色欲も時代には勝てないらしい

もにゃじろう

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智紀との回想

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「ねぇ智紀。映画見にいこうよ」

 僕が智紀をそう誘ったのは、日曜日の昼下がりのことだった。

 その日の僕たちは休みだというのに何の予定もなく、暇を持て余し家でゴロゴロしていた。たまには何もせずゆっくりするのも悪くないだろう、と初めは思っていたんだけど、流石に一日中ってのも勿体ない気がして。何かする事ないかなぁと思っていた時、前に智紀が「この映画見たいな」とテレビを見て呟いていたことを思い出したのだ。

「あ?映画?」

 地べたに座りながらソファに背中を凭れさせるようにしていた智紀が、僕の方に振り返る。
 
「うん。この間智紀見たいって言ってたじゃん」

 僕の言葉に、智紀は一瞬考える素振りをみせたが、すぐに思い浮かんだようで「あぁ」と声を漏らす。

「無名の小説家が低予算で作ったっていうあれか」
「そう、それ。家でゴロゴロしてるよりは良くない?」

 近未来SFミステリーコメディだというそのB級映画は、無名の小説家が自らの作品を実費で映画にした、というかなり異例の作品だった。そのため演じている俳優も全くの無名で、制作費も激安。当初は2つの映画館でしか公開されていなかったらしい。だけど映画を見た人から面白いとの声が次々と上がり、SNSで大バズり。異例の大ヒットをしているそうだ。あらすじをチラッと見ただけでは分からなかったけれど、きっと面白いのだろう。

「ねぇ、どうする?」

 追い打ちをかけるようにそう聞く僕に、智紀は「あー」と少し唸ってから、「行く」と答える。だけどその割には全然起き上がる気配が無い。スライムのようにソファと一体化したままだ。
 
「……ねぇ、本当に行く気ある?」
「あるよ。祐が起こしてくれれば」
「え、またぁ?智紀重いからやだよ」
「お願い」

 僕の方に手を伸ばしながらそう言われてしまえば、僕はその手を取る他ない。仕方がないから智紀の腕に自分の腕を絡めて、立たせるようにグイグイと引っ張る。

「もう、早く起きてよ」
「んー」
「全然力入ってないじゃん」
「…………」
「も、智紀しっかりしてって………うあああっ!」

 僕の叫び声と共に、二人の男がソファへどすっと倒れ込む。どうやら智紀の重さに耐えられずバランスを崩してしまったらしい。智紀が僕に覆い被さるように倒れてくるもんだから、肺が潰れて息ができない。

「ぐ……重い……どいてよ」
「…………」
「も、まじ、無理だから」
「…………」
「……ぅじぬ」

 苦しい。そろそろ本気でやばい。そう思って智紀の腕をトントン叩くのに、彼は全然離れてくれない。それどころか少しニヤッとしながら息を吹き込むようにキスをしてくる。

「んんっ!」
「…………」
「ん、っんんー!」
「……っ……」

 苦しいんだか楽なんだか分からない。だけどバタバタと足が勝手に跳ねていることを考えると苦しいのかもしれない。そんなことを思いながら、僕は智紀を押し退ける。
 
「……っぷは!もう!毎回何なの!?」
「何が?」
「この茶番だよ。何で普通に起きてくれないの」
 
 僕の抗議に智紀はククッと少し笑うと、「苦しむ祐が可愛くてつい」と意味不明な回答をしてくる。そして何事もなかったかのように「とりあえず上映時間調べるわ」と、スタスタ歩き、充電器に刺さったままだったスマホをぶちっと引き抜くのだ。本当に何がしたいのかよくわからない。

 この茶番は出掛ける前のルーティンみたいなもので、外出前には大体行われる。普通に起きられるくせにわざとああやっているのだ。智紀は倒れてるだけだから良いかもしれないけど僕は本気で苦しいからやめて欲しい。

 そして不思議なことに、この行動は前世の智紀もよくやっていた。姿形は全く違うのに、前世を覚えていないはずなのに、なぜか同じ行動をするのだ。

 最初は偶然かと思っていた。けれど一緒に暮らすうちにそうじゃないと気付いた。好きな食べ物や嫌いな食べ物、歌が異常に下手なところ、嬉しい時や照れてる時に手を口に当てる癖など。そりゃ時代や国籍が違うから全く同じと言うわけではないけれど、似たようなところがいっぱい出てくるのだ。

 寝癖が酷いのもそのひとつ。もう15時も過ぎたと言うのに、頭を動かすたびに寝癖がぴょこぴょこ跳ねている。
 
「智紀、寝癖ついてるよ」
「あぁ?」
「後ろのところ。某探偵さんみたい」

 僕の言葉に、智紀は「またかよ」と言いながらスマホ片手に洗面台がある脱衣所へと歩いて行く。その後ろ姿に不思議さと親しみを感じてしまうことが可笑しくて、僕は思わずクスッと笑う。

「あ?何笑ってんだ」
「あれ、聞こえてた?」
「聞こえまくってるっつうの」

 ムスッとした智紀の声が、脱衣所の中から聞こえてくる。
 
「別に何でもないよ。ただ生命の神秘だなって思っただけで」
「はぁ?意味わかんねぇ」
「智紀は昔から変わんないなってことだよ」
 
 僕の言葉に、智紀はやっぱり意味不明って顔をしている。まぁそりゃそうか。智紀は前世のことなんてなんにも覚えていないのだから。だけどその何も知りませんって顔が、僕はかわいく見えて仕方がない。

「ねぇ智紀。映画、面白いと良いね」
「は?何だよ急に」
「だって面白いに越したことないでしょ?」
「そりゃまぁそうだけど」
「この映画続編決まってるらしいんだよね」
「…………」
「面白かったら続編も一緒に見に行こうね」
「…………」
「ねぇ智紀」
「……何だよ」
「大好き」

 そう言う僕に、智紀は照れ隠しなのか口に手を当てる。

 その姿を見て僕は思うのだ。

 やっぱり智紀は僕の運命だ、と。
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