8 / 179
ヴァンパイア編。
8.誘拐はさすがにどうかと思うよ?
しおりを挟む主人公気絶中。この話から、キャラの視点が切り替わりながら進んで行きます。
__________
「お帰りー…って、君達。あのね、幾ら俺らが海賊でも、誘拐はさすがにどうかと思うよ?」
帰って来た仲間を出迎えると、拐われた仲間のカイルをヒューが背負い、そしてミクリヤが気絶している…プラチナブロンドの長い髪を後ろで括った綺麗な子を、お姫様抱っこしていた。
「これは・・・不可抗力だ。怪我をしているから連れて来た。本人曰く、右腕にヒビが入っているらしい。さっさと診ろ。ジン」
不機嫌に言うヒュー。
「ヒビねぇ…」
見れば、その右腕は透明な氷に覆われている。不思議なことに、氷は全く溶ける様子が無い。軽く触れてみるが、冷たいのに水滴が全く付かない。それに、この匂いは…
「…この子、もしかして昨夜の子か?」
昨夜、いい匂いをさせていた女の子と、同じ匂いがする。
「昨夜? お前、コイツを知ってンのか? ジン」
「うん。昨夜…っていうか、今日の朝方になるかな? 賞金首を捕まえるって頑張ってた子だよ。女の子なのに大変だろうと思って、手伝ってあげたんだ。勿論、賞金は辞退したよ?」
「・・・いや、別にンなこた聞いてねぇって…待て、ジン。今、なんか聞き捨てならないことを言わなかったか? コイツが、女?」
「うん? どこからどう見ても、可愛い女の子でしょ?」
光の加減で金色にも銀色にも見える長いプラチナブロンド、白磁の肌に長い睫、閉じた瞳は何色なのか…整った顔立の、とても綺麗な女の子だ。まあ、格好は男装だし、見ようによっては綺麗な顔の美少年に見えないこともないかな?昨夜はちゃんと顔を見せてくれなかったし。
「おい、雪路…」
ギロリとヒューの飴色の瞳が緑味を帯びてミクリヤを睨む。
「自分は知らん。コイツは、昔からああだったからな。格好もこういう格好で、本当に昔から変わっていない。性別なんて、全く気にしなかったんだよ」
珍しく苦虫を噛み潰したようなミクリヤ。しかも、口調が素だ。昔から、と言うからには、どうやらミクリヤはこの子を知っているらしい。
「ま、俺の方が君らよりも鼻が利くからね。けど、この子が男じゃないのは確かだよ。で、この子ミクリヤの知合い?」
「幼馴染…のようなものだ」
「へぇ…なのに、女の子だってわからなかったの?」
「・・・最初に逢ったときは、そんなこと気にする余裕なかったからな。ンで、その後は…全く気にしてなかった。つか、コイツの家族とか、兄貴…みたいなヒトが、過保護だった理由が今わかった」
「え?なにミクリヤ、この子と家族ぐるみの付き合い?」
「・・・コイツの姉貴の母親に、昔一時世話になったんだ」
「? この子のお母さんに?」
それにしては言い回しが変だ。
「いや、確か腹違いの姉貴だった筈だから、姉貴の母親で間違っていない。姉貴とコイツ、種族自体が違うからな。姉貴とその母親は、大和のヒトだ」
「ふーん…なんか、複雑そうな事情の子なんだね」
「・・・まあな。ところで、うちの子を返してもらえないか?そうすれば、絲音さんに免じて穏便に済ませてやる。さもなくば…殺す」
いきなり割り込んだのは、低く凄みのあるハスキーな声。そして、いつの間にかミクリヤの背後に大きな人影。少女を抱くミクリヤの首筋にピタリと当てられている匕首。滲むのは、薄氷のような鋭い殺気。
「なっ!? 誰だっ!!」
ヒューの問い掛け。とはいえ、ヒューはカイルを背負ったまま。下手には動けない。そして、俺も動く気はない。このヒトは知らないが、この匂いは知っている。
「誰だ、とは挨拶だなぁ? うちの可愛い子を拐っといてよぉ?」
オレンジに近い鮮やかな短い金髪、深緑の瞳。よく日に焼けた二メートル近い巨躯の偉丈夫。大きな身体だというのに、愚鈍さは欠片も感じない。ニヤリと笑う口元には鋭い犬歯が覗く。
「うちの子、ですか? 狼ではない子を」
このヒトは・・・
「んん? ああ、銀色ンとこのガキか」
「ええ。初めまして、金色の狼」
人狼のヒトだ。スティング・エレイス。金色の毛の狼でもあり、ある意味とても有名な…エレイスを束ねる頭領でもあるヒト。
「応。この子はうちの養い子だ。種族は関係無ぇよ」
「・・・ミクリヤ。彼女を渡した方がいい」
「ジンっ!? だったら、せめて手当てくらい」
「ヒュー」
ヒューの言葉を遮り、首を振る。
「・・・どうもレオンさんが近くいないと思っていたら、あなたでしたか。覚えてはいないと思いますが、お久し振りです」
ミクリヤが少女を差し出し、スティングへと受け渡す。
「ほう…愚息を知ってンのか? ま、残念ながら俺の方は覚えてはねぇな。だが、口振りからすると…昔世話したガキってとこか?」
スティングは匕首を構えたまま片腕で器用に少女を抱えると、片手で匕首を鞘へと納めながら言う。
「ええ。その節は大変お世話になりました。感謝しています」
「…ミクリヤ、知り合い?」
「まあな。昔、捕まっていた地下闘技場から助けてもらったんだ。つか、そこでアルと知り合ったというか・・・」
「ああ…そんなこともあったな」
「いや、待って! 地下闘技場って、この子が? そんな場所にいた子なんですか? この子は」
「いやぁ、昔…クズな身内に嵌められてちょっとな? この子助けるついでに、幻獣のガキ共を捕らえて地下闘技場で闘わせる組織を潰したことがあったな」
「…色々と突っ込みどころ満載ですが、その子は一体?」
「ん? 俺の可愛い娘だ」
ニヤリと笑うスティング。
「それに…そうだな? うちに武器提供をしているダイヤ商会の株主。よかったなぁ? 俺が近くにいなければ、この子を取り戻す為に、エレイスが総出で手前ぇらを潰しに来てたぜ?」
ざわりと、寒くなる背筋。エレイスの名は、始末屋としても有名だ。
「なっ!?」
しかし、
「…んだと…ダイヤ商会の従業員どころか、株主だとっ!?!? 経営者じゃねぇかっ!!」
喜色の滲む驚きの声を上げるヒュー。全く、見境の無い刀剣マニアめ。
「いんや、株持たされてンなぁ、身内のコネ…というか、我が儘みてぇなモンだからな。この子は経営にはあまり関わってねぇよ」
「…この子は、お嬢様ということでしょうか?」
「そうなンじゃねぇか? 俺らの養い子で、エレイスのお得意先の株をやり取りできる奴が身内にいる。条件だけを見ると、充分にお嬢様だろ?」
「・・・それを俺らへ告げて、なにをさせたいんですか?」
「ククッ…察しのいい奴は嫌いじゃねぇぜ?」
低く笑うスティング。
12
あなたにおすすめの小説
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる