4 / 4
悪かったわね。お前達の両親があまりにも無能だったから、排除させてもらったわ。
しおりを挟む「ねえ、お姉様。あたしもこれからお着替えするの? それならあたし、お姉様よりもっと可愛いドレスが着たいわ」
そんなことを言って笑う妹に、溜め息を吐きたくなったが堪える。
軽食とお菓子を出されたが、食べる気にはなれない。妹は美味しいと食べて、
「お姉様、食べないならあたしにちょうだい」
なんて言って、わたしの皿からお菓子を取って侍女さん達にアルカイックスマイルで見られている。そんな、滅茶苦茶居た堪れない時間を過ごし――――
「失礼するわ」
と、部屋に入って来たのはお茶会を途中で抜けて来た王太子殿下。
「悪かったわね。お前達の両親があまりにも無能だったから、排除させてもらったわ。わたくしが王太子になったからには、うちの家門一同で支えてもらわなくてはいけなくて。無能が当主に居座られると困るの」
にこりと、微笑みながら募る言葉に・・・納得、してしまった。
社交から遠ざけられている我が家が、なぜ王太子殿下主催のお茶会があることを知っていたのか。なぜ、すんなりと参加することができたのか。なぜ、親族が止めなかったのか。
全てが腑に落ちた。両親か妹が、なにかしらをやらかしてその責任として父が当主から排除されるのが織り込み済みだったというワケ。おそらくは、見せしめの意もあったのだろう。
「うふふっ、わたくし。賢い子は好きよ? お前、機会をあげるからもっと自分を磨きなさい。その上で、わたくしに忠誠を誓うなら、傍に置いてやってもいいわ。どこぞの豚の調教には失敗したけど、お前は賢い忠犬になりそうね。期待しているわ」
クスクスと、妖艶に笑う顔に……図らずも見惚れてしまいました。
「けど、その前に」
ピシっと、わたしの皿からお菓子を取ろうとする妹の手が扇子で叩かれた。
「痛っ! なにするのよ!」
「まずは、この子猿に人間としてのマナーを叩き込むことから先ね。お前、この娘の性格が少々変わるかもしれないけど、いいかしら?」
「どうぞ。わたくしの手には負えないと常々思っておりましたから」
「そう。ああ、それともう一つ。この娘が、愛玩動物のまま一切成長が見られず、ずっと愚かなままなら……ペットを愛でるのが好きな者に下げ渡そうと思うのだけど。いいかしら? 愛玩動物に、無体を働くことが無い者を選ぶつもりよ」
「王太子殿下のご随意に」
と、わたしは頭を下げた。
ある意味、自分の将来と妹の将来を売り渡すような真似だ。
でも、あのまま、妹だけを溺愛し……王太子殿下曰くの、愛玩するだけの両親に育てられ、搾取され続けるような、未来になんの希望も持てない人生よりは、大分いいと思う。
だって、王太子殿下はわたしを見て……わたしが、王太子殿下の言ったことを理解していると判った上で、期待をしていると仰ってくれた。わたしに、自分を磨きなさいと言ってくれた。
妹だって、あのまま両親に、両親の気が向くままに野放図に愛玩され続けていれば、貴族令嬢どころか人間としてマズい感じに育っていたであろうことは、想像に難くない。
そんな、愚かで恥知らずで、愛玩動物扱いをされている妹を人間として躾けてくれるとの申し出だ。更には将来的に、手が施しようが無い、愛玩動物のままの知性で成長しても、ペットとして可愛がってくれる飼い主の手配までしてくれるという。
なんて素晴らしい提案なのだろうか?
「未来の女王陛下へ、忠誠を」
と、わたしは王太子殿下の前に跪き、そのドレスの裾へ口付けを落とした。
「あらあら、気が早いこと。でも、いい子ね。励みなさい」
スッと顎に扇子を当てられて顔を上げさせられると、微笑みを浮かべる麗しい顔に柔らかい視線。白い手にそっと優しく頭を撫でられて――――
目を合わせて、いい子ねと優しく頭を撫でられるのはいつ以来だろうと思うのと同時に、なぜか涙が溢れて止まらなくなった。
「こら、強く擦っては駄目よ。仕方のない子ね」
王太子殿下の言う仕方のない子、は母の言う仕方のない子、どうしようもない子、という蔑みや冷たい響きではなくて……柔らかく温かい感じがした。
「こうして、優しく拭うの」
ぽんぽんと頬や目許に当てられる滑らかな絹のハンカチ。
「ぅえ……」
「お前は、泣くのが下手ね。そんな泣き方だと、後で顔が悲惨なことになるというのに……でも、やっと年相応の姿が見られたわね。お前はよく頑張っていたわ。今まで、あんな無能なクズ親を庇ってよく我慢したわね? まあ、ある意味お前の頑張りのせいで、あの無能具合が露呈するのが遅れたのだけど。今日は、気が済むまで泣きなさい」
優しく頭を撫でる手と、小さな呟きが落ちて――――
わたしはこの日、不覚にも久々に泣きながら寝落ちしてしまった。
翌日。見知らぬ部屋で、少し怠いなと目を覚まして……昨日の記憶をたどり、真っ先に思ったのは恥ずかしいっ!! という猛烈な羞恥心に襲われた。
「おはようございます、起きられたのでしたらまずは水分補給を」
わたしが起きた気配を察したのか、侍女さんが入って来て真っ先に果実水を押し付けられた。
「昨日はあの後、なにも飲まず食わずで寝てしまったので心配しておりました」
そう言われて、果実水を口に運ぶと一息で飲み干してしまった。喉が渇いていたみたいだ。
果実水のお代わりをちびちび飲んでいる(脱水気味のときに水分を一気飲みするのはあまりよくないので、二杯目はゆっくり飲んでくださいと言われた)と、部屋の外が少し騒がしい気がして……
「失礼するわよ! ああ、起きたようね。気分は悪くないかしら? 目は……少し腫れているけど、そう悲惨な顔にはなっていないから侍女達に感謝することね。体調が悪くないなら、後でお前の今後を話し合うわ。そのつもりでいなさい。妹は、手の付けられない動物のような子供を躾けるのが得意なシッターを手配したわ。お前があの妹と離れたくないと思っているなら、一緒に暮らせる部屋を手配するけど。どうするのかも、考えておきなさい。では、わたくし忙しいので失礼するわ。ごきげんよう」
バン! とドアを開いて部屋に入って来るなり、わたしの顔を覗き込み、サッと頭を一撫でしながら言いたいことを言うだけ言って、王太子殿下は颯爽と出て行かれました。
ああ、本当に王宮で……というより、王太子殿下に保護されたのだと遅れて実感した。
妹のことは、基本的に放置でいいだろう。別に、我が家の……わたし限定のギャングみたいなあの子の顔を見なくても寂しいともなんとも思わないし。気になったときに、躾の進捗具合を聞けばいい。
まずは……忙しいとの言葉通りに、忙しいはずなのにわざわざわたしのことを気に掛けてくれた未来の女王陛下に、どうしたら――――あの、お花畑の毒親共を排除してくれた上、わたしと妹にまで慈悲を掛けてくれた、この大きな恩を返せるかを考えることにしよう。
――おしまい――
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
読んでくださり、ありがとうございました。
なんか、搾取子と愛玩子のどちらが憐れなんだろうなぁ? と、ふと疑問に思ったら……
某女王様が頭の中で、「そんなの、愛玩子に決まっているでしょ! 人間扱いをされずに育つ、恥を恥とも思わない人間が一等憐れに決まってるわ! 奴隷扱いされている搾取子は主人(親)がいなくても生きていけるけど、愛玩動物は飼い主(親など)がいなくなれば生きていけないもの。別の飼い主が現れれば別だけど。それに、愛玩動物を愛玩できるのは、余裕があるときだけ。余裕を無くせば、ペット扱いの子なんて簡単に切り捨てられるのよ!」( ・`д・´)
と、力強く主張されたので。
書いてる奴的には、人間として憐れなのは愛玩子。けど、つらくて苦しくて痛ましい思いをするのは、搾取子の方かな? と。(´・д・`)
ちなみに、某女王様は『わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。』の色んな意味で女王様の方です。王太子になって数週間後の話。(*ノω・*)テヘ
こっちの主人公ちゃんが若干口悪いのは、親がアレで使用人達に構われて育ったからです。
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。
442
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…
〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。
そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。
母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。
アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。
だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。
甘やかされすぎた妹には興味ないそうです
もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。
こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした
綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。
伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。
ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。
ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。
……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。
妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。
他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
妹が処刑さる……あの、あれは全て妹にあげたんです。
MME
恋愛
妹が好きだ。妹が欲しい物はみんなあげる。それであの娘が喜ぶなら何だって。それが婚約者だって。どうして皆が怒っているんだろう。お願いです妹を処刑しないで下さい。あれはあげたんです。私が我慢すればいいのです。
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。