2 / 5
魔王と麻央
しおりを挟む
ん……? 口の中にジュワッと広がるこの味、この幸せな感覚……
美味い。めちゃくちゃ美味い。なんなんだこれは!!
「美味い!!」
俺は思わず叫んでしまった。
む? 今の甲高い声は……? 俺の声ではなかったような。
目の前に人間が三匹。ぽかんと口を開けて俺を見ている。
「ま、麻央ちゃん!? ママ特製『すり下ろしレンコン入りおろしポン酢ハンバーグ』がそんなに美味しかったの?」
誰だ、こいつら? なぜ人間のような超下等な存在が俺の目の前にいるのだ?
周りを見まわす。めまいがしそうなほど、ごちゃごちゃとした狭苦しい空間。
どこなんだ、ここは? まるでゴミダメではないか!
──確か俺は悪魔城に無限空間を呼び出して、そこに配下のものを集めさせ、人間界侵攻前のセレモニーを……
そして、そこで侵攻開始の号令をかけようとしていたはず……
「ここは……モグモグ」
声を出そうとすると、自然と口が動いてしまった。口の中の美味な食べ物を咀嚼し続けたい俺がいるようだ。
「麻央、口に物を入れながら話すのは行儀が悪いぞ」
人間の男が俺になにか生意気なことを言っているようだ。消すか。いや、下等な人間なんていつでも消せる。それよりも今はこの口の中に入っている美味いものがなにかを知りたい。
「おい、そこの人間ども。俺の口の中に入っているものをもう一度言ってみろ」
「ぷぷ! お姉ちゃん、なんのモノマネしているの? アニメの見過ぎじゃない?」
「あなたが食べてるのは、大好物の『すり下ろしレンコン入りおろしポン酢ハンバーグ』でしょ」
すり下ろし霊魂入り……なんて甘美な名前なんだ。脳内がとろけるようだ。
「麻央ちゃん、変よ。どうしたの?」
『魔王ちゃん』だと? 今、俺のことを『魔王ちゃん』と呼んだな?
人間の分際で俺をちゃんづけで呼ぶとは、いい度胸じゃないか。無礼者は死あるのみ! その心臓を握りつぶしてくれる──
……おかしい。心臓が一切見えないぞ。
いつもなら相手の心臓、魂、コア、すべてがこの目で見える。そして、それをこの手で簡単に握り──
ん? んん? んんん?
俺の目に飛び込んできたのは、あまりにも貧弱で小さな手だった。
こ、これは……まさか……
自分の身体を確認する。細い足、細い胴、小さな胸……俺の目に映ったのは、なにからなにまで華奢な人間の女の身体だった。しかも変な服まで着ているではないか。
なんということだ! 俺の身体が人間の小娘になってしまっている。
待て待て、俺は魔王、サルタシファン様だぞ。取り乱してはならない。常に冷静に……
「麻央ちゃん、座って。冷製スープも飲んだら? 大好きでしょ」
『冷静スープ』だと? この人間の女、俺の心が読めるのか。よかろう、お前の能力に免じておとなしく従ってやろうではないか。
この黄色いスープ、これが『冷静スープ』とやらか。見た目は魔界の低階層に生息している猛毒寄生ガニのミソスープのようだが……
「こ、これは!!」
このひんやり感。少し塩気の効いたまろやかな甘み。そして心地よい舌触り。これほどまで美味なもの、魔界には存在しない。
「美味い……」
「でしょう。さあ、ハンバーグもいっぱい焼いたから、お腹いっぱい食べてね」
「ほれ、もっと大根おろしをハンバーグにかけなさい。大根も栄養があるんだぞ」
男根おろし。人間はそんなものまで食べているのか。魔界でも珍味として扱われる人間の男根。この種族は美食を追求してカニバリズムの境地に至っているのか。
うむ。これまた辛味が増してハンバーグというものがさらに美味くなるではないか。こんな使い方があったとは、恐れ入る。
人間界に来てみなければ知り得なかった事実のオンパレード。驚きと感動の連続。そして満ちあふれてくるこの幸福感。
頰をなにか温かいものが伝っていた。
「麻央ちゃん、涙を流すほど美味しかったの?」
「お姉ちゃん、おおげさなんだからー」
「はははは、まぁいいじゃないか。ママの愛情が心を打ったんだろう」
人間たちの笑い声がなぜか心にしみる。喜んでいる顔を見るとこちらも気持ちよくなる。なんだこの感覚は……
なにかとても大きくてすばらしいものが俺の心をすっぽりと包みこんでいるように感じた。
──はっ! 俺はなにをやってるのだ?
無意識のうちに俺が最も嫌っていた『幸福』というくだらないものに毒されていたではないか。
もしかしたら……もしかすると……俺は……本当に人間の小娘になってしまったのではないだろうか──
美味い。めちゃくちゃ美味い。なんなんだこれは!!
