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身が竦んで、動けない。
しおりを挟むそれが段々エスカレートして行き――――
「ウルサいっ!?」
怒鳴るようになり、やがて手が出るようになるまで、大して時間は掛からなかった。
わたしが口答えしたと言って殴り、わたしの態度が気に食わないと言って殴り、夫として妻を躾けているのだと、わたしを殴った。
彼の言ったことに気を付け、彼の機嫌を損ねないよう慎重に、わたしは縮こまって生活するようになった。
けれど、どんなにどんなに気を付けていても、気を配っていても、自分のことよりも彼のことを優先させていても、わたしのどこそこが気に食わないと、家事を手抜きしていると、彼はわたしを殴った。
どうして殴るの?
わたしの、なにがいけなかったの?
彼は優しかったのに・・・
その彼が、こんな風になってしまう程、彼が変わってしまう程に、わたしが悪いことをしたの?
そう思って耐え、自分を強く責めたこともあった。
けど、わたしは気付いた。
気付いて、しまった・・・
彼が、実に愉しそうな貌で、わたしを殴っているということに。
ああ、そうか。そうだったのか。
彼は、わたしのことが気に食わなくて殴るんじゃない。いや、最初はそういう気持ちもあったかもしれない。けど、でも、もうそんなことなど、どうでもいいのだ。
彼は、わたしを殴ること自体を愉しんでいる。
彼は、わたしを殴るために、そのために、難癖を付けているのだ。
それに気付いたわたしは、彼に離婚を求めた。
「離婚だとっ!! ふざけんなよっ!! お前は俺のものだろうがっ!! 俺は絶対離婚しないからなっ!!」
そう言って激昂した彼に殴られ、蹴られ、離婚を撤回するまでズタボロにされた。
「謝れよ! 謝れ! 『離婚なんて切り出してごめんなさい、二度と逆らいません』って、俺に謝れよっ!!!!」
真っ赤になった鬼のような形相で。狂気すら感じる貌で……
「ふざんなっ、ふざんなっ、ふざんなっ!? お前みたいに、いなくなっても誰にも構われないような底辺ゴミ女と、この俺が結婚して、わざわざ養ってやってるんだぞっ!! ありがたく思えっ!! 感謝しろっ!?」
何度も何度も何度も、『俺に謝れ』と『俺に感謝しろ』と…………
本当に、殴り殺されるかと思った。
そして、殴られて気絶している間に、わたしはケータイと通帳を取り上げられていた。
常に身体のどこかが痛い。
つらい。苦しい。逃げ出したい。
でも、お金が無い。
どこも行けない。
わたしには、親しい人がいない。
思い切って、身一つで飛び出してみる?
けれど、彼のことが怖い。怖くて、痛くて、身が竦んで、動けない。
以前にも増して彼に怯え、機嫌を取って……けれど、それでも殴られることに変わりはなくて――――
そんなときに、妊娠が判った。
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