麻央と魔王の超危険なプロトコル

Yupafa

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魔王と麻央

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 ん……? 口の中にジュワッと広がるこの味、この幸せな感覚……
 美味い。めちゃくちゃ美味い。なんなんだこれは!!

「美味い!!」

 俺は思わず叫んでしまった。
 む? 今の甲高い声は……? 俺の声ではなかったような。

 目の前に人間が三匹。ぽかんと口を開けて俺を見ている。

「ま、麻央ちゃん!? ママ特製『すり下ろしレンコン入りおろしポン酢ハンバーグ』がそんなに美味しかったの?」

 誰だ、こいつら? なぜ人間のような超下等な存在が俺の目の前にいるのだ?
 
 周りを見まわす。めまいがしそうなほど、ごちゃごちゃとした狭苦しい空間。
 どこなんだ、ここは? まるでゴミダメではないか! 

 ──確か俺は悪魔城に無限空間を呼び出して、そこに配下のものを集めさせ、人間界侵攻前のセレモニーを……
 そして、そこで侵攻開始の号令をかけようとしていたはず……

「ここは……モグモグ」

 声を出そうとすると、自然と口が動いてしまった。口の中の美味な食べ物を咀嚼し続けたい俺がいるようだ。

「麻央、口に物を入れながら話すのは行儀が悪いぞ」

 人間の男が俺になにか生意気なことを言っているようだ。消すか。いや、下等な人間なんていつでも消せる。それよりも今はこの口の中に入っている美味いものがなにかを知りたい。

「おい、そこの人間ども。俺の口の中に入っているものをもう一度言ってみろ」
「ぷぷ! お姉ちゃん、なんのモノマネしているの? アニメの見過ぎじゃない?」
「あなたが食べてるのは、大好物の『すり下ろしレンコン入りおろしポン酢ハンバーグ』でしょ」

 すり下ろし霊魂入り……なんて甘美な名前なんだ。脳内がとろけるようだ。

「麻央ちゃん、変よ。どうしたの?」

 『魔王ちゃん』だと? 今、俺のことを『魔王ちゃん』と呼んだな? 
 人間の分際で俺をちゃんづけで呼ぶとは、いい度胸じゃないか。無礼者は死あるのみ! その心臓を握りつぶしてくれる──

 ……おかしい。ぞ。

 いつもなら相手の心臓、魂、コア、すべてがこの目で見える。そして、それをこの手で簡単に握り── 
 
 ん? んん? んんん? 
 
 俺の目に飛び込んできたのは、あまりにも貧弱で小さな手だった。
 
 こ、これは……まさか……
 
 自分の身体を確認する。細い足、細い胴、小さな胸……俺の目に映ったのは、なにからなにまで華奢な人間の女の身体だった。しかも変な服まで着ているではないか。

 なんということだ! 
 待て待て、俺は魔王、サルタシファン様だぞ。取り乱してはならない。常に冷静に……

「麻央ちゃん、座って。冷製スープも飲んだら? 大好きでしょ」

 『冷静スープ』だと? この人間の女、俺の心が読めるのか。よかろう、お前の能力に免じておとなしく従ってやろうではないか。
 この黄色いスープ、これが『冷静スープ』とやらか。見た目は魔界の低階層に生息している猛毒寄生ガニのミソスープのようだが……

「こ、これは!!」

 このひんやり感。少し塩気の効いたまろやかな甘み。そして心地よい舌触り。これほどまで美味なもの、魔界には存在しない。

「美味い……」
「でしょう。さあ、ハンバーグもいっぱい焼いたから、お腹いっぱい食べてね」
「ほれ、もっと大根おろしをハンバーグにかけなさい。大根も栄養があるんだぞ」

 男根おろし。人間はそんなものまで食べているのか。魔界でも珍味として扱われる人間の男根。この種族は美食を追求してカニバリズムの境地に至っているのか。
 うむ。これまた辛味が増してハンバーグというものがさらに美味くなるではないか。こんな使い方があったとは、恐れ入る。

 人間界に来てみなければ知り得なかった事実のオンパレード。驚きと感動の連続。そして満ちあふれてくるこの幸福感。

 頰をなにか温かいものが伝っていた。

「麻央ちゃん、涙を流すほど美味しかったの?」
「お姉ちゃん、おおげさなんだからー」
「はははは、まぁいいじゃないか。ママの愛情が心を打ったんだろう」

 人間たちの笑い声がなぜか心にしみる。喜んでいる顔を見るとこちらも気持ちよくなる。なんだこの感覚は……
 なにかとても大きくてすばらしいものが俺の心をすっぽりと包みこんでいるように感じた。

 ──はっ! 俺はなにをやってるのだ? 

 無意識のうちに俺が最も嫌っていた『幸福』というくだらないものに毒されていたではないか。


 もしかしたら……もしかすると……俺は……本当に人間の小娘になってしまったのではないだろうか──

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