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第一章 マグメル編 マグメルのダンジョン経営
アナザーヘヴン
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「あぁ……なんて可憐で美しいの」
薔薇の花弁に優しく触れながらうっとりとした表情を浮かべるアプロディーテ。マグメルはアプロディーテのその官能的な声にどぎまぎする。
「め、女神様? 気づいたのですが、それぞれが個性のある花を咲かしていますね」
「そう、そうなの。マグメルちゃんにもその違いがわかる? この子たちが持つそれぞれの生命エネルギーや固有の資質によって咲かせる花や茎などの質が変わってくるのよ」
「なるほど。この三人が一際目立っているのは、そういった個性が影響しているのですか?」
「ええ、特にこの子の花。凛と気高く、他を寄せ付けない美しさ。この女エルフ、相当のレアモノよ。恐らくこの子がこのエルフのチームのリーダーね」
マグメルとアプロディーテの目の前にあったのは、植樹のように立ち並ぶエルフたちだった。彼らは全身を薔薇の蔓や茎に絡みとられ、立ったままの姿で眠っていた。その蔓や茎からは青、白、赤の薔薇の花があふれんばかりに咲き誇り、殺風景な草原を美しく装飾していた。
「このレアモノのエルフ、とても幸せそうな顔をして眠っているわね」
「隣の目の下にホクロのあるエルフ、綺麗な顔だなぁ。咲かしている花も綺麗で、とても穏やかな雰囲気がする」
「こっちのしゃくれた顔のエルフ、形は不細工だけど力強い花を咲かせているわ」
マグメルたちは観察するように一人一人のエルフの顔を覗き込んでいった。
「女神様、これが試してみたいと言っていたことですか?」
「ええ。赤の薔薇、白の薔薇、青の薔薇の特性をそれぞれ活かした魔法──〈天国の薔薇〉を使ってみたかったの。多くの魔素を消費してしまうけど、この局面でいろいろ役に立つと思うわ」
「〈天国の薔薇〉、何だか凄そうな魔法ですね。ところで青の薔薇の特性って何ですか? 赤と白は何となくイメージができるのですが……」
アプロディーテの足元に青の薔薇が大量に咲き乱れた。
「幻覚と催眠よ。青の薔薇の香りを吸った者に強烈な幻覚を見せるの。このエルフたちは深層心理にある最も都合の良い幻覚を見ているはず。私の意識の影響も幻覚に現れているかもしれないけど……」
アプロディーテは最も美しい花を咲かせている女エルフの頰をさすりながら言った。
「そしてこの子たちが幻覚から醒めることは決してないわ。白い薔薇の眠りの効果が持続する限り」
「白と青の薔薇のコラボということですね」
「赤の薔薇もよ。実は赤い薔薇こそが最も恐ろしい効果を持っているの。この前マグメルちゃんに説明した〈赤薔薇の監獄〉の魔法とはワケが違うのよ」
アプロディーテの足元の薔薇が赤色に変色していく。
「赤の薔薇は捕らえた者の血管の中に根を這わせ、そこから生命の魔素を吸い取り続けるの。捕まった者が生きている限り、永遠に魔素を吸収し続ける」
「生命の魔素を吸い取り続ける……いずれエルフたちは死んでしまうということですか?」
「放っておけばね。でもそこで青の薔薇の登場よ。青の薔薇は、この子たちに生きているという幻覚──偽りの幸せを見せ続けるの。それが幸せであればあるほど、大量の魔素を生んでくれる。つまり、彼らは生命の魔素を永遠に生み続けるということ。肉体としては白い薔薇の効果で安らかに眠っていて……ちょっと複雑だったかしら」
「とにかく凄い魔法ということですね、聞いているこちらが怖くなってきました。僕も幻覚や夢を見ているだけだったりして……」
「あら、案外そうかもしれないわよ」
マグメルの顔がひきつる。アプロディーテはクスクスと笑いながら、女エルフが手に持っていた半透明の細い刃の剣を抜き取った。
「この女エルフの剣、マジックアイテムでしょ」
マグメルはアプロディーテからその剣を受け取り、クリスタルを出して調べた。
【フェアリーウィングソード】
薄く透き通った妖精の羽のような刃を持つ剣。その柔らかく、しなるような刃は変幻自在の生き物のようである。剣は鳥の羽よりも軽く、持つ者にまったく重さを感じさせない分、扱いが非常に難しいと言われる。上達すれば、その剣を振る速度は音速を超えるようになる。魔素をこめることで、刃弾を生み出すことができる。
「僕には難しそうだなぁ。部屋に飾っておきます。綺麗なので」