「美味い!!」
俺は思わず叫んでしまった。
む? 今の甲高い声は……? 俺の声ではなかったような。
目の前に人間が三匹。ぽかんと口を開けて俺を見ている。
「ま、麻央ちゃん!? ママ特製『すり下ろしレンコン入りおろしポン酢ハンバーグ』がそんなに美味しかったの?」
誰だ、こいつら? なぜ人間のような超下等な存在が俺の目の前にいるのだ?
周りを見まわす。めまいがしそうなほど、ごちゃごちゃとした狭苦しい空間。
どこなんだ、ここは? まるでゴミダメではないか!
──確か俺は悪魔城に無限空間を呼び出して、そこに配下のものを集めさせ、人間界侵攻前のセレモニーを……
そして、そこで侵攻開始の号令をかけようとしていたはず……
「ここは……モグモグ」
声を出そうとすると、自然と口が動いてしまった。口の中の美味な食べ物を咀嚼し続けたい俺がいるようだ。
「麻央、口に物を入れながら話すのは行儀が悪いぞ」
人間の男が俺になにか生意気なことを言っているようだ。消すか。いや、下等な人間なんていつでも消せる。それよりも今はこの口の中に入っている美味いものがなにかを知りたい。
「おい、そこの人間ども。俺の口の中に入っているものをもう一度言ってみろ」
「ぷぷ! お姉ちゃん、なんのモノマネしているの? アニメの見過ぎじゃない?」
「あなたが食べてるのは、大好物の『すり下ろしレンコン入りおろしポン酢ハンバーグ』でしょ」
すり下ろし霊魂入り……なんて甘美な名前なんだ。脳内がとろけるようだ。
「麻央ちゃん、変よ。どうしたの?」
『魔王ちゃん』だと? 今、俺のことを『魔王ちゃん』と呼んだな?
人間の分際で俺をちゃんづけで呼ぶとは、いい度胸じゃないか。無礼者は死あるのみ! その心臓を握りつぶしてくれる──
……おかしい。心臓が一切見えないぞ。
いつもなら相手の心臓、魂、コア、すべてがこの目で見える。そして、それをこの手で簡単に握り──
ん? んん? んんん?
俺の目に飛び込んできたのは、あまりにも貧弱で小さな手だった。
こ、これは……まさか……
自分の身体を確認する。細い足、細い胴、小さな胸……俺の目に映ったのは、なにからなにまで華奢な人間の女の身体だった。しかも変な服まで着ているではないか。
なんということだ! 俺の身体が人間の小娘になってしまっている。
待て待て、俺は魔王、サルタシファン様だぞ。取り乱してはならない。常に冷静に……
「麻央ちゃん、座って。冷製スープも飲んだら? 大好きでしょ」
『冷静スープ』だと? この人間の女、俺の心が読めるのか。よかろう、お前の能力に免じておとなしく従ってやろうではないか。
この黄色いスープ、これが『冷静スープ』とやらか。見た目は魔界の低階層に生息している猛毒寄生ガニのミソスープのようだが……
「こ、これは!!」
このひんやり感。少し塩気の効いたまろやかな甘み。そして心地よい舌触り。これほどまで美味なもの、魔界には存在しない。
「美味い……」
「でしょう。さあ、ハンバーグもいっぱい焼いたから、お腹いっぱい食べてね」
「ほれ、もっと大根おろしをハンバーグにかけなさい。大根も栄養があるんだぞ」
男根おろし。人間はそんなものまで食べているのか。魔界でも珍味として扱われる人間の男根。この種族は美食を追求してカニバリズムの境地に至っているのか。
うむ。これまた辛味が増してハンバーグというものがさらに美味くなるではないか。こんな使い方があったとは、恐れ入る。
人間界に来てみなければ知り得なかった事実のオンパレード。驚きと感動の連続。そして満ちあふれてくるこの幸福感。
頰をなにか温かいものが伝っていた。
「麻央ちゃん、涙を流すほど美味しかったの?」
「お姉ちゃん、おおげさなんだからー」
「はははは、まぁいいじゃないか。ママの愛情が心を打ったんだろう」
人間たちの笑い声がなぜか心にしみる。喜んでいる顔を見るとこちらも気持ちよくなる。なんだこの感覚は……
なにかとても大きくてすばらしいものが俺の心をすっぽりと包みこんでいるように感じた。
──はっ! 俺はなにをやってるのだ?
無意識のうちに俺が最も嫌っていた『幸福』というくだらないものに毒されていたではないか。
もしかしたら……もしかすると……俺は……本当に人間の小娘になってしまったのではないだろうか──
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる