王太子殿下主催のお茶会で被虐待児とされて、憐れみと慈悲を掛けられました。

月白ヤトヒコ

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悪かったわね。お前達の両親があまりにも無能だったから、排除させてもらったわ。

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「ねえ、お姉様。あたしもこれからお着替えするの? それならあたし、お姉様よりもっと可愛いドレスが着たいわ」

 そんなことを言って笑う妹に、溜め息を吐きたくなったが堪える。

 軽食とお菓子を出されたが、食べる気にはなれない。妹は美味しいと食べて、

「お姉様、食べないならあたしにちょうだい」

 なんて言って、わたしの皿からお菓子を取って侍女さん達にアルカイックスマイルで見られている。そんな、滅茶苦茶居た堪れない時間を過ごし――――

「失礼するわ」

 と、部屋に入って来たのはお茶会を途中で抜けて来た王太子殿下。

「悪かったわね。お前達の両親があまりにも無能だったから、排除させてもらったわ。わたくしが王太子になったからには、うちの家門一同で支えてもらわなくてはいけなくて。無能が当主に居座られると困るの」

 にこりと、微笑みながら募る言葉に・・・納得、してしまった。

 社交から遠ざけられている我が家が、なぜ王太子殿下主催のお茶会があることを知っていたのか。なぜ、すんなりと参加することができたのか。なぜ、親族が止めなかったのか。

 全てが腑に落ちた。両親か妹が、なにかしらをやらかしてその責任として父が当主から排除されるのが織り込み済みだったというワケ。おそらくは、見せしめの意もあったのだろう。

「うふふっ、わたくし。賢い子は好きよ? お前、機会をあげるからもっと自分を磨きなさい。その上で、わたくしに忠誠を誓うなら、傍に置いてやってもいいわ。どこぞの豚の調教には失敗したけど、お前は賢い忠犬になりそうね。期待しているわ」

 クスクスと、妖艶に笑う顔に……図らずも見惚れてしまいました。

「けど、その前に」

 ピシっと、わたしの皿からお菓子を取ろうとする妹の手が扇子で叩かれた。

「痛っ! なにするのよ!」
「まずは、この子猿に人間としてのマナーを叩き込むことから先ね。お前、この娘の性格が少々変わるかもしれないけど、いいかしら?」
「どうぞ。わたくしの手には負えないと常々思っておりましたから」
「そう。ああ、それともう一つ。この娘が、愛玩動物のまま一切成長が見られず、ずっと愚かなままなら……ペット・・・を愛でるのが好きな者に下げ渡そうと思うのだけど。いいかしら? 愛玩動物に、無体を働くことが無い者を選ぶつもりよ」
「王太子殿下のご随意に」

 と、わたしは頭を下げた。

 ある意味、自分の将来と妹の将来を売り渡すような真似だ。

 でも、あのまま、妹だけを溺愛し……王太子殿下曰くの、愛玩するだけの両親に育てられ、搾取され続けるような、未来になんの希望も持てない人生よりは、大分いいと思う。

 だって、王太子殿下はわたしを見て……わたしが、王太子殿下の言ったことを理解していると判った上で、期待をしていると仰ってくれた。わたしに、自分を磨きなさいと言ってくれた。

 妹だって、あのまま両親に、両親の気が向くままに野放図に愛玩され続けていれば、貴族令嬢どころか人間としてマズい感じに育っていたであろうことは、想像に難くない。

 そんな、愚かで恥知らずで、愛玩動物扱いをされている妹を人間として躾けてくれるとの申し出だ。更には将来的に、手が施しようが無い、愛玩動物のままの知性で成長しても、ペットとして可愛がってくれる飼い主の手配までしてくれるという。

 なんて素晴らしい提案なのだろうか?

「未来の女王陛下へ、忠誠を」

 と、わたしは王太子殿下の前に跪き、そのドレスの裾へ口付けを落とした。

「あらあら、気が早いこと。でも、いい子ね。励みなさい」

 スッと顎に扇子を当てられて顔を上げさせられると、微笑みを浮かべる麗しい顔に柔らかい視線。白い手にそっと優しく頭を撫でられて――――

 目を合わせて、いい子ねと優しく頭を撫でられるのはいつ以来だろうと思うのと同時に、なぜか涙が溢れて止まらなくなった。

「こら、強く擦っては駄目よ。仕方のない子ね」

 王太子殿下の言う仕方のない子、は母の言う仕方のない子、どうしようもない子、という蔑みや冷たい響きではなくて……柔らかく温かい感じがした。

「こうして、優しく拭うの」

 ぽんぽんと頬や目許に当てられる滑らかな絹のハンカチ。

「ぅえ……」
「お前は、泣くのが下手ね。そんな泣き方だと、後で顔が悲惨なことになるというのに……でも、やっと年相応の姿が見られたわね。お前はよく頑張っていたわ。今まで、あんな無能なクズ親を庇ってよく我慢したわね? まあ、ある意味お前の頑張りのせいで、あの無能具合が露呈するのが遅れたのだけど。今日は、気が済むまで泣きなさい」

 優しく頭を撫でる手と、小さな呟きが落ちて――――

 わたしはこの日、不覚にも久々に泣きながら寝落ちしてしまった。

 翌日。見知らぬ部屋で、少し怠いなと目を覚まして……昨日の記憶をたどり、真っ先に思ったのは恥ずかしいっ!! という猛烈な羞恥心に襲われた。

「おはようございます、起きられたのでしたらまずは水分補給を」

 わたしが起きた気配を察したのか、侍女さんが入って来て真っ先に果実水を押し付けられた。

「昨日はあの後、なにも飲まず食わずで寝てしまったので心配しておりました」

 そう言われて、果実水を口に運ぶと一息で飲み干してしまった。喉が渇いていたみたいだ。

 果実水のお代わりをちびちび飲んでいる(脱水気味のときに水分を一気飲みするのはあまりよくないので、二杯目はゆっくり飲んでくださいと言われた)と、部屋の外が少し騒がしい気がして……

「失礼するわよ! ああ、起きたようね。気分は悪くないかしら? 目は……少し腫れているけど、そう悲惨な顔にはなっていないから侍女達に感謝することね。体調が悪くないなら、後でお前の今後を話し合うわ。そのつもりでいなさい。妹は、手の付けられない動物のような子供を躾けるのが得意なシッターを手配したわ。お前があの妹と離れたくないと思っているなら、一緒に暮らせる部屋を手配するけど。どうするのかも、考えておきなさい。では、わたくし忙しいので失礼するわ。ごきげんよう」

 バン! とドアを開いて部屋に入って来るなり、わたしの顔を覗き込み、サッと頭を一撫でしながら言いたいことを言うだけ言って、王太子殿下は颯爽と出て行かれました。

 ああ、本当に王宮で……というより、王太子殿下に保護されたのだと遅れて実感した。

 妹のことは、基本的に放置でいいだろう。別に、我が家の……わたし限定のギャングみたいなあの子の顔を見なくても寂しいともなんとも思わないし。気になったときに、躾の進捗具合を聞けばいい。

 まずは……忙しいとの言葉通りに、忙しいはずなのにわざわざわたしのことを気に掛けてくれた未来の女王陛下に、どうしたら――――あの、お花畑の毒親共を排除してくれた上、わたしと妹にまで慈悲を掛けてくれた、この大きな恩を返せるかを考えることにしよう。

 ――おしまい――

✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


 読んでくださり、ありがとうございました。

 なんか、搾取子と愛玩子のどちらが憐れなんだろうなぁ? と、ふと疑問に思ったら……

 某女王様が頭の中で、「そんなの、愛玩子に決まっているでしょ! 人間扱いをされずに育つ、恥を恥とも思わない人間が一等憐れに決まってるわ! 奴隷扱いされている搾取子は主人(親)がいなくても生きていけるけど、愛玩動物は飼い主(親など)がいなくなれば生きていけないもの。別の飼い主が現れれば別だけど。それに、愛玩動物を愛玩できるのは、余裕があるときだけ。余裕を無くせば、ペット扱いの子なんて簡単に切り捨てられるのよ!」( ・`д・´)

 と、力強く主張されたので。

 書いてる奴的には、人間として憐れなのは愛玩子。けど、つらくて苦しくて痛ましい思いをするのは、搾取子の方かな? と。(´・д・`)

 ちなみに、某女王様は『わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。』の色んな意味で女王様の方です。王太子になって数週間後の話。(*ノω・*)テヘ

 こっちの主人公ちゃんが若干口悪いのは、親がアレで使用人達に構われて育ったからです。

 感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。

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みんなの感想(4件)

さごはちジュレ
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相馬ユキ
2025.11.23 相馬ユキ
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コゲツ
2025.11.22 コゲツ
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