守ってくれてありがとう。ずっと伝えたかったの。」
クロードは言葉を詰まらせた。
木蓮には子供の事は話していない。
何故知っているのか?
話し方、仕草、笑い方まで楓そのものだった。
「ガライル…アップルパイまた作るわね?」
ガライルは目を見開いた。
それを見ていたフールも戸惑っていた。
「楓様…なの?」
フールは震える指で木蓮を指さした。
クロードに至っては完全にフリーズしたまま動かなくなってしまった。
「な、何故…儂が楓ちゃんのアップルパイを好きだと知っとるのじゃ?!」
ガライルも髭を鷲掴み正気を保とうとしていた。
「クスクス…やだ、知ってるわ。私が淹れるお茶を褒めてくれるのも、リナリアが私を本当の妹と様に可愛がってくれてたのも知ってるわ。」
コロコロ笑う木蓮は正に楓だった。
「違う…」
誰もがフリーズしていたクロードを見た。
「楓は…死んだんだ…。」
「クロード…。確かに私は死んだわ。でも木蓮さんが私と一つになった。木蓮さんは私。私は木蓮さんよ?二人で一つ。」
クロードに触ろうとする楓…基木蓮の手をクロードは振り払った。
「ルナ!!説明しろ!何か知ってるんだろ?!」
口調が変わったクロードにルナは苦笑いした。
『だから言ったじゃ~い?起きたら分かるって。私は知らないとも言ったわ、それでもこれがクロード達が選んだ結果よ?』
「なら今の木蓮は…」
『楓ね。クロード知ってるかしら?精霊には二種類あるのよ。自然に生まれる精霊と死後人間だった者の霊が精霊となる…言いたい事は分かるわよね?』
「楓は…楓が精霊になっていたと?」
『う~ん、正確には半精霊って所かしら?』
「精霊になっれば人間だった頃の記憶を失ってしまう。私は私の亡骸を覆うクリスタルを寄り所に何とか意識を保って居たの。」
「なら…楓は見届けてくれたのですか?俺達の…」
「アジュールの事?」
クロードが頷くと木蓮は語り出した。
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