四人の魔族とおいしい私

片茹で卵

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赤い髪の魔族4★

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 目を開いたとき、最初に目に入ったのは雫を連ねたような形の照明だった。厚みのあるガラスの表面に凸凹が刻まれていて、独特な陰影が壁や天井を彩っている。

(ここ、どこだっけ)

 半覚醒のふわふわした意識で考える。柔らかいベッド。清潔な濃紺のシーツと、頬に当たる絹地のクッション。
 どこだかわからないけど、居心地のいい場所だと思った。お香のような匂いが、ふわりと鼻先を掠めて――

「ごめんね、ちゃんと魔法動いてるか確認したかったから」

 突然頭上から声をかけられて、私は反射的に飛び起きた。

「渦潮の最奥を外してもらったのはやりすぎだったかなと思ったけど、大丈夫だった。この部屋の力の流れは外からはわからないよ」

 気さくな口調と、親しげな笑顔。
 一気に覚醒した意識が今に至るまでの記憶を呼び覚まして、心臓がどくどくと脈打ち始める。思いがけないプレゼント。消えた指輪。頬に触れた手。不安に喉奥が引き攣るのを感じながら腿で後退りする私を、ベッドの脇に立つイスラさんが楽しそうに見ている。

 赤い瞳に新しい玩具を前にしたような好奇が閃いて、ベッドが短く軋みを上げた。膝で乗り上げた背の高い影が、ゆっくり近づいてくる。

「こ、来ないでください」
「この状況でそれができる魔族がいるなら見てみたいな」

 背中にヘッドボードが触れる。彫刻を施された木の硬い感触。これ以上は下がれない。うろたえる間もなく距離を詰めてきたイスラさんが、私の乱れた前髪を耳にかけた。そのまま首すじを指先で撫でられて、息が詰まる。

「やめ……」
「全身から力が滲み出てる。こんなになっているのに人間にはわからないんだから不思議だよね」
「あっ」

 長い指が、何の躊躇いもなくワンピースのボタンにかけられた。一つ、二つ、三つ。流れるように外して前を開いてしまう。
 お風呂上がりは暑いから、布地が分厚いからとインナーを着なかったせいで、服の下には何の覆いもない。外気に晒されて震える胸、その中心から少し左側に手のひらを押し当てて、イスラさんが嘆息した。高揚を噛み潰すように薄く笑って。

「我慢の効かないやつなら、ここで心臓を食い破ってる」
「……っ」
「食べたらなくなるなんて子供でもわかることだけど、抗えないんだ。俺も昔ならそうしてたかも」

 ガキだったからと冗談めかした口調で言うけれど、きっとこの人は、私を食べることに罪の意識なんてない。捕食者の視線を前にして、恥ずかしさと同じだけの恐怖感が湧き上がる。
 身体をこわばらせる私とは真逆の、からかうようなイスラさんの眼差し。けれどそれは、じわりと滲むような熱を帯びて。

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ、これでもルールは守る方だから。どうせならゆっくり楽しみたいしね」

 こんな風に、と指先が胸に伸びた瞬間思わず唇を噛んだけど、関節の目立つ手は想像よりもずっと柔らかい手つきで肌に触れた。

「大きいね、人間って何歳くらいまで成長するんだっけ」

 下からそっと持ち上げて、確かめるように指の腹を沈ませる。そのまま、胸の中心を避けながら撫でて、くすぐって、押し当てて。子供をあやすような繊細で柔い刺激を与えられて、胸の中にじんわり熱が生まれる。

「ん……っ」
「ねえ、ロガともこういうことしたの?」
「ぇ……」

 片方の手が脇腹を撫で下げて、おへそのくぼみに爪の先を差し入れる。そんなところまで触られるとは思っていなくて、胸を触られるのとは違う恥ずかしさがこみ上げた。

「あいつ、すごくきみのこと気にしてるよね。傷つけた、悪いことしたって思ってる。可愛いやつだよ、人間相手にさ」

 どこかざらつきのある言葉とともに喉奥で笑う。その間にも手は私のお腹や肋骨、鎖骨へと這うように触れて、再び胸へと戻った。

「……ぅ」

 優しささえ感じる手つきでさすって、やわやわと揉んだかと思えばすぐに離れていく骨ばった手。
 中心……乳首は全く触られないままで、私は無意識に湿った息を吐いた。今、もう少しで掠めそうになったのに。

(ロガさんの時は、すぐに触って……)

 湧き上がった考えを、慌てて打ち消す。自分の発想が信じられなかった。何を考えているんだろう。いけないと思うのに、イスラさんの手が肌に触れれば触れるほど、欲しいものが与えられないような焦れったさを感じてしまう。

「っ……ん……」

 首すじに唇が触れる。柔らかく食んだかと思えば軽く歯を立てられて、無意識に力の入った左手に、イスラさんの長い指が絡みついてきた。手の甲から指の付け根、関節や爪をくまなく辿られて、

「律香ちゃん、乳首触ってもいい?」
「ぇ、あ……」
「嫌なら無理強いはしないけど」

 俺はこうしているだけで気持ちいいからと鎖骨を強めに吸われて、背すじがぴりりと痺れた。

「っ、ぅあッ」

 手が、包み込むように胸に触れる。ぷっくりと硬くなったところをふちどる輪郭をなぞられて、何か考えるより先に身じろぎしてしまった。自分から、指が胸に当たるように。あまりの恥ずかしさに真っ赤になる私を、真紅の瞳が至近距離から捉えて。

「確認の必要はないみたいだね」

 言い終わると同時に、痛みを感じるぎりぎりの強さで乳首を摘まれた。

「ぁああっ!」

 それまでのぬるま湯みたいな触れ方とは真逆の直接的な刺激に声が出る。親指と人差し指で押しつぶすように力を込められるたびに全身の神経がびりびりして、咄嗟に逃げを打った身体をやんわり抑え込まれた。罰みたいに軽く爪を立てられて、鼻にかかった息が洩れる。

「痛いのも好きなんだ」
「ちが……っあ、や、それしないで……っ」

 肩を押されて、あ、と思う間もなく仰向けに身体が倒れる。覆いかぶさったイスラさんの目に、ひどくうろたえた私の顔が映っていた。

「ロガはきみにキスしたみたいだけど、俺、あれの良さがあんまり分からなくてさ。粘膜接触の割に大して魂吸えないし、力を得るならもっと効率のいい方法がある。でも今のきみを見て少しわかったよ、したくなる気持ちが」

 さっきまで胸に触れていた手が顎を掴んで、二本の指でぎりぎりと骨を圧迫する。軋むような痛みに思わず口を開くと、あっさりと唇を覆われた。目を見開く間もなく潜り込んできた長い舌に奥で震える舌を絡め取られて、息が詰まる。

「っ……ふ、……ぅ、んん……っ!?」

 けれど、衝撃はそれだけでは終わらなかった。下降したもう一方の手が、捲れたワンピースの裾からゆっくり腿を撫で上げたから。
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