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ヴァンパイア編。
35.掃除の邪魔なんだけどっ!?
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ふっと、覆い被さるシーフに、気付いた。
「あ、ヤベ。吸い過ぎた」
くたり・・・というか、寝息を起ててオレに凭れ掛かるシーフへのエナジードレインを中止し、治りかけている傷痕の血を舐め取る。
ヤバい。ちょっと・・・いや、やっぱり本当に加減が利かなかった。
血はあんまり飲んでいないから、エナジードレインでの気絶・・・だろうか?
コイツは、普段から場所なんか関係無く、いきなり寝落ちするから判り難いんだよなぁ。
シーフをベッドへ寝かせ、毛布を掛ける。必要無いのは判っているが、気分だ。いや、やっぱり頭から掛け直して、着替えよう。
「さて、どうするか・・・」
認めるのは癪だが、シーフに強制的に寝かされ、血液とエナジードレインとを供されたお陰で、体調がいい。…割と、気分もすっきりしたし。
・・・強制的に寝かされたのはムカつくけど。
言いたくはないが、コイツの血は美味しい。あと、すごく飲み易い。魔力とかの問題以外にも、精神的な意味でも、非常に飲み易い。
なんというか、ハードルが低いのだ。
傷付けることへの抵抗…忌避感が薄い。
オレは…シーフのことを、物理的になら、傷付けてもいい相手だと認識している。
シーフの血は、オレが好きに飲んでもいいモノ。シーフの精気はオレが好きに奪っていいモノ。
我ながら、酷い言い種だと思う。けれど、オレは真実、そう思っている。
リリは、オレが望めばシーフのように血や精気を分け与えてくれるだろう。おそらくは際限無く。けれど、オレにとってリリは、傷付けたくない相手。
養母さんやレオは、オレに血や精気を分け与えてくれる相手。オレが強請れば、無条件で与えてくれる上位の相手という認識。
シーフとは違う。
おそらく、実力的にはシーフの方がオレよりも強いだろう。だけど、精神的には、オレが優位に立っている。シーフはオレの下なのだ。
この辺りは、狼の家で育ったからだろう。明確なランク付けというか・・・
シーフは、オレの下位に位置する。だから、シーフのモノはオレのモノ。そして、シーフの面倒も、オレが見るもの。そういう認識をしている。
シーフも、そう思っているようだし。
※※※※※※※※※※※※※※※
アルとアルの弟だというシーフと二人が部屋に籠って三日。寝ていたというアルが起きて来たかと思ったら、今度はシーフが寝たらしい。
それから、更に数日。
「なんっなのっ!? このヒトはっ!?」
甲板やら廊下、食堂はまだわかるよ?けどさ、階段の途中や手摺に引っ掛かってるってどういうことっ!? なんでそんな変なとこで寝てるワケっ!? なんでその体勢で寝てられんのっ!? 本っ気で信じらんないんだけどっ!?
「ちょっとアンタっ、掃除の邪魔なんだけどっ!? いい加減起きなよねっ!?」
ぐてーっと床にだらしなく寝そべり、微動だにしないアラブ風な男を怒鳴り付ける。
最初は驚いてアルを呼んでいたが、あまりに頻度が多いので、「適当に踏んでいいから」と言われた。そのときには、「そういうワケには行かないでしょ」って答えたんだけどねっ!?
これはもう、アルの言った通り、踏んでもいいんじゃないかって気分になって来る。
起きないし、退かないし、動かせない。
本っ当、邪魔!!
「・・・」
そして、この無反応がまた頭くるしさっ!?
・・・無視じゃなくて、本当に寝てるんだよね? 無視だったら、かなり質《たち》が悪い。
「起ーきーろーっ!?」
「・・・ん…ぅ? あと、十…五・・・時間・・・」
「はあっ!?!? 三分でも図々しいのに、十五時間なんて待つワケないでしょっ!? 起きろっ!!」
「・・・」
そしてシーフは溜息と共に、あろうことか、転がった。ごろごろと、僕が掃除を終えたエリアに。そして、数秒後にはもうすやすやとした寝息。
「~っ!? 起きろって言ってんだよっ!?」
アルがシーフをアホ扱いする理由がよくわかった。
どうにかこうにか起こして、話をする。
「あのさ、寝るんなら部屋で寝なよ」
「・・・部屋、追い出された。アルに・・・謎」
眠たげな瞳と声で、コテンと首を傾げるシーフ。しかし、どこも全く、謎じゃないのは明白だ。一応アルも女の子なんだし、追い出すのは当然だ。
「他にも空いてる部屋あるんだから、そういう部屋で寝なよ。床とか…手摺に引っ掛かって寝るなんていう意味不明でアクロバティックな寝方なんかより、その方がずっといいと思うよ?」
その方が身体にも優しいと思う。
「っていうか、あんな信じらんない寝方して、身体痛くないワケ?」
「? …痛く、ない…」
「マジでっ!?」
「ん…」
「って、そうじゃなくて! 寝るときは、どこか空いてる部屋に行って寝てよ」
「・・・無理…」
「は? なに? 移動するのも面倒だとか言うワケ?」
