王太子殿下主催のお茶会で被虐待児とされて、憐れみと慈悲を掛けられました。

月白ヤトヒコ

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お前達は、虐待を受けているようね。差し詰めお前は搾取子で、そこの足りない娘が愛玩子と言ったところかしら?

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 と、お礼を言ってお茶会の会場に戻ったのだが――――

 わたしは、お花畑共の粗相が気になるあまり、失念していた。

 会場へ戻るなり、

「ああっ!? お姉様ズルい! あたしに黙って、そんな素敵な新しいドレスに着替えに行ってたなんてヒドい! そのドレスちょうだい!」

 大声を上げた妹がずんずんと大股でわたしに向かって来た。

 そうだった……王太子殿下のご厚意で、体調を気遣って頂いたばかりか、新品? と言っても差し支えないドレスにお色直しまでさせて頂いたんだった。

 新しい、ドレスだ。しかも、今のわたしはいつもよりも美女度が五割り増し。ズルいズルいと鳴き喚いて、わたしの物を奪って行く妹が反応しないはずがなかった!

「そうよ、そんな上等なドレスはあなたには勿体無い。さっきまで着ていたドレスはどうしたの? 前のドレスに着替えに行きますよ。早くなさい」

 母は、妹の発言に驚いた顔をしていたと思っていたら……どうやら違ったらしい。

「そうよそうよ、早く脱いであたしにちょうだいよお姉様!」

 と、妹がわたしの袖を引き始めた。周囲の人達はドン引き。会場にいる親族は顔面蒼白でこちらを見ている。ビリ! っと、袖から嫌な音がしたとき、目の前を美しいレースが通り過ぎて行くのがスローモーションで見えた。

「ぎゃんっ!? ちょっ、な、なに? 痛っ!?」

 妹の額に、白い繊細なレースの施された扇子がスコン! と命中してぽとんと落ちた。

「わたくしのお茶会で、見苦しい真似をしているのは一体どういう了見なのかしら?」

 先程は笑みを含んでいた玲瓏な声が、冷ややかに掛けられた。

「ひっ! も、申し訳ございません。出来の悪い娘が騒ぎを起こしまして……ほら、あなたが原因なんだから、あなたも謝罪しなさい!」

 と、母が引き攣った顔でわたしの頭を強く押さえ付けた。乱暴にされ、更に袖口が破れて行く音が響く。まあ、騒ぎの原因と言えなくもないけど……この人は、こんなときでも妹を贔屓して頭を下げさせないのか、と。場違いにも感心してしまった。

「もうっ、お姉様が避けたせいであたしが痛い思いをしたじゃない! あ、でもでも、この扇子可愛いから許してあげる。誰かが要らないって放り投げたんでしょ? なら、拾ったあたしがこれ貰ってもいいよね?」

 ムッとした顔で額を押さえ、芝生に転がっている扇子を拾い上げて笑顔を浮かべる妹に、またしても場が凍り付いた。

 自分が主催者の王太子殿下の怒りを買っているとは、微塵も思っていない……というか、全く理解していない様子だ。愚かにも程がある。

「……なんて、憐れな」

 先程まで無表情に、けれど確りと怒りが判る視線を向けていた王太子殿下の、落ち着いた声が響いた。

「お前達は、虐待を受けているようね。差し詰めお前は搾取子で、そこの足りない娘が愛玩子と言ったところかしら?」
「え?」

 驚いて顔を上げると、

「この会場で一番愚かで、一番恥知らずで、一等憐れなのは、その娘ね。なにせ、愛玩されているのだから。親に人間扱いすらしてもらえず、ペットのように野放図に育てられ、人間としての躾も受けさせてもらっていない。だから、王宮のこの場、王族わたくしの前で動物並みの言動しかできない。恥を恥と思うことすらできない恥知らず」

 憐れむような視線が妹へ向けられていた。 

「お前達二人は、可哀想だからわたくしが保護してやるわ。我が家門の末席に連なる家の娘だもの」

 憂いげに首を振る麗しいかんばせが告げた。

「当主は現時点を以て交代。後任は、わたくしが親族内で適任者を見繕って決めるわ。お前達夫妻は、とっとと帰宅し、荷物を纏めて出て行きなさい。別荘は取り上げないでやるから、好きな屋敷にどこへなりとも行くがいいわ」
「え? あ、あの?」
「王太子殿下っ!? い、一体なにをっ!?」
「あら? 今告げた通りだけど? 一度で理解できないとは。さすがは、キーキー煩く喚くしか能の無い子猿を育てた者達と言ったところかしら? 連れて行きなさい」

 王太子殿下が呆れ顔を隠しもせずに腕を振ると、衛兵がギャンギャン喚く両親の両脇を取って強制連行して行った。

「お前達は、別室へ。さあ、つまらない余興だったわね。お茶会を再開するから、楽しんでいらして?」

 パンパン! と手を打つ音で、わたしと、なにが起きているのかよく判っていないという顔の妹が侍女さん達に連れられて別室へ案内された。

「ねえ、お姉様。あたしもこれからお着替えするの? それならあたし、お姉様よりもっと可愛いドレスが着たいわ」

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