【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ

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中編

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「それで、成功報酬はわたくしの身柄、でしたわね」

 覚悟を決めて、相対した二人へ問い掛ける。

 元婚約者様こと、先程の浮気自爆男がわたくしへ冤罪を掛けて断罪し、恋人との新しい婚約をするだの寝言を宣っているのを偶然聞いたのは、つい数十分前のこと。

 あんな馬鹿げた茶番の断罪劇で・・・「婚約破棄ができる、これから新しく婚約を結び直せば堂々と二人過ごせる」、という風なことを中庭で、イチャイチャしながら語っているのを見てしまった。

 午後の全体集会をブッチして早退しようと思ったけど、それも大した時間稼ぎにはならない。

 しかも、公衆の面前で婚約破棄を宣われたところで、貴族の婚約は基本的に政略だ。

 うちの親なら・・・ああやって公の場でわたくしが罵倒されたとしても、家に利益があるのならば、あの元婚約者の浮気自爆男へと平気な顔で嫁がせるくらいはする。あの男の家は公爵家で、伯爵家のうちより格上。

 あの男が愚か者で、わたくしが有能だからと結ばれた、あの男のお守りをさせる為の婚約。

 そして、あのクソ男に『俺のことが好きだからと、両親に媚を売ってまで結婚させた女』などと屈辱的な勘違いをされたまま、虐げられる生活が待っている・・・

 まぁ、普通に考えて地獄の結婚生活と言えるだろう。

 修道院へ逃げるか、どうするか? と、真剣に悩んでいるときだった。

「そこの、思い詰めた顔で悩んでいるお嬢様。悩みがあるのなら、お聞しきますよ? ちなみに、我が帝国には神殿がありまして。よく、行き場の無い女性が他国から避難・・して来ることもあるのです。更に言うと、我が国の皇帝陛下は女性や子供の保護に非常に寛容ですよ」

 と、声を掛けられた。

 直接的な言葉ではないけど、あからさまな、亡命のお誘いと言える。

 それで思わず、ついさっき聞いた元婚約者の計画を話してしまった。

 すると、あれよあれよという間に、「それならこういうのはどうです?」となって、あの野次作戦と相なったというワケだ。

 わたくしから彼らへ保護を求めた、というていでの亡命。

 わたくしの無罪を周知させる。その成功報酬として、わたくしの身柄。

「はい。ですが、事前にご説明したように、決して無体なことは致しません」
「我らが皇帝陛下と皇妹殿下、そして皇兄殿下でもある宰相閣下は女性の不当な扱いや人権問題などには大変厳しいもので。気軽に、留学するというくらいの心持ちで我が帝国へいらしてください」
「無論、あなたの意志決定が最優先されるとのことなので。もし、残念ながら我が帝国へお越し頂けないのであれば、恒久的な友情をお願いしたく存じます」

 恒久的な友情、ね。

 そして、行くもやめるも・・・

「わたくしが決めてもいいだなんて・・・そんなこと、初めて言われましたわ」

 女は家長へ従い、家へ利益をもたらさなくてはならない。そうでなければ家を、爵位を継ぐことのできない女にはなんの価値も無い。それがこの国に根付く常識ですもの。

 恋愛は、結婚後に跡取りとなる子供とそのスペアを産んでから。不倫や三角どころか、多角関係などはざら。そういう不道徳も当たり前。けれど近年は、それらの不貞行為が刃傷沙汰や暴力事件、育児放棄、子供に対する虐待を呼んでいるのでは? と、問題になって来ている。

 そう言った反発からか、娯楽の一環として婚約破棄や悪役令嬢が出て来て、愛の無い婚約や結婚は悪だと説いている書物もあるけど。あくまでそれは、物語の中だけのこと。

 爵位の無い富裕層ならいざ知らず、実際に貴族として事を起こすのは愚か者のすること。

 皆、周囲の声に踊る道化を煽り、馬鹿な言動を取る……取らせるのを愉しく観劇していただけ。

 そんな馬鹿に、衆人環視の中で婚約破棄という滑稽な見世物にされたとしても――――互いの家の当主が頷かなければ、『学生時代に少々羽目を外しただけだ』と、何事も無かったように婚姻を結ばされることは目に見えている。

 わたくしとあの馬鹿の関係が破綻していようとも、婚姻さえ結べば両家へ利益があるのだから、と。

 そんな結婚生活、普通に針のむしろに決まっている。絶対楽しくない。

 あの馬鹿がことを起こすと、楽しげに語っているとき。

 わたくしは瞬時に思った。逃げよう、と。

 修道院か外国か、今すぐ学園を早退して行動しようと思っていたところに、

「手をお貸ししましょうか?」

 そう声を掛けて来たのがこの二人だった。

 だから、わたくしは――――

 渡りに船だと、この二人手を取ることにした。

 だって、取らなければ確実に訪れるであろう、地獄の結婚生活なんてごめんだったから。

 それなら、一人で帝国へ渡ることの方がマシ。

 人買いや、騙されているのでは? と、思わないでもなかったけど・・・

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