「ん。それも、ある。けど…食堂、とか廊下…アルの部屋。以外、入れない…から?」
「はあっ? なにそれ? 場所がわかんないとか?」
全く、なにこの世話の焼けるヒト…仕方ないな。
「ほら、立って。行くよ」
「?」
きょとんとするシーフへ手を差し伸べる。
「ほら、行くよってば!」
驚いたように僕の手を見詰めるエメラルド。
「・・・なんで、手?」
「は? アンタが鈍くさそうだからだよ」
「…熱い。って、思わない?火傷・・・とか?」
「は? なに言ってンの? アンタ普通にアルにべたべたしてンじゃん。アルは鬱陶しそうにしてるけど、どこも火傷してないし。それともなに? あれ、実はアルに火傷させてたワケ?」
「そんなことっ、してない…!」
シーフにしては、強い否定の言葉。もしかしたらこれ、昔にやっちゃった系? アルに、火傷させたことがあったり…? まあ、聞かないけどさ。
「そう。ほら、いい加減立ちなよ?」
僕の手を見詰めるエメラルド。おずおずと差し出される蜜色の手を取る。と、
「…ありが、と…」
仄かにシーフが微笑んだ。なんだ、眠たいだけじゃない普通の顔もできるじゃん。ヤバい、照れる。
「べ、別にっ」
そして、シーフの手を引いて近くの空いてる部屋へ入ろうとした…ら、シーフだけが入れなかった。入ろうとすると、弾かれる。
「は?」
「ん…入れない…」
「いや、待って! 意味わかんないから!」
「・・・船の主…が、許可。してない、から? ・・・リリアンの、船。でも、行動…制限される…」
「へ? は? アマラに、ってこと?」
「? …多分?」
「なんで? なんかした?」
ゆるゆると首を振るシーフ。
「…水…属性の、ヒト。には、よく…嫌われる…」
「はあ? なにそれ?」
「…リリアンも、言う。船、燃やされたら嫌…って」
「・・・僕、ちょっとアマラに頼んで来るから、ここで待っててっ!?」
・・・とは言ったけど、結局駄目だった。アマラからの返事は無し。
シーフに謝ろうとして戻って来たら、寝てた。
そして、起きないし!
だから、代わりにアルに言うと・・・
「気にしなくていいよ。コイツ、本っ当にどこででも寝るから。地面とか、雨風も雪も、雷が落ちても、全く関係無く寝続けられる奴だから」
「や、さすがに雷はウソでしょ?」
「さあ?」
アルが薄く微笑む。その顔は、全く似てない筈なのに、どこかシーフの微笑んだ顔と似てた。やっぱり、姉弟…なのかな? 全く似てないのにさ。
「あ、ヤベ。吸い過ぎた」
くたり・・・というか、寝息を起ててオレに凭れ掛かるシーフへのエナジードレインを中止し、治りかけている傷痕の血を舐め取る。
ヤバい。ちょっと・・・いや、やっぱり本当に加減が利かなかった。
血はあんまり飲んでいないから、エナジードレインでの気絶・・・だろうか?
コイツは、普段から場所なんか関係無く、いきなり寝落ちするから判り難いんだよなぁ。
シーフをベッドへ寝かせ、毛布を掛ける。必要無いのは判っているが、気分だ。いや、やっぱり頭から掛け直して、着替えよう。
「さて、どうするか・・・」
認めるのは癪だが、シーフに強制的に寝かされ、血液とエナジードレインとを供されたお陰で、体調がいい。…割と、気分もすっきりしたし。
・・・強制的に寝かされたのはムカつくけど。
言いたくはないが、コイツの血は美味しい。あと、すごく飲み易い。魔力とかの問題以外にも、精神的な意味でも、非常に飲み易い。
なんというか、ハードルが低いのだ。
傷付けることへの抵抗…忌避感が薄い。
オレは…シーフのことを、物理的になら、傷付けてもいい相手だと認識している。
シーフの血は、オレが好きに飲んでもいいモノ。シーフの精気はオレが好きに奪っていいモノ。
我ながら、酷い言い種だと思う。けれど、オレは真実、そう思っている。
リリは、オレが望めばシーフのように血や精気を分け与えてくれるだろう。おそらくは際限無く。けれど、オレにとってリリは、傷付けたくない相手。
養母さんやレオは、オレに血や精気を分け与えてくれる相手。オレが強請れば、無条件で与えてくれる上位の相手という認識。
シーフとは違う。
おそらく、実力的にはシーフの方がオレよりも強いだろう。だけど、精神的には、オレが優位に立っている。シーフはオレの下なのだ。
この辺りは、狼の家で育ったからだろう。明確なランク付けというか・・・
シーフは、オレの下位に位置する。だから、シーフのモノはオレのモノ。そして、シーフの面倒も、オレが見るもの。そういう認識をしている。
シーフも、そう思っているようだし。
※※※※※※※※※※※※※※※
アルとアルの弟だというシーフと二人が部屋に籠って三日。寝ていたというアルが起きて来たかと思ったら、今度はシーフが寝たらしい。
それから、更に数日。
「なんっなのっ!? このヒトはっ!?」
甲板やら廊下、食堂はまだわかるよ?けどさ、階段の途中や手摺に引っ掛かってるってどういうことっ!? なんでそんな変なとこで寝てるワケっ!? なんでその体勢で寝てられんのっ!? 本っ気で信じらんないんだけどっ!?