「それがいいわ。マグメルちゃんの部屋、飾りっ気ないもの」
アプロディーテはそう言うと、今度は目の下にホクロのある女エルフを物色する。
「この紫色の鞭もマジックアイテムね」
アプロディーテは女エルフの腰の横に巻いてぶら下げてあった鞭を取り、マグメルに渡した。
「女神様、マジックアイテムだとよくわかりますね」
「マジックアイテムには魔素が大量につまっているから、すぐわかるわ。魔素が視えるのよ。マグメルちゃんには難しいかもしれないけど、魔素のコントロールに長けた者なら簡単な芸当よ」
「もしかして森にある強力なダンジョンも、そうやって感知したということですか」
「ご明察!」
【ネペンテハマタのかぎ爪】
えげつないかぎ爪を有する食虫植物の遺伝子が組み込まれた鞭。ボディには無数のかぎ爪が仕込まれており、捕らえた対象に食い込んで魔素を吸い上げることができる。持つ者がグリップから魔素を流し込むことで自由自在に操ることができる。
「これ、魔素のコントロールが得意な女神様にピッタリの武器じゃないですか?」
「うーん、ちょっとグロテスクなのが気になるけど……」
アプロディーテはマグメルから【ネペンテハマタのかぎ爪】を受け取ると、空気を裂くような音をたてて振り回した。叩かれた地面がパックリと裂けるのを見たマグメルはゴクリと唾を飲むのであった。
「地面が凄く痛そうですね……」
「そう? まぁいいわ、しばらく使ってみる」
アプロディーテは【ネペンテハマタのかぎ爪】で、顎のしゃくれた男エルフが持っていた蠍の形を模った小さな刺剣を器用に取り上げた。マグメルは即座に鞭を使いこなしてしまうアプロディーテに舌を巻く。
「マグメルちゃん、これもマジックアイテムよ。その尖っているところに触れないよう気をつけて」
「あ、はい」
マグメルは恐る恐るその刺剣を調べる。
【スコーピオン】
蠍の尻尾を模した切っ先の部分に呪われた毒が仕込まれている。それはどんなに巨躯の命でも瞬時に奪ってしまうほどの猛毒である。グリップエンドにある蠍の頭に持ち主の血を覚えさせることで、その持ち主に対してのみ毒を無効化する。
「これなら小さくて僕にも使えそうだ。毒も便利だし」
「マグメルちゃん、それでこの男エルフを軽く刺してみて」
「持ち主に対して毒が無効か確認するのですね」
マグメルは男エルフの腕を軽く【スコーピオン】で刺す。
「何ともないですね」
「こっちの別のエルフを刺してみて。この子は死んでもいいわ、あまり綺麗な花を咲かしていないから」
マグメルはアプロディーテの指定したエルフを無造作に刺す。すると、瞬時にしてエルフの全身が真っ黒になった。絡みついていた薔薇も枯れて萎れていく。
「……即死ですね。僕を持ち主と認識させて、間違って自分を刺しても大丈夫なようにしておきます」
そう言うと、マグメルは【スコーピオン】のグリップエンドにある蠍の頭の尖った部分に指を押し付けて、血を吸わせた。蠍の目が血の色に光り、【スコーピオン】が小刻みに振動した。
「これでよしっと。あとは……」
マグメルは【圧搾の指輪】で即死したエルフから魔素を搾り取る。エルフは真っ黒な灰となり霧散していった。
「205魔素か」
「偉い、偉い。無駄をなくさないとね。さてっと、マグメルちゃん。ここからが大切な話──」
アプロディーテはパンと手を叩く。
「このエルフたちは〈天国の薔薇〉によって半永久的に魔素を私たちに供給してくれるわ。特にこのマジックアイテムを持っていた三体がね」
「おお、それは助かります! 洞窟の運営きつかったので」
「これで、一日だいたい300から400魔素は生み出せると思う。で、もう一つ。青い薔薇の真価とも言える催眠の効果!」
「女神様、幻覚と催眠と言っていましたね」
「そう。このエルフたちを催眠で自由に操ることができるわ。戦闘をさせることだってできる。この洞窟の中だけだけど」
「いいですね! この無限草原を守ってもらいましょう」
「ええ、そのつもりよ。でも五体はクユンシーラ解放の生贄に使うわ」
「ああ、そうでした」
「その前に、この子たちから森のダンジョンの情報について聞き出しておきましょう。何でも正直に話してくれるわよ」
「催眠って何でもできるのですね……恐ろしい」
「あ、そうそう。マグメルちゃん、この子たちに時々話しかけてあげてね、植物は話しかけるとよく育つというでしょ」
嬉しそうに話すアプロディーテにマグメルは改めて畏怖の念を抱くのであった。
▫️
