破壊も破滅もするかもしれない短編集

宇宙

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暮色蒼然の罪咎

番外編:暮色蒼然と三稜鏡

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「あれ?フォーラスくん、あそこでストリートライブしてるよ!」
 俺が通い始めた探偵事務所の買い出しで探偵の助手である楓と一緒に歩いていた時に、楓が昼間の駅前広場で指を指す。
「みんな!はじめまして!ぼく達のことよろしくね!」
 笑顔を振りまく直毛で長い黒髪の女の子が周りを見渡して手を振る。その隣のペンギン帽子の男の子は少し慣れていないのか、ぎこちない笑顔で手を振る。……というかペンギン帽子の顔も少し変わっているような気もするが気にしないほうがいい気がしてきた。
「ちょっと見てみない?可愛いし!」
「え、ちょっ!?」
 楓に思いっきり腕を引っ張られ少し体勢を崩しそうになるが、ぎりぎり耐える。ここでコケたら恥ずかしい。人が多いのに。
「えーっと……ユニット名はsh……sail to hopeの略なんだって」
 楓は立て看板を見て呟く。
「直訳だったら希望への航海……だな」
 希望への航海……。俺の過去が脳内にちらつく。ただ罪を背負って生きてるなのに希望へ航海するかのように生きることはできるのだろうか。
「あーっ!見てくれてありがとう!2人とも!」
 高くて大きな声でその考えを遮るかのように女の子は嬉しそうに笑う。
「可愛い、めっちゃ可愛い……」
 楓は目をキラキラさせる。
「まずぼく達のコンサートを始める前に自己紹介するね!」
 そう言って2人とも自己紹介をする。一番の驚きは女の子かと思っていた子がまさかの男の娘でひっくり返りそうになったことである。こ、こんな可愛い子が男の娘なのか……。楓も目を見開いている。ペンギン帽子の男の子も照れながら自己紹介をしていた……が、やっぱりペンギン帽子の表情は照れた顔をしたり自信満々そうな顔
をしたりしていた。表情というか目しか動いていないけど。
 コンサートが始まってもダンスはキレがあり歌もすごく上手い。聞き惚れたという言葉がぴったり合うぐらいにはコンサートが一瞬で終了した。たった30分とちょっとの路上コンサートだけど、また見てみようと思った。
「すみません、次はいつするんですか?」
 俺はいつの間にか彼らに聞いていた。次も見たい。わくわくが止まらなかった。
「明日もするよ!」
「雨でも、風でもな!」
 2人+ペンギン帽子はすごく笑顔になって目を輝かせている。これが、可愛いということなのか……。
「ありがとうございます!明日も行きます!」
 勢いで言ってしまった。笑顔が見たくて言ってしまった。
「ありがとうございます!!」
 2人は顔を見合わせて深々と頭を下げた。感謝の気持ちだろうか…?
「明日もこの場所で!」
 
 こうして、俺は楓と共に帰路につく。
 2人は笑顔が可愛くて、歌もダンスも人々を魅力する。また行きたい、見たいと思ってしまった。その一瞬だけ罪を忘れて楽しんでしまった。
「何か悩んでいる?眉間にシワ寄ってる」
 楓が話しかけた。眉間にシワを寄せたつもりはないが、悩んでいたから無意識に寄ったのかもしれない。
「いや、shを見てると罪を忘れて楽しんでさ。それで良かったのかなと」
「う~ん。心から謝りたいとか、罪を償いたいとか思っていたらいいんじゃないかなって私は思うよ。だって、罪の重さに耐えかねて体を壊したら償いが出来ないから。謝りたい時に謝れない。そのときにはもう遅いから」
 楓は少し悲しそうに微笑む。きっと何かあったのかもしれない。謝罪か何か伝えたくても何かで伝えられなかったことが。
「もちろん羽目は外したら駄目だけど、娯楽は人を前向きにするから、気負わなくてもいいと思うんだけど……」
「そうか……ありがとう」
 探偵の蘭と楓に出会う前は自分もわからず罪でぐちゃぐちゃになって、ただ逃げていた。後ろ向きだった。娯楽、今回はコンサートだけど人を前を向いて歩くために背中を押してくれるものか。
 それならばどうして俺は彼らに惹かれたのだろう。別の何かでも良かったのに。
 それを確かめるために次の日も彼らに会いに行った。
 生憎の雨で、楓は学校があるから先に行っていてとのことで一人で雨の影響で人通りの少ない駅前広場に着いた。多分彼らもこんな雨で人通りがいない中でコンサートはしないだろうと思っていた。けど、やっていた。雨に打たれながら踊って歌う。衝撃的だった。雨なのに。下手したら自分達が風邪引いてしまうというのに。
 すると、彼らは俺に気がついたのか思いっきり手を振る。
「雨なのにありがとう!来てくれるって信じてた!」
「俺らの歌声とダンスで雨雲吹き飛ばすから見てよ!」
 長い雨で出来た少し大きな水溜りと雨音をもろともせずに2人は踊って歌う。少し大きな雨音をかき消して歌声が広場に響き渡る。
 その姿に俺はまた見入っていた。ずっと彼らから目を離せなかった。こんなに雨でも来てくれると信じてコンサートをしている彼らを見て、好きになった。応援したくなった。こんな気持ちは始めてで戸惑ったが、俺の気持ちだから。
 罪を背負って生きるのはそう簡単なことではない。きっかけを与えてくれたとしても、長続きするとは限らない。だけど前向きにしてくれる存在はいる。目の前に。もちろん自分のすべきことはある。その背中を押してくれるのは彼らの頑張っている姿だった。
「また、来てもいいですか?」
「「もちろん!」」
「俺、応援しているんで!頑張ってください!」
「あ、ありがとうございます!嬉しい!」
「次も楽しみにしてよ!」
「楽しみにしています!」
 いつの間にか雨は止んで光が差し込む。
「あっ!虹だ!」
 ペンギン帽子の男の子は指を指す。その先には大きな虹が見えた。
「虹…そうだ!あなたの名前は?」
 閃いたかのように男の娘は尋ねてくる。本名を言うか少し迷う。そういえば、蘭が偽名も考えたほうがいいよって言ってたような気がする。探偵助手として働くのなら、浮かない名前で溶け込むように云々って。初めからそうした方がって言いたかったがいつもの事だし諦めたことを思い出す。ちょっと申し訳ない気もしたが今後のために偽名を名乗ることにした。
「及川風雅」
「及川風雅さんね!今日からプリズム1号に任命してもいいですか?」
「「プリズム……?」」
 俺どころかペンギン帽子もその持ち主の男の子も疑問符が浮かび上がる。
「ファンってことなんだけど……迷惑でした?」
「ファンのようなキラキラをプリズムに……」
 思いつきで男の娘は言ったようで男の子は一瞬戸惑ったかのように見えたがすぐに納得したような様子だった。ペンギン帽子も心なしか納得したような目をしている。
 それにしてもファンか……。実感は沸かないけどこの二人の第一号のファン。なんだか悪い気がしなかった。 
「いえ、是非ファンになってもいいですか?」
「「ありがとうございます!」」
 また深々と二人は頭を下げた。
「また、やっているときいつでも見に行きますから!」
 少し心が軽くなったような気がした。少しだけ前を向いて歩けるような気がした。罪を償うためにまた歩き出す。

 ちなみにその後、時が経ってshの人数が増えてsh+となり大きなホールでコンサートを行ったことはまた別のお話。
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