「ちょっとアンタっ、掃除の邪魔なんだけどっ!? いい加減起きなよねっ!?」
ぐてーっと床にだらしなく寝そべり、微動だにしないアラブ風な男を怒鳴り付ける。
最初は驚いてアルを呼んでいたが、あまりに頻度が多いので、「適当に踏んでいいから」と言われた。そのときには、「そういうワケには行かないでしょ」って答えたんだけどねっ!?
これはもう、アルの言った通り、踏んでもいいんじゃないかって気分になって来る。
起きないし、退かないし、動かせない。
本っ当、邪魔!!
「・・・」
そして、この無反応がまた頭くるしさっ!?
・・・無視じゃなくて、本当に寝てるんだよね? 無視だったら、かなり質《たち》が悪い。
「起ーきーろーっ!?」
「・・・ん…ぅ? あと、十…五・・・時間・・・」
「はあっ!?!? 三分でも図々しいのに、十五時間なんて待つワケないでしょっ!? 起きろっ!!」
「・・・」
そしてシーフは溜息と共に、あろうことか、転がった。ごろごろと、僕が掃除を終えたエリアに。そして、数秒後にはもうすやすやとした寝息。
「~っ!? 起きろって言ってんだよっ!?」
アルがシーフをアホ扱いする理由がよくわかった。
どうにかこうにか起こして、話をする。
「あのさ、寝るんなら部屋で寝なよ」
「・・・部屋、追い出された。アルに・・・謎」
眠たげな瞳と声で、コテンと首を傾げるシーフ。しかし、どこも全く、謎じゃないのは明白だ。一応アルも女の子なんだし、追い出すのは当然だ。
「他にも空いてる部屋あるんだから、そういう部屋で寝なよ。床とか…手摺に引っ掛かって寝るなんていう意味不明でアクロバティックな寝方なんかより、その方がずっといいと思うよ?」
その方が身体にも優しいと思う。
「っていうか、あんな信じらんない寝方して、身体痛くないワケ?」
「? …痛く、ない…」
「マジでっ!?」
「ん…」
「って、そうじゃなくて! 寝るときは、どこか空いてる部屋に行って寝てよ」
「・・・無理…」
「は? なに? 移動するのも面倒だとか言うワケ?」
「ん。それも、ある。けど…食堂、とか廊下…アルの部屋。以外、入れない…から?」
「はあっ? なにそれ? 場所がわかんないとか?」
全く、なにこの世話の焼けるヒト…仕方ないな。
「ほら、立って。行くよ」
「?」
きょとんとするシーフへ手を差し伸べる。
「ほら、行くよってば!」
驚いたように僕の手を見詰めるエメラルド。
「・・・なんで、手?」
「は? アンタが鈍くさそうだからだよ」
「…熱い。って、思わない?火傷・・・とか?」
「は? なに言ってンの? アンタ普通にアルにべたべたしてンじゃん。アルは鬱陶しそうにしてるけど、どこも火傷してないし。それともなに? あれ、実はアルに火傷させてたワケ?」
「そんなことっ、してない…!」
シーフにしては、強い否定の言葉。もしかしたらこれ、昔にやっちゃった系? アルに、火傷させたことがあったり…? まあ、聞かないけどさ。
「そう。ほら、いい加減立ちなよ?」
僕の手を見詰めるエメラルド。おずおずと差し出される蜜色の手を取る。と、
「…ありが、と…」
仄かにシーフが微笑んだ。なんだ、眠たいだけじゃない普通の顔もできるじゃん。ヤバい、照れる。
「べ、別にっ」
そして、シーフの手を引いて近くの空いてる部屋へ入ろうとした…ら、シーフだけが入れなかった。入ろうとすると、弾かれる。
「は?」
「ん…入れない…」
「いや、待って! 意味わかんないから!」
「・・・船の主…が、許可。してない、から? ・・・リリアンの、船。でも、行動…制限される…」
「へ? は? アマラに、ってこと?」
「? …多分?」
「なんで? なんかした?」
ゆるゆると首を振るシーフ。
「…水…属性の、ヒト。には、よく…嫌われる…」
「はあ? なにそれ?」
「…リリアンも、言う。船、燃やされたら嫌…って」
「・・・僕、ちょっとアマラに頼んで来るから、ここで待っててっ!?」
・・・とは言ったけど、結局駄目だった。アマラからの返事は無し。
シーフに謝ろうとして戻って来たら、寝てた。
そして、起きないし!
だから、代わりにアルに言うと・・・
「気にしなくていいよ。コイツ、本っ当にどこででも寝るから。地面とか、雨風も雪も、雷が落ちても、全く関係無く寝続けられる奴だから」
「や、さすがに雷はウソでしょ?」
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