マグメルが今回入手した戦利品リスト
レアエルフ1体
エルフ13体
【フェアリーウィングソード】
【ネペンテハマタのかぎ爪】
【スコーピオン】
【コンポジットボウ】15挺
【ボーンナイフ】15本
他、薬草など多数
薔薇の花弁に優しく触れながらうっとりとした表情を浮かべるアプロディーテ。マグメルはアプロディーテのその官能的な声にどぎまぎする。
「め、女神様? 気づいたのですが、それぞれが個性のある花を咲かしていますね」
「そう、そうなの。マグメルちゃんにもその違いがわかる? この子たちが持つそれぞれの生命エネルギーや固有の資質によって咲かせる花や茎などの質が変わってくるのよ」
「なるほど。この三人が一際目立っているのは、そういった個性が影響しているのですか?」
「ええ、特にこの子の花。凛と気高く、他を寄せ付けない美しさ。この女エルフ、相当のレアモノよ。恐らくこの子がこのエルフのチームのリーダーね」
マグメルとアプロディーテの目の前にあったのは、植樹のように立ち並ぶエルフたちだった。彼らは全身を薔薇の蔓や茎に絡みとられ、立ったままの姿で眠っていた。その蔓や茎からは青、白、赤の薔薇の花があふれんばかりに咲き誇り、殺風景な草原を美しく装飾していた。
「このレアモノのエルフ、とても幸せそうな顔をして眠っているわね」
「隣の目の下にホクロのあるエルフ、綺麗な顔だなぁ。咲かしている花も綺麗で、とても穏やかな雰囲気がする」
「こっちのしゃくれた顔のエルフ、形は不細工だけど力強い花を咲かせているわ」
マグメルたちは観察するように一人一人のエルフの顔を覗き込んでいった。
「女神様、これが試してみたいと言っていたことですか?」
「ええ。赤の薔薇、白の薔薇、青の薔薇の特性をそれぞれ活かした魔法──〈天国の薔薇〉を使ってみたかったの。多くの魔素を消費してしまうけど、この局面でいろいろ役に立つと思うわ」
「〈天国の薔薇〉、何だか凄そうな魔法ですね。ところで青の薔薇の特性って何ですか? 赤と白は何となくイメージができるのですが……」
アプロディーテの足元に青の薔薇が大量に咲き乱れた。
「幻覚と催眠よ。青の薔薇の香りを吸った者に強烈な幻覚を見せるの。このエルフたちは深層心理にある最も都合の良い幻覚を見ているはず。私の意識の影響も幻覚に現れているかもしれないけど……」
アプロディーテは最も美しい花を咲かせている女エルフの頰をさすりながら言った。
「そしてこの子たちが幻覚から醒めることは決してないわ。白い薔薇の眠りの効果が持続する限り」
「白と青の薔薇のコラボということですね」
「赤の薔薇もよ。実は赤い薔薇こそが最も恐ろしい効果を持っているの。この前マグメルちゃんに説明した〈赤薔薇の監獄〉の魔法とはワケが違うのよ」
アプロディーテの足元の薔薇が赤色に変色していく。
「赤の薔薇は捕らえた者の血管の中に根を這わせ、そこから生命の魔素を吸い取り続けるの。捕まった者が生きている限り、永遠に魔素を吸収し続ける」
「生命の魔素を吸い取り続ける……いずれエルフたちは死んでしまうということですか?」
「放っておけばね。でもそこで青の薔薇の登場よ。青の薔薇は、この子たちに生きているという幻覚──偽りの幸せを見せ続けるの。それが幸せであればあるほど、大量の魔素を生んでくれる。つまり、彼らは生命の魔素を永遠に生み続けるということ。肉体としては白い薔薇の効果で安らかに眠っていて……ちょっと複雑だったかしら」
「とにかく凄い魔法ということですね、聞いているこちらが怖くなってきました。僕も幻覚や夢を見ているだけだったりして……」
「あら、案外そうかもしれないわよ」
マグメルの顔がひきつる。アプロディーテはクスクスと笑いながら、女エルフが手に持っていた半透明の細い刃の剣を抜き取った。
「この女エルフの剣、マジックアイテムでしょ」
マグメルはアプロディーテからその剣を受け取り、クリスタルを出して調べた。
【フェアリーウィングソード】
薄く透き通った妖精の羽のような刃を持つ剣。その柔らかく、しなるような刃は変幻自在の生き物のようである。剣は鳥の羽よりも軽く、持つ者にまったく重さを感じさせない分、扱いが非常に難しいと言われる。上達すれば、その剣を振る速度は音速を超えるようになる。魔素をこめることで、刃弾を生み出すことができる。
「僕には難しそうだなぁ。部屋に飾っておきます。綺麗なので」
「それがいいわ。マグメルちゃんの部屋、飾りっ気ないもの」
アプロディーテはそう言うと、今度は目の下にホクロのある女エルフを物色する。
「この紫色の鞭もマジックアイテムね」
アプロディーテは女エルフの腰の横に巻いてぶら下げてあった鞭を取り、マグメルに渡した。
「女神様、マジックアイテムだとよくわかりますね」
「マジックアイテムには魔素が大量につまっているから、すぐわかるわ。魔素が視えるのよ。マグメルちゃんには難しいかもしれないけど、魔素のコントロールに長けた者なら簡単な芸当よ」
「もしかして森にある強力なダンジョンも、そうやって感知したということですか」
「ご明察!」
【ネペンテハマタのかぎ爪】
えげつないかぎ爪を有する食虫植物の遺伝子が組み込まれた鞭。ボディには無数のかぎ爪が仕込まれており、捕らえた対象に食い込んで魔素を吸い上げることができる。持つ者がグリップから魔素を流し込むことで自由自在に操ることができる。
「これ、魔素のコントロールが得意な女神様にピッタリの武器じゃないですか?」
「うーん、ちょっとグロテスクなのが気になるけど……」
アプロディーテはマグメルから【ネペンテハマタのかぎ爪】を受け取ると、空気を裂くような音をたてて振り回した。叩かれた地面がパックリと裂けるのを見たマグメルはゴクリと唾を飲むのであった。
「地面が凄く痛そうですね……」
「そう? まぁいいわ、しばらく使ってみる」
アプロディーテは【ネペンテハマタのかぎ爪】で、顎のしゃくれた男エルフが持っていた蠍の形を模った小さな刺剣を器用に取り上げた。マグメルは即座に鞭を使いこなしてしまうアプロディーテに舌を巻く。
「マグメルちゃん、これもマジックアイテムよ。その尖っているところに触れないよう気をつけて」
「あ、はい」
マグメルは恐る恐るその刺剣を調べる。
【スコーピオン】
蠍の尻尾を模した切っ先の部分に呪われた毒が仕込まれている。それはどんなに巨躯の命でも瞬時に奪ってしまうほどの猛毒である。グリップエンドにある蠍の頭に持ち主の血を覚えさせることで、その持ち主に対してのみ毒を無効化する。
「これなら小さくて僕にも使えそうだ。毒も便利だし」
「マグメルちゃん、それでこの男エルフを軽く刺してみて」
「持ち主に対して毒が無効か確認するのですね」
マグメルは男エルフの腕を軽く【スコーピオン】で刺す。
「何ともないですね」
「こっちの別のエルフを刺してみて。この子は死んでもいいわ、あまり綺麗な花を咲かしていないから」
マグメルはアプロディーテの指定したエルフを無造作に刺す。すると、瞬時にしてエルフの全身が真っ黒になった。絡みついていた薔薇も枯れて萎れていく。
「……即死ですね。僕を持ち主と認識させて、間違って自分を刺しても大丈夫なようにしておきます」
そう言うと、マグメルは【スコーピオン】のグリップエンドにある蠍の頭の尖った部分に指を押し付けて、血を吸わせた。蠍の目が血の色に光り、【スコーピオン】が小刻みに振動した。
「これでよしっと。あとは……」
マグメルは【圧搾の指輪】で即死したエルフから魔素を搾り取る。エルフは真っ黒な灰となり霧散していった。
「205魔素か」
「偉い、偉い。無駄をなくさないとね。さてっと、マグメルちゃん。ここからが大切な話──」
アプロディーテはパンと手を叩く。
「このエルフたちは〈天国の薔薇〉によって半永久的に魔素を私たちに供給してくれるわ。特にこのマジックアイテムを持っていた三体がね」
「おお、それは助かります! 洞窟の運営きつかったので」
「これで、一日だいたい300から400魔素は生み出せると思う。で、もう一つ。青い薔薇の真価とも言える催眠の効果!」
「女神様、幻覚と催眠と言っていましたね」
「そう。このエルフたちを催眠で自由に操ることができるわ。戦闘をさせることだってできる。この洞窟の中だけだけど」
「いいですね! この無限草原を守ってもらいましょう」
「ええ、そのつもりよ。でも五体はクユンシーラ解放の生贄に使うわ」
「ああ、そうでした」
「その前に、この子たちから森のダンジョンの情報について聞き出しておきましょう。何でも正直に話してくれるわよ」
「催眠って何でもできるのですね……恐ろしい」
「あ、そうそう。マグメルちゃん、この子たちに時々話しかけてあげてね、植物は話しかけるとよく育つというでしょ」
嬉しそうに話すアプロディーテにマグメルは改めて畏怖の念を抱くのであった。
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